ハーラートップの14勝を誇る巨人・菅野。「夏以降、フォークの質が上がった」(お股ニキ氏)
シーズン最終盤まで火花散る戦いが続く今年のプロ野球。10月から始まるポストシーズンを前に、セ・パの最注目選手を一挙紹介!なぜ彼らは今季覚醒したのか?野球評論家のお股ニキ氏が解説する。
■復活を遂げた菅野、初の日本一へ
勝負の10月に爆発を期待したい1番手として、セ・リーグ投手では菅野智之(巨人)に注目したい。
現在14勝3敗で勝利数と勝率は共にリーグ1位。防御率も1点台をキープし、4勝に終わった昨季から見事に復活を遂げた。
そんな菅野の活躍を春季キャンプから予見していたのが本誌おなじみの野球評論家、お股ニキ氏だ。
「代名詞のスライダーをはじめ、変化球のキレを取り戻せば、2桁勝利も、菅野自身が目標に掲げる15勝も可能」と今季開幕前に語っていたが、その予想がほぼ的中。復活の要因は具体的になんだったのか?
「過去3シーズンは防御率3点台。34歳のシーズンを迎えるに当たって、『このままでは野球人生が終わってしまう』という覚悟は間違いなくあったはず。だからこそ、体を絞り、フォームもイチから見直したのだと思います」
そのフォーム変更では「35~40歳で最盛期を迎えた投手をたくさん見てきた」という久保康生巡回投手コーチとの取り組みが功を奏した。
「ここ数年はフォームが悪く、肘や腰の痛み、球威の衰えが見られましたが、久保コーチとの取り組みにより、昨季途中には改善。地面反力を生かす下半身の使い方によって思い切り投げなくても腕が勝手に振られ、上から叩く感覚も取り戻しました。
結果的に、昨季の段階で154キロをマーク。今季急に上がったのではなく、すでに予兆は見せていました」
加えて、今季は変化球の精度が抜群にいい。
「もともと得意なカッターとスライダーに加えて、今季はカーブとフォークも活用しています。特に夏以降は今後の野球人生をも左右するレベルでフォークの質が上がった。これまではスライダーが得意すぎるあまり、それ一辺倒になりがちでしたが、フォークが決め球になることで球種の偏りも改善しています」
象徴的なシーンとして、お股ニキ氏は9月1日の阪神戦、最後の場面を挙げる。
「足の速い近本光司に対して、フォークで三塁への併殺打を打たせました。そのイメージができていて、狙ったコースにきっちりと投げられる自信もあったからこそ、守備位置の指示も事前に出していたんです。
今の菅野は変化球で併殺を狙って奪えるだけでなく、改善したフォークやカーブで三振も奪えるし、変化球を意識させてストレートでも刺せる。小林誠司の配球も変幻自在です」
お股ニキ氏は、ポストシーズンでのピッチングにも期待を寄せる。
「巨人が最後に日本一になったのは菅野が入団する前年の2012年。『自分の力で頂点を取っていない』という思いはあると思います。菅野といえば、"第1次全盛期"ではシーズン終盤に調子を落としがちでしたが、今季は尻上がりに状態を上げています。覚悟を持って復活を遂げた今季、最後は日本一に上り詰めることを期待しています」
■誰もが認めるエースに近づく伊藤
パ・リーグで注目したい投手は日本ハムの伊藤大海(ひろみ)だ。
13勝4敗の成績は有原航平(ソフトバンク)と並んで勝利数1位タイ。勝率では堂々の1位で、4完封は両リーグ最多。その4度目の完封劇を見せた9月18日のソフトバンク戦について、新庄剛志監督が「1回と9回のスピードが変わらない。力感なくリリースポイントに100%の力を伝えられる投げ方を完璧につかんだ」と絶賛するほどの出来栄えだった。
伊藤といえば侍ジャパンの常連であり、日本ハムのエース格として誰もが認めるところ。しかし、通算3年で27勝28敗と負け越すなど、絶対的な存在だったわけではなかったが、今季覚醒できたのはなぜなのか?
