“花の82年組”北原佐和子、介護の現場で18年アイドル時代の経験が今の活動の支えに

北原佐和子 クランクイン!写真:高野広美

“花の82年組”北原佐和子、介護の現場で18年アイドル時代の経験が今の活動の支えに

10月6日(日) 9:00

1982年に「マイ・ボーイフレンド」でアイドル歌手としてデビューした北原佐和子。その後、女優として活躍を続ける一方、ホームヘルパー2級を皮切りに、介護福祉士、ケアマネジャー、准看護師の資格を取得。芸能活動と介護の現場での実務の二刀流を続けている。そんな北原がこのほど、2冊目の著書となる『ケアマネ女優の実践ノート』(主婦と生活社)を上梓。これまでの歩みや現場で感じた思いを聞いた。

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◆利用者と向き合う中でコミュニケーションの大切さを実感

女優歴42年、介護職歴18年という経歴を持ち、介護の世界でも精力的に活動を行う北原。“北原マジック”とも称される実践的な介護術を分かりやすく詰め込んだ本作では、アイドル、女優として活躍してきた彼女だからこその視点から、介護におけるコミュニケーションの大切さを解説する。忙しくも不安定な女優業に身を置く中で、「人のために何かをしたい」と一念発起し介護の世界に飛び込んだ思いや、初心者でも取り組みやすい実践的なノウハウの数々がたっぷりと収められている。

――北原さんにとって2冊目の著作となる『ケアマネ女優の実践ノート』。本作にはどんな思いを込められましたか?

北原:前作(『女優が実践した介護が変わる魔法の声かけ』)を出版したのが10年前。そちらは三大介護(食事、入浴、排泄)のケアに対する本という感じでした。この10年の間に、認知症の方とも多く関わってきた中で、人と人とのつながりがとても大切だということをしっかり学び感じてきました。人と人とのつながりが今希薄になってきていますよね。今回の本を通して、コミュニケーションの大切さを考えてもらえるチャンスになるといいなと思っています。

――本作の中にも、「コミュニケーション」という言葉が多く出てきますが、北原さんご自身、以前からコミュニケーションには積極的なタイプだったのでしょうか?

北原:こう見えて実はすごい人見知りなんです(笑)。でも、人見知りって人に話しかけてほしくないわけではないんですよね。話しかけてはほしいけど、自分から話しかけるのは弱かったり。人見知りの人や自分の心を閉ざしている方がいたとしても、どこかで介入してほしい部分があったり。自分がそうだから分かるんですけど、人に話しかけてもらえるチャンスがあればいいなと心の中で思っていたりする。誰かに気にかけてもらえているんだと思うと、ホッとしたり安心したりします。なので、目の前にいる相手に対して「今どんな気持ちかな?」と想像力を働かせて、コミュニケーションを取ることの大切さを現場で実感したので、私の経験に基づいたノウハウをお伝えしようと、今回の本にまとめました。

現場でお会いした利用者の方にも頑固な方や、心を閉ざしている方もいらっしゃいました。でもそれは高齢者だからとか障がいをお持ちだからとかではない。心を閉ざすきっかけって、本当にささいなことだったりすると思うんです。そんな状況になってしまったら、それから逃げずにどう向き合っていくかが大切だと思うんです。いけないことをしたと思ったら、「ごめんなさい」と素直に気持ちを伝える。すぐには許してくれなくても、皆さん私たちより経験豊富な方ばかりなので、正直に気持ちを伝えたら分からない人たちではありません。そう私は思います。

◆40代で飛び込んだ介護業界初めての現場では「失敗した」と感じたことも



――読ませていただいて、介護だけではなく、仕事や日常生活にも通ずるようなこともたくさんありました。過去の出来事から「人のために何かがしたい」と思い介護職に踏み出されたとのことですが、実際に始められていかがでしたか?

北原:自分が過去に体験したことが福祉に結び付くところがいくつかあって興味を持ち、ホームヘルパー2級を取りました。取得後、実務で活かそうと30軒くらいの施設に電話をしたのですが、女優業とのダブルワークということもあって、軒並みお断りされたんですね。そんな中最後の1軒に一度来てみなさいと言われたんです。

でも実際に施設に行き、おじいさんおばあさんに注目された時は逃げ出したくなりました。

――アイドルや女優としてたくさんの舞台を踏まれてきた北原さんがですか!

北原:関係ないですよ~(笑)。そこに、大声を上げながらテーブルを叩いている車いすのおばあさんがいたんです。そのおばあさんを見た時には、正直「失敗した」って思いました。でも、30軒連絡してやっとつかんだ機会なので、「失敗した」は許されない。ここにとどまるしかないと思ったのがスタートでした。

その後、現場で働いていく中で生活困窮者の方と触れ合うことが多く、ソーシャルワーカーになりたくて社会福祉士の取得を考えました。でも、それには大学を出ていることが必要で。私は芸能活動を始めるために定時制の高校に転校し、デビューして忙しくなったこともあって卒業できておらず無理だとなりまして。ホームヘルパー、介護福祉士として働く中、利用者の方やご家族と接しているうちに、それぞれの利用者さんに合ったプランの必要性を感じ、そんなプランを立てられるようになりたいと、ケアマネジャーに目を向け始めました。

――さらに、准看護師の資格も取られました。50代になって看護学校に通い資格を取るというのは、体力的にも精神的にもかなりきつかったのでは?

