ちょっぴり中世ぽい?衣装
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、ネットフリックスのオリジナルドラマ『デカメロン』について語る。
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7月末から配信されている、ネットフリックスのオリジナルドラマ『デカメロン』。ジョバンニ・ボッカッチョの14世紀の同名の物語集を原作としたシリーズで、疫病(ペスト)を逃れるためにイタリアのフィレンツェ郊外に疎開した男女10人の群像劇です。
パンデミック下のサバイバルを通じて、階級制度や人間の本能を浮き彫りにしています。こう説明すると真面目な作品を想像するかもしれませんが、実際はかなりアホ。優雅な隔離生活を期待して別荘に集まる貴族たちが、瞬く間に大混乱。ドタバタしながら狂乱に陥るさまをハチャメチャに描いたダークコメディです。ドロドロ展開多数。よけいなエログロ場面豊富。中世らしい残酷描写を生かした現代の風刺劇で、私の中ではけっこうヒットです。
本作は登場人物のキャラ分けを含め、演劇的なノリが全体に漂っています。パッと見の世界観は、貴族の人間関係を華やか、かつイヤらしく描いた『ブリジャートン家』に近い。でも『デカメロン』は、回が進むに連れて少しずつ変貌。階級制度を風刺するコントで始まり、中世版恋愛リアリティ番組みたいになり、『デスパレートな妻たち』的な昼ドラっぽくなり、最後は生き残りサバイバルバトル。
登場人物はみんなクズ。幅広い種類のクズで、まともな人がいない。そんなおかしな人たちが、社会の秩序の崩壊とともにさらにおかしくなっていきます。醜い人たちがドタバタと醜いことをするんですが、人間味のあるキャラが多く、最後はうっかり感動してしまいました。
映画衣装の巨匠、ガブリエラ・ぺスクッチによる衣装も見どころのひとつ。刺繍(ししゅう)が施されたベルベットのドレスや、繊細な織物でできたジャケットなど、14世紀イタリアの服装を現代風にアレンジしています。頭飾りやかぶり物も凝ってて楽しい。リアリティよりファンシーで遊び心を重視したコスチュームですが、見応えあり。
そして忘れてはいけないのが、サントラの良さ。オリジナルのスコアは作曲家ルース・バレットによる高貴なバロック調の音楽や荘厳な雰囲気の合唱曲。ビバルディの『マンドリン協奏曲ハ長調』をベースにした軽やかなリコーダー曲も採用されており、抜け感のある滑稽な雰囲気がいい感じ。そんな古式ゆかしい音楽と一緒に使われているのが、ニューウエーブやグランジなどのロック。ジョイ・ディビジョンやピクシーズ、ジーザス&メリーチェインなどなど。
ミスマッチなはずの曲調が見事な化学反応を起こしてる上、歌詞も内容にピッタリ。まるで音楽までもが登場人物のひとりのようです。特に最終盤のシーンで使われるデュラン・デュランの『The Chauffeur』の使い方はしびれました。サントラ丸ごとダウンロードしてプレイリストにしました。
なお、原作のイタリア・ルネサンスを代表する小説『デカメロン』とは、基本設定以外はほぼ別物。ただ、「どの時代も恋愛スキャンダルや、権力闘争のゴシップで現実逃避するんだな」とか「疫病におびえる人間の喜怒哀楽は変わらないな」とコロナ禍を乗り越えた今しみじみと実感するのでした。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。口頭で「デカメロン」って言うと大きなメロンみたい。公式Instagram【@sayaichikawa.official】
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