北欧の教育「フォルケホイスコーレ」が話題。人と社会、自然とのつながりを取り戻す大人の学び舎「School for Life Compath」 北海道東川町

(撮影/久保ヒデキ)

北欧の教育「フォルケホイスコーレ」が話題。人と社会、自然とのつながりを取り戻す大人の学び舎「School for Life Compath」 北海道東川町

9月25日(水) 7:00

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北海道東川町に、4年前に開講したSchool for Life Compathという大人の学び舎がある。デンマーク発祥の「フォルケホイスコーレ」という北欧独自の教育機関がモデルとなっており、近年、日本でも注目が高まり、各地に開講の動きがある。なかでも移住者が増加するまちとして注目を集める東川町で、まちの人々とつながりながら学びのコース をつくっているのがCompathだ。参加者は20代から60代まで。年齢も職業も 多種多様な人がここに集い、対話と共同作業を行うことで、自分や社会、自然の存在を捉え直していく。そんなCompathに関わる人々の声を聞き、この学び舎についてレポートする。

多様な文化を育んできた東川町だからこそ生まれたCompath おいしい水が稲を育む。参加者の一人が東川は「空が広い」と語った(撮影/久保ヒデキ)
おいしい水が稲を育む。参加者の一人が東川は「空が広い」と語った(撮影/久保ヒデキ)

北海道のほぼ中央に位置する東川町は、移住者の集まるまちとして知られ、カフェやセレクトショップなど、独自のこだわりを感じさせる店舗も多い。近年では年間転入者数が600人台、この30年では約1,5 00人が増加。 現在人口は約8,500人である(2024年4月時点)。
移住者が多い理由として、旭川空港に近いという利便性や大雪山の雪解け水である おいしい地下水が生活用水となっているという特徴がある。しかし立地や自然環境だけでなく、多様な文化が育まれてきたことも、この街が人々を惹きつけてやまない理由といえる。

東川は1985年に「写真の町」宣言を行い、写真文化によるまちづくりに取り組んできた。中心街には写真作品が展示されている(撮影/久保ヒデキ)
東川は1985年に「写真の町」宣言を行い、写真文化によるまちづくりに取り組んできた。中心街には写真作品が展示されている(撮影/久保ヒデキ)

図書館やギャラリー、日本語学校などが集まる「せんとぴゅあ」には、椅子研究家・織田憲嗣さんが収集した椅子のコレクションも展示されている(撮影/久保ヒデキ)
図書館やギャラリー、日本語学校などが集まる「せんとぴゅあ」には、椅子研究家・織田憲嗣さんが収集した椅子のコレクションも展示されている(撮影/久保ヒデキ)

今回、取材したSchool for Life Compathは、デンマーク発祥のフォルケホイスコーレという教育機関をモデルにした大人の学び舎だ。週末のみから10週間の滞在まで、テーマに合わせたコースが組まれている。
フォルケホイスコーレとは、哲学者であり教育者でもあるデンマーク人のN・F・S・グルントヴィ が「すべての人に教育を」というコンセプトのもと、学校に通うことのできなかった主に農家の人々に向けて、民主主義を根づかせるために開いた学校。1844年に1校目が設立され、現在、北欧に約400校がある。
17.5歳以上であれば誰でも通うことができるこの教育機関の特徴は2 つ。寮に住み、多様な他者と暮らし対話を重ねることで、民主主義の 意識を育てる場であること。試験や成績評価が一切なく、純粋な学び、探究ができる場であること。
人生を少し立ち止まって、作りたい社会を考える場として、個人の次なるステップを考える場として、高校を卒業したばかり人から社会で長年経験を積んだ人まで、幅広い人々が通い、「人生の学校」とも呼ばれている。

School for Life Compathの校舎。丘の上に建ち大雪山も見渡せる(撮影/久保ヒデキ)
School for Life Compathの校舎。丘の上に建ち大雪山も見渡せる(撮影/久保ヒデキ)

日本にもフォルケホイスコーレのような場所が欲しい

こうした学びの場を日本でもつくってみたい。そんな思いを持ったのが、大学時代の同級生だった安井早紀さんと遠又香さんだ。社会人になってからは、年に1回ほど会ってお互いに刺激し合う関係だったが、たまたま休暇の時期が重なり、デンマークを旅することに。どちらも教育や社会活動に興味があり、2つのフォルケホイスコーレと、1つの「森のようちえん」 (自然体験活動を基軸とした幼少期教育の場)を視察した。
実際に学びの場を体験しデンマークの人々と対話を重ねる中で、「日本にも、こういう場が欲しい」と二人の意見が一致。2017年のこの旅が転機となって、学び舎 の構想がスタートした。

