20年間のファンクラブ生活で入手した大量の広島ユニを誇示する長谷川氏
「2024年問題」とは今年4月から輸送業においてトラックドライバーの時間外労働の上限が規制され、これにより運べる荷物量の減少やコスト増、ドライバー不足など日本の物流システムに大きな影響が出ている問題だ。
今後、この「2024年問題」がプロ野球各球団のファンクラブ活動にも暗い影を落とすかもしれない......と、世界で唯一の「12球団ファンクラブ評論家(R)」(自称ではなく特許庁に商標登録済み)である長谷川晶一(54歳)は警鐘を鳴らす。いったい、どういうことなのだろうか?(文中敬称略)
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誰に頼まれたわけでもないのにプロ野球セ・パ両リーグ全球団のファンクラブに、それも20年にわたって入り続けるという奇天烈(きてれつ)な活動を実践する長谷川は、この夏『プロ野球12球団ファンクラブ全部に20年間入会してみた!』(集英社刊)という本まで出版した。
その出版記念イベントのトークショーで長谷川は、「この20年間で各球団ファンクラブのファンサービスは大きく進化しており、なかでも数種類の会員コースに多彩な特典グッズが用意され、ファンは"選ぶ楽しみ"を味わえるようになった」と評価している。
たしかに福岡ソフトバンクホークスが推し進める"本革路線"で誕生した大型の「本革トートバック」(2019年)、オリックス・バファローズが企画したエポック社製「オリジナル野球盤」(2020年)、東京ヤクルトスワローズの"つば九郎"をあしらった「サンシェイドテント」(2023年)などは見た目にもインパクトがあり、ファンクラブに入ってよかった、この特典グッズを選んでよかった、と幸せな気持ちになれそうだ。
ファンならきっと欲しくなるオリックスの「オリジナル野球盤」
ただし、ファンを魅了し、度肝を抜くようなこれらの大型アイテムは製作費も送料も高くつき、物流各社の料金値上げが今後ますます加速するなかで会費とクオリティのバランスを維持することが難しくなってくるかもしれない。「多彩なアイテムから選択可能」ということは「少量多品目」を用意しなければならず、その企画、製造、保管、発送には多くの手間と労力がかかってしまう。
ヤクルト、つば九郎の「サンシェイドテント」は超大型の特典グッズだ
気鋭のノンフィクションライターでもあり、球界の内情にも詳しい長谷川によれば、「マンパワーにも予算にも限りがあるファンクラブの運営スタッフにとって、大きさや形の違うダンボールを何種類も用意して保管したり、梱包したり、発送するだけで大変な作業になる。送料や人件費が上がれば、やがて特典グッズの質にもしわ寄せがいってしまうかもしれない」というのが現実なのだ。
そうしたなかで、長谷川が「CQ(カープ・クオリティ)」として絶賛しているのが、広島東洋カープが2007年から17年間、一貫して変わらずファンクラブ会員へのメイン特典として送り続ける「オリジナルジャージ(ユニフォーム)」だ。
いまや伝説となっている2009年の「Caoshima」ユニフォーム(ホーム用の白いユニフォームとビジター用の赤いユニフォームを真っ二つにして縫い合わせた奇抜すぎるデザイン)をはじめ、2008年のノースリーブ、2012年の赤から白へのグラデーション、2013年の"ひとつとして同じデザインが存在しない"1万5000通りのユニ、2017年のパーカー風や2020年のスタジャン風、2022年のリサイクルポリエステルを使ったSDGsユニなどなど、すべて斬新で個性的なものばかり。
ホームとビジターが合体した伝説の「カオシマ」ユニフォーム
「これはシャツなのでは?」「どう見てもパジャマだろう?」とツッコミたくなるようなデザインも多いが、広島のファンクラブ事務局はすべて「ユニフォームです」と言い張る。さらに言えば、必ずしもアパレルとしてのクオリティが高いわけではなく、ハッキリ言ってペラペラな素材だと感じる年も多い。
だが、この変わらぬ姿勢にこそ、アイデア勝負とチープ路線で勝負する広島ファンクラブの真髄が込められているのだと長谷川は指摘する。
「毎年、奇抜なデザインでファンを驚かせながらも、グッズとしてはユニフォームという既定路線を崩さない。そのため、畳んで入れて発送する袋も基本的に同じ大きさが使えるし、ペラペラな素材は軽いので輸送費も安く済む。カープのファンクラブ運営スタッフは12球団でも少ない人数と言われていますが、そうした弱点を感じさせずにファンを楽しませる努力は高く評価されるべきです」
様々な形のダンボールで届く特典グッズ。輸送費も大変だ
とはいえ、「2024年問題」だけでなく、今後も製造コストや物流コストの上昇は続くとみられる。ファン離れにつながる会費値上げはむやみにできない以上、特典グッズの魅力に頼るばかりのファンクラブ運営はいずれ苦しくなるだろう。そんな状況を打開する策として、長谷川が提唱するのは「体験型ファンサービス」の拡充、それも「ファンクラブによる現役選手とOBの橋渡し」だ。
たとえば、長谷川が子供の頃から熱狂的なファンで、最も長くファンクラブに入会し続けている東京ヤクルトスワローズについては、次のようなプランを夢想する。
「チームを1978年の初優勝に導き、通算191勝をあげたレジェンド松岡弘が始球式をする際に、ポイントを貯めたファンクラブ会員を招待して一緒に守備位置につかせてもらう。あるいは、『栄光の背番号1』と題して、若松勉や池山隆寛、岩村明憲、青木宣親、山田哲人を集めてのトークイベントを開催しファンクラブ会員を招待。参加できなかった人にはその模様を収録したDVDをファンクラブ会員限定でプレゼントする。
そのチームを愛し、会費を払ってファンクラブ会員になってまでチームを支えているファンにとって、現役選手はもちろん、伝説のOBたちとのふれあい、貴重なコレクションを入手することはこの上ない喜び、幸せとなるはずです」
プロ野球12球団すべてのファンクラブに20年間も入会し続けてもなお、少しも飽きることなく「楽しくてたまらない」という長谷川の"レジェンド体験プラン"が、12球団それぞれの形で実現することを期待したい。
取材・文/宮崎俊哉撮影/Sportiva
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