長い2カ月のバカンスが終わった。フランスではまだ休み足りないと思う人も多い中、新年度初のミーティングがヴァンセンヌの城で開催された。9月の第1週はまだバカンス中の人も多く、集まった台数はいつもより少なめ。長袖を着て歩いていると少し肌寒いぐらいの9月の週末だ。天気は良く、気持ちの良い初秋の空気が漂う中、会場の奥に足を進めると、いつもとは違う光景が広がっていた。黒いボディの車が2列に整然と並んでいる。それはシトロエン・トラクシオン・アヴァンだった。この日の特別参加は、フランス国内に千人以上のメンバーを持つ「La Traction Universelle」という、トラクシオンに特化したオーナーズクラブ。約40台のトラクシオンが集結したのである。
【画像】見渡す限りトラクシオン・アヴァンが並ぶ様子は威圧感があり、まさに圧巻!(写真28点)
「トラクション・アヴァン」という名前は、フランス語で「前輪駆動」を意味する。その名の通り、世界初の市販前輪駆動車であり、シトロエンが常に最先端を追求していた象徴的なモデルだ。1934年から1957年まで、第二次世界大戦を挟んで20年以上にわたり大きな変更もなく生産された、フランスで愛された車のひとつである。正確には一時的に生産が中止されたが、戦後には再び生産が再開された。戦前のスタイルがそのまま戦後に引き継がれたことも、トラクシオンの魅力のひとつだ。
初期のモデルは7CVで1.3リッターエンジンを搭載しており、その後、1.9リッターの11CVで成功を収めた。さらに、2.9リッター6気筒エンジンを搭載した15 Sixが登場し、高級車として人気を博した。戦後には、後にDSに引き継がれるハイドロニューマティックサスペンションも装備された。また、トラクシオンにはクーペ、カブリオレ、7人乗りのファミリアーレなど、多彩な外観のバリエーションもあった。
会場には、そんなトラクションが一堂に会した。モデルの違いはもちろん、グリルに取り付けられたカーバッジを見るだけでも個性が光っていた。
大人たちがトラクシオンに夢中になる一方で子供たちの注目を集めたのはデ・トマゾ・パンテーラGT5やアルピーヌA110、A310が並ぶスポーツカーのコーナー。日本車も3台登場していた。トヨタのスープラとセリカ、そしてホンダのCR-Xで、シビックはモンレリーサーキットにも参加している車だ。
さらに、可愛らしいシムカ6やフィアット500をベースにしたヴィニャーレ・ガミーネも会場に姿を見せていた。天気が良かったにもかかわらず、バイクの参加はやや少なめだったが、逆に天気が良すぎてツーリングに出かけたのかもしれない。常連のカワサキマッハIIIや古めのBSA B50、懐かしいヤマハFZ750なども見かけることができた。
こうしてバカンスの終わりとともに、オリンピックやパラリンピックも閉幕し、倍増していた公共料金も元の価格に戻った。新年度が始まり、パリは徐々に日常の生活に戻りつつある。このミーティングを皮切りに、再びクラシックカーイベントが活発に始まっていくのだ。
写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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