Compathの共同代表を務める安井早紀さんと遠又香さん(撮影/和田北斗さん)
Compathの共同代表を務める安井早紀さんと遠又香さん(撮影/和田北斗さん)

大人の学び舎づくりを模索する中で、遠又さんの夫のつながりから東川を訪問することとなった。そこで、20年前にデンマークを訪ねたことのある平飼い養鶏と農業を営む 生産者の方と出会い、学びの場づくりを「東川町でチャレンジしてみたら?」と背中を押された。

「このとき東川のみなさんとはまったくつながりがありませんでしたが、その生産者の方が北の住まい設計社を立ち上げた渡邊夫妻やカメラマンの方などを紹介してくれました」(安井さん)

2019年に2泊3日のトライアルツアーが実現。プログラム1日目は、北の住まい設計社などを訪ね、森を散歩するなどして五感を使って世界を感じる「日常から離れ、自分の感受性に気づく」がテーマ。2日目は産みたての卵で朝ごはんづくり、その後写真のワークショップ「手を動かしながら、感性を紡いでゆく」。3日目は滞在で出会った東川で暮らす人たちの想いや哲学(生き方)に触れながら気づいたことを振り返る「旅で出逢ったヒントから自分の物語を編む」。
現在実施しているプログラムをギュッと凝縮したような内容だった。

北海道の無垢材を使用した職人の手による家具をつくり続ける北の住まい設計社。写真は現在のショールーム(撮影/久保ヒデキ)
北海道の無垢材を使用した職人の手による家具をつくり続ける北の住まい設計社。写真は現在のショールーム(撮影/久保ヒデキ)

1985年に渡邊恭延さん・雅美さん夫妻が廃校を譲り受け、自分たちの手で修理をして家具の工房として蘇らせた。夫妻はフィンランドに滞在したことがあり、そこで自然と共生する暮らしに感銘を受け、北の住まい設計社をつくり、北欧の文化をまちの人々に伝える役割も担ってきた(撮影/久保ヒデキ)
1985年に渡邊恭延さん・雅美さん夫妻が廃校を譲り受け、自分たちの手で修理をして家具の工房として蘇らせた。夫妻はフィンランドに滞在したことがあり、そこで自然と共生する暮らしに感銘を受け、北の住まい設計社をつくり、北欧の文化をまちの人々に伝える役割も担ってきた(撮影/久保ヒデキ)

伐採した木の樹齢よりも長く使い続けられる家具をつくっている。塗料もすべて自然素材。Compathでは工場見学をプログラムとして組むことがあり、こだわりを貫く姿勢に感銘を受ける参加者も多いという(撮影/久保ヒデキ)
伐採した木の樹齢よりも長く使い続けられる家具をつくっている。塗料もすべて自然素材。Compathでは工場見学をプログラムとして組むことがあり、こだわりを貫く姿勢に感銘を受ける参加者も多いという(撮影/久保ヒデキ)

東川町に移住し、模索しながらCompathがスタート

2020年4月、二人は活動を本格化させるために株式会社Compathを設立。準備段階として教育について考えを深めるために、安井さんは島根で高校生の国内留学推進 を、遠又さんは東京で大学生のキャリア教育を仕事としていたが、ともに退職し移住を決意。7月から東川に拠点を移し、9月からプログラムを開始した。

「最初のプログラムは7日間で、毎日何かしらのワークショップを行うものでした」(安井さん)

2020年9月に行われたショートコース。テーマは「森100年、人100年」(画像提供/School for Life Compath)
2020年9月に行われたショートコース。テーマは「森100年、人100年」(画像提供/School for Life Compath)

安井さんは参加者一人一人に声をかけ、語り合う(撮影/久保ヒデキ)
安井さんは参加者一人一人に声をかけ、語り合う(撮影/久保ヒデキ)

コースをウェブで発表すると、日本で会社に属していると長い休みを取るのはなかなか難しいという意見が多かったという。
「半分の日程だけ参加してよいか?」などの問い合わせがあり、こうした声に応える形で、日中の多くの時間を「余白」とするプログラムを組み立てた。リモートワークをしてもいいし、まちを散策してもいいし、本を読んでもいい自由な時間となった。

