バンドを組むまでのあれこれや、登場人物が直面する悩み、試練などは、たしかによくある話かもしれない。だけどその「ふつう」っぽさが多くの共感を呼んでいる本作『ふつうの軽音部』。原作担当のクワハリさんが、投稿サイト「ジャンプルーキー!」に投稿した作品がプロトタイプとなっている。
「ふつう」であることの尊さを描くガールズバンド青春譚!
「軽音部のマンガはいろいろありますが、大人数の軽音楽部を題材にしたものって意外とないなと思ったのがきっかけになっています」
渋めの邦ロックを愛する鳩野ちひろは、高校入学と同時に憧れのギターを手に入れ、軽音部に入部する。ギター初心者なうえ、どちらかというと引っ込み思案な鳩野は、新入部員が45人もいるにもかかわらず、バンドの組み方がわからない。優しく声をかけてくれる人、拙い演奏を鼻で笑う人、早速チヤホヤされている人など、個性豊かな同級生が彼女の心を揺さぶってくる。
「鳩野の最初のイメージは、自分は音楽に結構詳しいし、遊びで入ってきた人とは違うと思っているような、プライドだけは高めだけど実力が全然伴っていない頭でっかちなタイプでした。物語が進むにつれ、意外と努力家なところも見えてきたりして、主人公らしさを徐々に獲得してきた気がします」
鳩野は当初、寄せ集めのメンバーでバンドを組むことになるのだが、大人数の軽音部が面白いのは、人間関係の縮図になっているところ。
「恋愛や友情にヒビが入ってバンドがあっけなく解散したり、あぶれた者同士が新しいバンドを組んだりっていう軽音部ならではの展開は、描きたいところではありました」
やがて鳩野はひょんなことから、コンプレックスだった声に注目されるように。その過程とともにバンドメンバーも大きく入れ替わり、さまざまなキャラクターの表面的にはわからなかった素顔も描かれる。
「作品のテーマは、あくまでも“しょぼい戦い”なんです。たとえばカラオケで声をからかわれたことがトラウマになってるとか、文化祭でどっちのバンドがトリを取るとか、日常にあるようなスケールの出来事に必死になっているのがいいなと思っていて。逆にどんどん成り上がっていくような話ではないので、そのなかでテンションをどう持続させるかは難しいところではあるのですが」
等身大の青春なのにというか、だからというか、妙にまぶしくて、ほほえましくて、ドラマティックすぎない成長が愛おしくなる物語だ。
原作・クワハリ漫画・出内テツオ『ふつうの軽音部』3公園での弾き語り修行を経て迎えた新学期。メンバー探しの旅はまだまだ続く。次のターゲットは、鳩野の歌を小バカにした女子!?9月4日発売。集英社770円©クワハリ・出内テツオ/集英社
クワハリコロナ禍中にマンガを描き始め、「ジャンプルーキー!」に「ふつうの軽音部」を投稿。出内テツオ氏を作画担当に迎え同名作で商業誌デビュー。
※『anan』2024年9月4日号より。写真・中島慶子インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)
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