「生まれてすぐに息子はホストにしようと思った(笑)」と語るのは、都内でバーを経営している蝶野かず子さん(仮名・45歳)。彼女は、トップクラスになれば年間1億円の売上を叩き出すこともあるホストの世界で、息子が成功するために16歳の時に経験させた仕事があるという。
実際、息子は現在21歳で、年収4千万円の人気ホストとして活躍しているそうだ。一体どういった経験をさせたのだろうか——。
生後3か月で「将来ホストにさせる」と決意
蝶野さんは24歳の時に息子を出産、諸々の事情で結婚はせず、シングルマザーとして育てることになった。そして、生まれて早々に息子をホストにすると決意したという。
「生後3か月でイケメンを産んじゃったなぁ~と思って(笑)。それで、1歳になった時に赤ちゃんモデル級に可愛かったから、この子はホストで通用するという確信に変わって、3歳の頃には『アナタは将来はホストになるんだぞ~』って常に言い聞かせてた(笑)」
しかし、物心がつく年齢になると、息子としても当然「ホストって何?なんでホスト?」という疑問が湧くだろう。その際にはホストを勧める理由を丁寧に説明してあげたそうだ。
「もちろん、途中でやりたいことが見つかったら止めないし、後押ししてあげるつもりだったよ。でも、最近はいい大人になっても自分は何がやりたいのか分からない人が山ほどいるわけで。だったら、やりたいことが見つかった時に一番お金を持っている状態なのがベストだし、日本で男の子が現金を稼ぐにはホストが一番だからね」
仕事内容というよりは、将来的なことを考えての提案。さらに、具体的な目標も提示してあげたという。
「18歳から23歳の5年間、ホストとして一生懸命働いて23歳でやりたいことが見つかった時に、それに投資できる資金があるといいよね、と説明してお金を貯める目的や目標を提示してあげたの。人間って、ゴールを設定すると、それに向かってがんばれるから。目標もなく『とりあえずお金は貯めておけ!』って言うのが一番良くない」
息子に八百屋で働くことを勧めた“納得の理由”
もともと勉強があまり好きではなかった息子は、15歳の時に進学するか世に出て働くか迷った末、最終的に働く方を選択。そこで蝶野さんは息子にとある仕事を勧めることにした。
「中学を卒業する時に、定時制の学校にしか行けないくらいの学力だったから、昼間は働いて夕方から学校に行かせようとしたんだけど、昼間の時間帯の定時制しか受からなくて。『もう働けば?』って言ったの。本人もその時点でゆくゆくはホストになるつもりだったから、だったら『八百屋で働きな』って勧めたんだよね」
ホストで働く準備段階として、息子に八百屋で働くことを勧めた蝶野さん。しかも勧めた店は、個人経営のいわゆる“町の八百屋”であった。ホストとは全くの別世界な気がするが……。
「八百屋って水商売の根本が全て詰まっている仕事なの。利幅がモノ凄く薄いから、その中で“いかに利益を増やすか”ってことを考えないといけないし、肉体労働でもあるから『仕事というモノは決して甘くないんだぞ』ってことを学べて、それを一生懸命やっている人たちとも触れ合える。さらにスーパーと違って、町の八百屋は人付き合いもあるでしょ、近所のおばちゃんに可愛がられたりして」
八百屋で鍛えられる人間力
たしかに、町の八百屋はスーパーとは異なり、顔なじみの常連さんがいて、日頃からコミュニケーションを取ることも多い。
「たとえば、茄子を買おうと思った時、どこでも売っているし、味もほとんど変わらない、なんなら産地も一緒だったりする。そこで、5円とか10円の値段の差があったとして、当然、安い方を選ぶお客さんもいるけど、そうじゃないお客さんがここで買おうって思う理由は『人』がほとんど。実際、息子がそのお店にいることで、近所のおばちゃんが何かしらの『おやつ』を持って野菜を買いにくることが多くて。普通、野菜を買いに行くのにおみやげは持って行かないでしょ(笑)」
大事なのは形のないモノでの評価
ほぼ同じ条件で他に選択肢がある場合に、選ぶ理由として大きいのが「人柄」や「店柄」だと語る蝶野さん。そこで重要となるのが「小さな気遣い」の積み重ねであり、息子もその大事さを八百屋の仕事を通して身に付けたのだ。
「息子は子連れのお客さんが来た時、通りやすいように周りの人に声を掛けたり、お母さんの代りにカゴを持ってあげたり、袋詰めして渡してあげたりしていたの。もちろん、それをやったからといって売上や利益が急激に増えるわけでもないし、当然だけど給料が増えることもない。でも、水商売はそういった“形にないモノ”でいかに評価されるかが大事だということを、八百屋の仕事を通してしっかりと理解して身に付けていたね」
たしかに、事務的に業務をこなすスーパーではなかなかできないことが、町の八百屋では普通に行われていたりすることもある。
「ホストもしかりで、お客さんが何を求めているのかをしっかりと見極めて、それをどこまで他の人よりもしてあげられるか、臨機応変に対応できるかが大事な商売なわけで、その点がしっかりと身に付いていないと、どんなにイケメンでも絶対にトップクラスのホストにはなれない。だから顔の良し悪しなんかは、そこまで重要ではないんだよね」
八百屋での3年間が成功の原動力に
水商売にとって大事なことが学べるとはいえ、過酷な面が多い八百屋の仕事。特に若者だったら途中で投げ出してしまう人も少なくないだろう。だが、息子は自分なりに楽しみを見出し、3年間やり遂げたのであった。
「八百屋の仕事に対して音を上げたり、嫌な素振りを見せたことは一度もなかった。だって、『ブロッコリーを綺麗に積み上げられたよー』って、写メを撮って送ってきたこともあったし(笑)。あと、ホストになってからも、誕生日の記念オリシャンのラベルを、積み上げられたブロッコリーの中から自分が顔を出してるデザインにしてたからね(笑)。彼の中で八百屋での経験は良い思い出になっているみたい」
わずか2年で人気ホストに急成長
19歳になる直前でホストデビューし、わずか2年で年収4千万円のプレイヤーへと急成長した蝶野さんの息子。ホストの年収は人気次第でピンキリだが、平均は500万円前後と言われているだけにその凄さは一目瞭然だろう。
どんな仕事でも、一流と言われる域に達するには、その世界において最も大事なポイントをしっかりと把握し身に付ける必要がある。ホストに限らず水商売で成功したいと思っている方は、まずは町の八百屋を経験してみるのもありかもしれない。
取材・文/サ行桜井
【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。
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