「参加者のアンケートによると、一番印象に残ったことは、こちらが用意したプログラムではなく、参加者同士で対話をしたことや、まちに繰り出してつながりが生まれたことなど、その人だけの体験がほとんどでした。『余白』というと、立ち止まって何も起こらないというイメージを持たれるかもしれませんが、こうやって何もない時間があると何かが起こり始めるんです」(安井さん)

テラスで本を読む参加者(撮影/久保ヒデキ)
テラスで本を読む参加者(撮影/久保ヒデキ)

この4年の間にプログラムは増えていき、1週間のショートコースとともに、2~3泊のトライアルコースや4~10週間のロングコースも開催するようになった。また立ち上げのころは、東川の中心地にある複合施設・せんとぴゅあのセミナールームや宿泊施設を利用していたが、町が管理していた遊休施設の利活用の公募があり、プランが採択され、2024年3月に校舎も完成。現在、Compathの卒業生は約300名だ。

食事をとったりワークショップを行う1階のスペース(撮影/久保ヒデキ)
食事をとったりワークショップを行う1階のスペース(撮影/久保ヒデキ)

北海道の自然に触れ、自分自身の野性を取り戻すワークショップ

取材した日に行われていたのは、8月のショートコースでテーマは「Sense of Wonder ―てのひらに野性を―」。
参加者は8月11日から滞在をはじめており、7日目のプログラムである「野性を取り戻す森の冒険」が校舎から車で30分ほどの旭川市の森で実施された。

8月のショートコース「Sense of Wonder ―てのひらに野性を―」。「野性を取り戻す森の冒険」とともに、火曜日にタイ料理のワークショップ、木曜日に打楽器のワークショップが希望者向けに開催された
8月のショートコース「Sense of Wonder ―てのひらに野性を―」。「野性を取り戻す森の冒険」とともに、火曜日にタイ料理のワークショップ、木曜日に打楽器のワークショップが希望者向けに開催された

フィールドとなったのは、木こりの清水省吾さんが所有する山で東京ドーム1個分の広さ。
環境保全型の林業を目指す清水さんは、大型重機を使わずにチェンソーと軽トラック、人力で山から木を運び出しているという。所有する山で木を切るのは年に2本ほど。木工作家から依頼があれば、一緒に山に入って、どの木を切るのかをとことん話し合っているそうだ。
また、里山部という名の活動では環境教育ガイドやチェーンソー講習会、森での遊びの提供など、自然と人との関わりについて改めて考える機会をつくっている。

清水さん。ヒグマと遭遇しないための方法を参加者に伝授。手を叩き大きな声を出して人間の存在を知らせ、ヒグマが退避できる時間をとってから山に分け入るそう(撮影/久保ヒデキ)
清水さん。ヒグマと遭遇しないための方法を参加者に伝授。手を叩き大きな声を出して人間の存在を知らせ、ヒグマが退避できる時間をとってから山に分け入るそう(撮影/久保ヒデキ)

今回、ショートコースに参加した15名は、清水さんの山に入り、さまざまな体験を行った。
シラカバの皮をはぎ、火を起こしたり松明(たいまつ)をつくったり。
木に吊るしたハンモックで休むもよし、樹齢80年の木にかかっているロープを登ってはるか遠くの景色を見るのもよし。
清水さんが釣ってきたヤマメとイワナを焚き火で焼いてランチ。
また、清水さんとともに森の案内を務めた木育マイスターの中野百合華さんによる木をつかったアクセサリーづくりのワークショップも行われた。

こうした体験の一つ一つに歓声をあげる参加者たち。ショートコースで出会って間もない間柄とは思えないくらい、和気あいあいと共同作業を行っていた。

白樺の皮は着火材として重宝する。薪をくべて魚を焼く準備をする(撮影/久保ヒデキ)
白樺の皮は着火材として重宝する。薪をくべて魚を焼く準備をする(撮影/久保ヒデキ)

「松明の煙は虫除けになる」と清水さん。松明を持って森に分け入る参加者(撮影/久保ヒデキ)
「松明の煙は虫除けになる」と清水さん。松明を持って森に分け入る参加者(撮影/久保ヒデキ)

このショートコースのプログラムを企画したのは、Compathのメンバーであり京都から移住した編集者の畠田大詩さんとデンマークのフォルケホイスコーレで学んだことのある外村祐理子 さん。
共同代表の二人から「Sense of Wonder」というテーマでコースを企画してほしい という依頼を受けて、授業 の内容を中心に、学びをデザインしたそうだ。

