景気動向に影響を受け、削る対象になりやすい外食
毎月、食品の値上げが報道される度に、購買意欲が落ち込む人は多い。年々、上昇する国民負担率(租税負担+社会保障負担)から生じる将来不安から、生活防衛に廻る家庭が増えるのは当然。
1970年に24.3%だった国民の負担率が、今年2024年は45.1%(最大値は2022年48.4%)と上昇している
から先のことを考えるとゾッとする。貯蓄から投資へと国を挙げていろいろ誘導するが、それどころではないという人も多い。
衣食住の中で、最も節約しやすいのは食だ。エンゲル係数が高い家庭は、食品が値上がりするのに、自らの賃金は上がらない現状に苛立ちを隠せず、将来を憂いている。
食事に於いて、手っ取り早く節約するには、スーパーで食材を買い、家で作れば安く済む。スーパーでも食材が高騰しているものの、外食するのと比較すれば安いもの。手間は増えるが、光熱費だけで済むからだ。
飲食店で焼肉定食を注文しても、大概の飲食店の肉の量は100g程度だ。だが、自炊すれば倍以上食べても、かかる費用は安くつく。
原価3~4割程度の外食店に行って食事をすれば、調理し提供してもらえる費用を払わなければならないから、その分、高いのは仕方ない。食べる空間も提供され、片付けもやってもらえる、水やお茶も提供される、などのサービスが受けられるメリットはあるものの、その対価を支払うのが勿体ないと思う人が増えているのが現実だ。
また、一人ならともかく、外食は家族全員で行くとなれば、金銭的負担が大きいから、もう外食する発想すらない家庭も多い。
単身世帯者の増加で自炊者も増える
ここ最近は、単身世帯の増加で、自炊する人が増えている。2020年の国勢調査によると単身者世帯は38%で、5年前と比較すると3,4%増加しており、単身者世帯の増加でさらに自炊者が増えることが予想される。
仕事で忙しい単身の会社員が、仕事が終わり、自らがスーパーで買い物をして調理し、洗い物や片付けをするのは面倒だ。しかし、経済的に余裕がなければ、外食を利用する機会が減るのは仕方ない。
日本人の生涯未婚率は、2020年時点で男性約28%、女性約18%と過去最高を記録。特に直近の20年間で急激に増加している。国立社会保障・人口問題研究所では、2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が生涯未婚者になると予測しており、より一層、自炊する単身者が増えるかもしれない。
外食はお金がかかるから避けたいが、家で自ら調理するのは大変だという人はスーパーなどで惣菜を購入する。タイパ重視型の人は割高でも手っ取り早く買物ができるコンビニ、コスパを重視する人はスーパーとなっていた。
しかし、昔は単身者が最も利用していたコンビニも、今は若者離れが深刻だ。逆に遠くに買い物に行けない高齢者によく利用され、客層が高齢化してきているようだ。
コンビニ各社の巻き返しはいかに
危機感を抱いたコンビニは、それぞれ低価格商品を導入し、集客力を争っているようだ。セブンイレブンは、物価高による生活防衛意識に対応した手ごろな価格の「うれしい値!」シリーズ商品を、現在の約20品目から270品目に大幅に拡充している。
やはり、消費者の節約志向への高まりに客離れが顕著なため路線変更するようだ。五目焼飯・麻婆丼・バターチキンカレーは348円税込でありお得感満載だ。利便性が売りのコンビニだったが、低価格も武器に訴求し吸引力を高め、コスパとタイパの両立性を追求している。
ファミリーマートは、おにぎり市場の拡大を受け、コンビニ大手が名店とコラボしたプチ贅沢をテーマに新おむすびの販売を開始した。和食の「賛否両論」や洋食の「上野精養軒」が監修したツナと鮭のおむすび4種類である。
名店が監修したという厳選素材を使用しそのブランドを冠していることもあり、今回は240円(税込)258円(税込)で販売されている。今後もおにぎりーブームの乗っかり、低価格・中価格・高価格の3つの価格帯で商品力と販売力を強化していく計画とのことだ。
会社員のランチも様々