両リーグ最多の4完封を記録する日本ハム・伊藤。「来季以降の沢村賞受賞、MLB移籍も」(お股ニキ氏)
お股ニキ氏はきっかけとなった試合として、今季2度目の完封を果たした7月28日の西武戦を挙げる。
「伊藤本人が試合後、『ストレートの握り方をこの1週間で変えた』と語っていましたが、実際に球速はそれ以前と比べて平均で3キロほど速くなりました。
8月はまだ新しいスタイルへの調整がうまくいかないこともありましたが、9月には安定感が増して2試合連続完封。ソフトバンク相手に敵地で決めた完封は価値が高く、球界を代表する投手へと成長を遂げました」
急成長の要因はストレートだけではないという。
「スライダーは左打者に対して縦変化量を増やし、スイーパーとの差別化が図れています。今季序盤に投げていたハードカッターの感覚も有効活用し、左打者のインハイに伸びる球を投げられるのも魅力的。落差を取り戻したスプリットを意識させて、伸びる球を突き刺す感覚で打者を翻弄できています」
この調子を維持できれば、ポストシーズンでの活躍だけでなく、来季以降のさらなる飛躍も見えてくる。
「ファン、監督、そして本人と、誰もが認めるエース像に近づいています。まずはCSでソフトバンク相手にどれだけの投球ができるか。9月の完封劇の印象があるだけに、ソフトバンクとしては最も嫌な存在であることは間違いありません。このままの調子で結果を出せば、来季以降の沢村賞受賞、さらにMLB移籍も現実味を帯びてくるはずです」
■恐怖の3、4番清宮&レイエス
ポストシーズンを盛り上げる男たちはほかにもいる。野手では、日本ハムの「3、4番コンビ」に注目したい。共に春の不振を脱して夏に覚醒した清宮幸太郎とフランミル・レイエスだ。
清宮はキャンプイン直前の捻挫で開幕2軍スタートも、7月に月間打率3割8分超を記録し、8月以降も規定打席未到達ながら打率3割をキープしている。お股ニキ氏は「もともと持っている才能は素晴らしいのに、体形に合ったスイングができていなかった」と、これまで飛躍しきれなかった原因を指摘する。
「MLBで人気の縦振りを志向していたようですが、日本人は骨盤が後傾しているため、外国人のような縦振りをするとボールの下にバットが入ってしまうし、打球が伸びなくなる傾向が強いと感じます。
清宮は本来の自分のスイングに戻したことで、打球に最後のひと伸びが加わりました。さらに今季は、追い込まれた後は反対方向にヒットを放つなど、打撃にいやらしさが出てきています」
規定打席未到達ながら打率3割を維持する日本ハム・清宮。「新庄監督の指導が実を結んだ」(お股ニキ氏)
その試行錯誤の歩みにおいては、新庄監督の存在を忘れるわけにはいかない。
「3年に及ぶつきっきりの指導が実を結んだのでしょう。新庄監督の指摘で体重を落とし、ファーストだけでなく、サードやレフトでも勝負できるようになったことで起用の幅が増えました。レイエスと同時起用できるのはチームにとって大きいです」
一方のレイエスといえば、4月の月間打率が1割台と低迷し、このまま日本球界に適応できないのではないかと心配された選手だ。ところが、8月に入って確変し、月間打率4割3厘、8本塁打、23打点で月間MVPを受賞。本塁打数はリーグ2位の23本に伸ばし、球団新記録の25試合連続安打も記録した。
「よくここまで我慢したな、と思います。以前在籍し、本塁打王になったブランドン・レアードもそうでしたが、日本野球の水に慣れるまで寛容に待ってあげる姿勢が日本ハムにはあります。新庄監督が低めのボール球を振らないように徹底指導したことも奏功したようです」
後半戦で確変した日本ハム・レイエス。「日本球界にうまくアジャストできてきた」(お股ニキ氏)
スイングに関しては清宮同様の変化も起きていたという。
「今季の巨人を支えたエリエ・ヘルナンデスやココ・モンテスもそうですが、日本球界ではバットを少し横に寝かせ気味に構える横振りタイプの打者のほうが合います。レイエスもうまくアジャストできました。
覚醒した清宮とレイエスの3、4番コンビは手強く、その前後を郡司裕也や万波中正(ちゅうせい)、アリエル・マルティネスらが固める打線は12球団トップクラスの怖さがあります」
日本ハムの快進撃を支える清宮とレイエス。並んで先発した8月以降のソフトバンク戦はなんと6勝1敗。下克上日本一へ向け、CSでの"鷹狩り"に期待がかかる
まずはCSファーストステージを勝ち上がらなければならないが、ソフトバンクが待つファイナルステージにたどり着けば、9月以降4連勝中と相性の良いみずほPayPayドームでの戦いとなる。8月以降の強さを鑑みれば、下克上の可能性も大いにある。例年以上に盛り上がるポストシーズンへ、期待必至だ。
文/オグマナオト写真/時事通信社
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