北原:1年目は学校に通いながら仕事もしていたんです。1年目ですでにテストが何教科もすごく細かく分かれていて、毎週毎週テストが続く日々。これ来年は実習も半年ありますし、ちょっと厳しいなと思って。なので2年目は夏休みとかに仕事を集中して、ほかの期間は勉強だけに専念しました。

――その意欲に本当に頭が下がるのですが、子どものころから勉強はお好きだったんですか?

北原:全然!(笑)よくそう聞かれるんですけど、好きか嫌いかで言ったら嫌いでしたね。でも、独学で勉強できるタイプじゃないとよく分かっていたんです。だから、勉強会に参加をしたり、講座に申し込んだりと自分で環境を作っていきました。

――芸能活動の経験が介護の現場で活きることもありますか?

北原:いっぱいありますね。女優っていうのは、先輩の芝居を徹底的に見なさいって言われるんです。中村玉緒さんとご一緒だったときには、上手や下手の舞台袖から毎日見ていました。なので介護の仕事をすることになって、現場で先輩たちのケアや利用者さんとの接し方を見て学ぶ、見て盗むことが自然とできました。先輩たちだけじゃなく、利用者さんの表情から何かを感じ取るというところも、女優の経験が活きていると思います。

◆ファンの笑顔が見たいアイドル時代の思いが介護に臨む姿勢の原点に



――アイドル時代のお話も伺いたいのですが、デビュー当時のことで特に印象に残っている思い出はありますか?

北原:あまり覚えていることがなくって…。それこそマネジャーさんが鳴らすピンポンで起きて、タクシーに乗ってまた寝ちゃって。新幹線の始発に乗って、まずはカレーかうなぎを食べる。それが定番だったんです。今思うと朝イチからよく食べられたなと思うんですけど(笑)。食べてまた寝て、目的地に着いたらタクシーに乗って寝て、現場まで行って歌を歌って。歌を歌ってるときのことは、親衛隊の人たちが声援を送ってくれたことをすごくよく覚えています。とても緊張してしまう体質だったので、その声援で緊張がほぐれて、1人で歌っているんじゃないんだなっていう気持ちになれたのは忘れることができない思い出ですね。

そのころはファンの皆さんの笑顔を見ることが自分の中では喜びだったんですよね。「勇気づけてもらってます」とか、「『マイ・ボーイフレンド』何回も聴いています」とか言ってもらえるととってもうれしくって。その感覚が今、利用者さんたちの笑顔を見たいという思いにつながって、私の中では喜びになっているんです。

――利用者さんのお子さんには、北原さんのファン世代の方も多いのでは?

北原:そうですね。利用者さんのご家族のほうから話しかけてくれたりするので、それがきっかけで利用者さんの施設での様子を送迎のときにお話させていただいたり。そういう意味ではいい関係性が育みやすいです。

――今年還暦を迎えられました。これからどんな人生を歩んでいかれたいですか?

北原:私は「人生のたとえ99%が不幸だとしても最後の1%が幸せならばその人の人生は幸せなものに変わる」というマザー・テレサの言葉を大切にしているんです。利用者さんのこれからの人生に笑顔が多くあればいいなって思っているので、その方の視界に最期に映るのが自分だったらいいなって。その利用者さんにとって、「あぁ。この人に看取られて幸せだったな」って思ってもらえたら、こんな喜びはないと思うんです。そういう自分でありたいなって思うので、やはりケアマネとしてしっかりと利用者さん、そしてご家族と向き合っていきたいなと思います。

女優のお仕事もご縁があれば、ぜひやりたいと思ってます。

――最後に、北原さんの“介護”への思いを聞かせてください。

北原:介護って利用者さんにとっての日常なんですよね。だから、その日常を、利用者さんに生き生きとした時間を過ごしていただくには何が必要か、常日頃から考えています。その中で、利用者さんの喜びを同じように自分も実感できたら、それって、私がアイドルの時に体験したファンの人からいただいた喜びとすごく重なる部分が多いように思います。利用者さんにより豊かで笑顔の多い日常を過ごしていただくことを第一に考える私でありたい。それが利用者さんにとって必要な介護ってことなのかなって思うんです。時間がかかっちゃいましたが、還暦になった今、やっとそこをしっかり実感できていますし、そしてそのことを何よりも大切に考えています。

(取材・文:田中ハルマ写真:高野広美)

北原佐和子著『ケアマネ女優の実践ノート』は、主婦と生活社より発売中。


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