住宅ローンや子供の教育費用などの負担が大きい会社員の懐事情ではランチで外食ができない人が多い。充実した社員食堂がある大企業ならいいが、日本の会社の99.7%は中小企業であり、社員食堂のない会社が大半だ。
仕事中のランチも外食・中食・内食の奪い合いだ。以前なら、弁当を買いに行く人は、割高と分かりながら、近くのコンビ二で買っていたが、今は時間を確保して、食品スーパーなどで安い弁当購入にシフトしているようだ。
最近は、冷凍食品のワンプレートも、コスパとタイパの良さから人気であり、市場規模も約100億円規模に急伸している。大概の職場に電子レンジが備わっているから、従来の手作り弁当に代わって持っていくようだ。
ご飯とおかずがセットになっており価格は400円程度で栄養面も考えられており、健康食としても最適らしい。一度の過熱で済むから手間がかからず器付きだから、片付けも楽で簡便性の高さから、奥さんに喜ばれており、ますます売れ行きが好調のようだ。
共稼ぎ世帯で毎日、弁当を持参している人は、おかずの中身は50%が冷凍食品、50%は前夜の残り物を詰めていると聞く。今は米が高いからもち米を入れて膨らませるなど、家庭内で原価計算をしているのはさすがだ。そうやって平日は節約し、週末は外食に出かけるなど消費のメリハリをつけているようだ。
ランチ実態調査では
ランチ実態調査によると、平日のランチの内容は、「自炊、または家族等が作った食事」が31.1%で4年連続の1位。コロナ禍で2年連続で増加した後、2年連続で減少となった。
ついで「小売店や飲食店で購入した食事」が20.4%、「自分、または家族等が作った弁当」が19.2%と続く。「社食、学食」は8.5%で、2年連続の増加となった。
平日のランチの形態別の予算は、全体平均は452円で過去最高額。最も高かったのは「出前、デリバリー」で平均1,368円、ついで「外食店内での食事」が平均1,243 円となり、ともに4年連続で増額。最も安い「自炊、または家族等が作った食事・弁当」は、平均392円と結果だ(ホットペッパーグルメ外食総研より)。
各ファミレスの日替りランチの価格が物価高を反映している
大概の店が日替わりランチを導入している。日替わりに集中させることでオペレーションの単純化、ディナー帯で発生した余剰食材の有効活用、客のメニュー選定を悩ませないなどのメリットがある。
さすがにこの物価高騰の中、手軽に行けるファミレスのランチセットの価格も上がってきている。サイゼリヤ500円(税込、スパ・ドリアランチ)と600円(税込、ハンバーグ)、和食さと878円(税込)、ココス759円(税込)、デニーズ792円(税込)、ロイヤルホスト1,023円(税込)などとなっている。
ちなみに、マクドナルドは昼マックの最低価格は500円税込~、牛丼御三家のすき家は580円税込、吉野家は598円税込、松屋530円税込、などが定番ランチセットの最低価格だ。チェーン店の定食のボリュームゾーンは税込750円~950円であり、町の個人飲食店もその価格帯が圧倒的に多い。
ワンコインランチは一部を除いて“昔話”に
何もかもが値上がりする中で、外食に行ってワンコイン(500円)でランチを食べるのは無理になってきた。
ファミレスチェーンでワンコインで提供しているのは、先述のサイゼリヤと、ジョイフル(500円税込)くらいだろう。以前は、低価格業態の代表だったガストもワンコイン内で日替わりランチを販売していたが、今は約700円税込(3段階・地域価格制)まで値上がりしている。
今の外食店を見渡すと、価格は高めでも顧客が価値を認めた話題の店には行列ができるが、物価高の煽りを受けて単なる値上げをした店は閑散としているなど、二極化しているのがより明確になってきている。
みんなが値上げするから一緒に値上げする店は生き残りが厳しそうだ。自店の顧客提供価値(バリュープロポジション)は何かを明確に訴求し、お客さんの吸引力を高める努力をしなければならない。<文/中村清志>
【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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