10月4日(金) 12:00
<アジア太平洋アマチュアゴルフ選手権2日目◇4日◇太平洋クラブ御殿場コース(静岡県)◇7217ヤード・パー70>
アジア太平洋地域NO.1アマチュアを決める一戦に、大会最年長66歳の選手が出場していることはご存じだろうか。10~20代の若手の中で懸命にプレーする大ベテラン、ラシッド・アクル(レバノン)を紹介しようと思う。
アクルはトランスポーテションサービスを展開する会社経営者の傍ら、国内唯一となるゴルフ場、レバノンゴルフクラブのメンバーで週5日間、9ホールをプレーし、毎日100球のアプローチとパッティングの練習で腕を磨く、スクラッチゴルファーだ。ゴルフを始めたキッカケは、「イギリス出身の友達がいて、そのお父さんがゴルフのチャンピオンだったので、その人に教えてもらったことが始まりだ」。
レバノンにゴルフ場は一つしかなく、ゴルフ文化は根付いていないようにも見受けられるが、実際は「1970年代にはレバノンには4つのゴルフ場があったが、紛争や内紛によりコースが破壊されてしまった。自分のホームコースだけが唯一残ったんだ」。そんな、母国のゴルフ事情も教えてくれた。今はゴルフ人気が高くなってきているようで「プロがゴルフ人口を増やすために、学校の子供たちに教えたりもしている。障がい者の人にも教えている」とのこと。
アジアアマには9回目の出場。初来日までの道のりは多難だった。イスラエルとの紛争により、レバノンの首都ベイルート郊外は空爆を受け「来ること自体が大変だった。すごく危険な状況だったんだ」。飛行機から爆撃による煙も見えたと、まさに母国は緊迫の状況となっている。だが、「美しい国だと色々な人から聞いていたので、行きたかったんだ」と、心待ちにしていた日本でのプレーを楽しんでいる。
特に会場の御殿場コースは「人生で見てきた中でトップ10に入るくらい美しいコースだ」とうれしそうに話す。ここに来るまでにコースは下調べ済みで「コースの形、コンディションが素晴らしいことは知っていた。とにかくこのコースでプレーをしたかったんだ。皆さんのホスピタリティも素晴らしい」。このコースでのプレーを楽しみにしてくれることは、我々日本人としても喜ばしいことだ。
しかし、初日は『96』を叩き、最下位と悔しい結果に。午後に降った強い雨は想定外だったようで「自分の携帯で天気予報をチェックした時には、ちょっと雨が降るくらいだったので、傘もレインウェアも持ってこなかったんだ。キャディバッグもクラブも濡れてすごく滑ってしまった。2日目は準備万端にしないとね」。スクラッチゴルファーの実力を発揮できなかったが「実力を考えると、最大でも3オーバーでは上がらないと」。2日目の巻き返しへ力を込める。
ここまで、陽気な雰囲気で明るく話をしてくれたアクルは、ゴルフファーに向けてこんな金言も。「ゴルフに年齢は関係ない。何歳になってもゴルフをプレーすることができるし、自分自身もゴルフをしていると健康だな、パワーがあるなと思えるので、すごく幸せなんだ。ゴルフの調子が良くも悪くも、自分は幸せであるっていうメッセージを送りたい」。
66歳のベテランが伝えるメッセージの重みは違う。競技である以上、結果を求めることはもちろんだが、ゴルフができる喜びを教えてくれた。出場120人の中で、一番の幸せをかみしめているのはこのアクルかもしれない。(文・齊藤啓介)