【写真】唐田えりかが雄叫びを上げながらサソリ固めを決める…長与千種が乗り移ったかのようなリング上のシーン
80年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描く、Netflixシリーズ「極悪女王」が、9月19日から世界独占配信されている。
企画・脚本・プロデュースを鈴木おさむ、総監督を白石和彌が務める本作は、ダンプの知られざる物語を描く半自伝ドラマ。ダンプをゆりやんレトリィバァが体当たりで演じた他、長与千種役で唐田えりかが、ライオネス飛鳥役で剛力彩芽が出演している。
落ちこぼれとしてスタートしながらスターの階段を駆け上がる長与を演じた唐田と、プロレススーパーバイザーとしても本作に参加した長与千種本人の対談が実現。互いにレスラー・長与、俳優・唐田の印象を語ってもらった他、唐田が実際に丸刈りとなって再現した伝説の「敗者髪切りデスマッチ」の撮影の裏話などを聞いた。
■唐田えりか、オーディションで長与千種役を志願
――唐田さんは、女子プロレスラー役の12人のオーディションから長与千種さん役を志願したそうですね。
長与:えっ、そうなの!?知らなかった。
唐田:そうです。長与さんの過去のインタビュー記事をたくさん調べていくうちに、強くならなきゃいけなかったという部分が、自分の思いとリンクしたんです。当時の動画を見たとき、やられた後の立ち上がり方が格好良くて、心を動かす人だなって。こんなに魅力的な人を演じたいと思いました。
長与:書いときます、ちゃんと(メモを取るジェスチャー)。
唐田:あはははは(笑)。
長与:あのころはどんな選手だったか自分では分からないけども、普通が嫌だったし、チャンスは与えられないから自分で作るもんだって思ってた。そのためには人の心の中に入って、根付いていきたいっていう気持ちはあったかな。18歳から19歳のころ、若いながらも考えていた。
唐田:すごい!私は17歳のときに地元のマザー牧場でアルバイトしていて、そこでスカウトしていただいて今の事務所に入ったんですけど、お芝居のレッスンが始まって、だんだんしんどくなってしまって…。
芝居の楽しさが分からなくて悩んでいたときは、家に帰った瞬間に泣いてしまうぐらい追い込まれて、かなりギリギリの状態。当時のマネジャーさんに「二十歳になってもこのままだったら辞めようと思います」って言ったんです。長与さんとは全然違う。その後に「寝ても覚めても」(2018年)という映画が決まって、濱口竜介監督に出会って、芝居に対しての考え方が変わってきました。
■唐田えりかは「負けず嫌いだから長与千種を演じられた」
長与:最初の頃はいつも泣いていたっていうのは今初めて聞いたけど、それはちょっと弱かっただけだよ。目で語るっていうのはプロレスラーにとって最大の武器だけど、(唐田は)それができていたし、本質の部分はすっごい負けず嫌い!負けず嫌いって弱さと共存してるから、そのころは弱さがちょっと出ていただけだよ。負けず嫌いの部分をしっかり持っていたからこそ、あのころの長与千種を演じられたんだと思う。
唐田:いやー、泣きそうです(瞳に涙をためる)。
長与:途中からはもう、若いころの自分にしか見えなかったもん。
唐田:(こぼれる涙を拭きながら)…ありがとうございます。
長与:彼女は彼女の良さを知らないと思ったから、いつも「唐田えりかはすごいって知らないの?」って伝えていた。過大評価できるぐらい、自己肯定できる人間に変えたかった。
唐田:自己肯定が低い人間ではないと思っていたんですけど、「極悪女王」をやらせていただいて、もちろん楽しさもたくさんあったんですけど、いろんな面が大変で。でも、乗り越えられたのが大きな自信になっていて、いまはこの先、なんでも乗り越えていけます。初めて胸を張って自分の代表作と言えるものができた気がします。
長与:(長与の得意技である)フライングニールキックができないと、泣くんだから。自分だってニールキックをやれるまでに足を手術して、そこまでしないと飛べないほど難しいのに、彼女は高さを出した上で、相手にしっかり当てたかったんだろうね。泣くんだもん。そのとき飢えた目をしていて、ゾクゾクしたよ。
■丸刈りの撮影は「逃げちゃいそうな自分がいた」
――長与さんは1985年8月28日に大阪城ホールで行われた敗者髪切りデスマッチで敗れて、丸刈りになりました。唐田さんが受けたオーディションは、自毛を剃ることが条件だったそうですね。
唐田:そうです。だから、覚悟をしていましたけど、そのシーンを撮る日になると怖さが出てきてしまって、逃げちゃいそうな自分がいました。
長与:そりゃ、逃げたくもなるよね。みんなピリピリしているし、バリカンを入れちゃたらもう止めることはできない一発撮りだから。現場で「なんかあったら止めて」「修正するから」とかのやり取りがあったのを彼女も聞いているから、怖さは増したと思う。
唐田:あの日は事務所の社長や鈴木おさむさん、ダンプ松本さんや長与さんもいてくださって、「パワーをください」と、皆さんに握手してもらってからリングに上がったんです。改めて自分は1人じゃない、1人ではここまで来られなかったって感じて、覚悟と思いをリングにぶつけました。
長与:女性が女性に対して「格好良い」とか「ホレる」という感情が出るほど、あのシーンには潔さがあった。あれで、自分の物語が完結したね。
■唐田えりかに長与千種から称賛&エール「もっとうぬぼれてほしい」
――39年前、長与さんはどんな思いでリングに立っていたんですか?
長与:怖かった。逃げたかった。こっから扉1枚を開けたら外に出られるから、逃げたらどれだけ楽かと思った反面、そう思う自分が嫌だった。そりゃ、そうだよね。女の子が髪の毛を短く切ることはあっても、坊主になることはないから。でも、(唐田は)似合っていて良かったよ。
唐田:あはははは(笑)。いえいえ。
長与:刈られた後に彼女の頭を触ったんだけど、泣けるぐらい感謝したね。よくここまで挑んでくれたって。
唐田:触ってくださっていたとき、ダンプさんと一緒に泣いていましたよね。それで私も泣いちゃいました。
長与:そうだね。(プロレス指導から)2年ほどは近しい存在になっていたから。
唐田:作品を通じて、強くなれたような気はしています。せりふで、(長与の出身の九州なまりで)「うちらは強くなるしかなか」とか「強くなれたとやろか」とか、強さという言葉が何度か出てきて、自分自身に問いかけていました。
レスラーってリングの上で闘って、すごく格好良いし、強い女性に見えるんですけど、日々いろんなことが起こる中で崩れちゃいそうになることもある。試合のシーンでは、「受け身をちゃんと取れるかな?」とか不安があったんですけど、リングに立ってしまえば強い者であるしかなかった。長与さんの前で言うのは恥ずかしいですけど、「私は長与千種だ!」という思いで試合をすればするほど、一つになれた気がして、成長できたのかなって。
長与:できたと思うよ。挑んでくれた女優さんたち全員に圧倒されたし、女の底力は捨てたものじゃないって再確認させられた。女優さんたちがリングで痛みや苦しみ、うれしさや喜びを表現しているところを見たとき、女の力ってすげぇなと思ったし、この作品を見た方はその力に触れることができると思う。
だから、(唐田は)素晴らしい女優としてもっとうぬぼれてほしい。大物と言われる女優さんはいっぱいいるけど、プロレスに挑戦していく女性はなかなかいないんだからさ。
唐田:(目を潤ませて)あっ、また泣いちゃいそうです。
◆取材・文=伊藤雅奈子
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