「夏の北海道で自然に触れることを考えたとき、自分の中にある野性的なものを取り戻すきっかけになったらいいなと思いました。そこで木こりの清水さんにメインのワークショップをやっていただき、さらに感情があふれてくるようなワークショップとして、タイ料理や打楽器のワークショップも用意しました」(畠田さん)

畠田大詩さん。カメラマンとしても活動するほか、東川の魅力を伝えるために企画や執筆、編集などを行っている(撮影/久保ヒデキ)
畠田大詩さん。カメラマンとしても活動するほか、東川の魅力を伝えるために企画や執筆、編集などを行っている(撮影/久保ヒデキ)

参加のきっかけは?体験して変わったこととは?

森で思い思いの時間を過ごした後、校舎に戻ってバーベキューが行われた。
明日は「8日間の振り返り」を行って解散ということで、夕食を共にするのは今夜が最後。
1階のテーブルや2階のスペースで思い思いにくつろぎ、さまざまな対話を行う参加者に、なぜこのコースに参加したのかを聞いてみた。

Compathではお互いをニックネームで呼び合う。左からあおとさん、前述の祐理子さん(以下、ゆりさん)、えりーさん、あんさん。ゆりさんはショートコースのキュレーターとしてプログラムの作成や運営に携わっている(撮影/久保ヒデキ)
Compathではお互いをニックネームで呼び合う。左からあおとさん、前述の祐理子さん(以下、ゆりさん)、えりーさん、あんさん。ゆりさんはショートコースのキュレーターとしてプログラムの作成や運営に携わっている(撮影/久保ヒデキ)

「いま私は29歳です。不動産開発の仕事をしていますが、現在のキャリアが自分に合っているのかを考えてみたいと思い、お盆休みを利用して参加しました」(あおと さん)

「保育士として働いていましたが退職して、次の職場を探す前に、一時期北海道で暮らすのもいいのではないかと考えていました。“推し”の俳優が東川出身だったので、このエリアで移住体験ができる場所はないかと探していたところ、このコースを知りました」(えりーさん)

二人のような社会人だけでなく大学生も今回のコースに参加していた。静岡から参加したあんさんは、父から参加を勧められたのがきっかけという。

「父は5月のコースに参加していて、『すごくよかったよ』と写真を見せてくれました。交友関係をどんどん広げていくようなタイプではなかったんですが、お友達がたくさんできたそうです。コースが終わってから、他の参加者が静岡に訪ねてきてくれたことがありました。知り合って1週間ほどなのに、こんなに親密になるってすごいなと思い、参加することにしました」(あんさん)

バーベキューをする参加者たち(撮影/久保ヒデキ)
バーベキューをする参加者たち(撮影/久保ヒデキ)

今回のコースでも、参加者同士は非常に打ち解けていて、余白の時間に対話があちこちで行われていた。
そうしたムードを培うために欠かせないプログラムの一つが、初日に行う「森のMEISHI」ワークショップ。
名刺といえば肩書きや所属が書かれたものだが、それらをあえて語らず、白い布の上に森で採取したものを並べ、いま自分がどんなことに関心があるのかや、気になっていることなどについて話すというものだ。

森にあるものを使って、自分を表現した「森のMEISHI」を使って自己紹介を行う(撮影/畠田大詩さん)
森にあるものを使って、自分を表現した「森のMEISHI」を使って自己紹介を行う(撮影/畠田大詩さん)

また、校舎の壁には「この8日間をどんな時間にしたいのか?」など、さまざまな問いかけがあり、自分自身と向き合うきっかけがつくられている。
さらにコースのグランドルールがあり、「1いまここを感じる」「2あなたと私の豊かさを愛でる」「3判断を保留する」「4感じたことを率直に出してみる」「5『共に暮らす』ための対話を続ける」といった意識を 大切にしながら暮らす。

コースの始めにグランドルールが説明され、プログラムが始まる(撮影/久保ヒデキ)
コースの始めにグランドルールが説明され、プログラムが始まる(撮影/久保ヒデキ)

「3日目の夕食のとき、ゆりちゃんが同じテーブルのメンバーの良いところを1人ずつ話してくれたんです。そのとき、自分を認めてもらえる喜びや安心感と共に、その時自分の中で感じていた劣等感のようなしんどさがあふれ出てきて、堪えきれなくなって泣いてしまって 」(えりーさん)

えりーさんによると、所属している組織で生まれる交友関係はあるが、長年知っている間柄だからこそ、自分の心の内側を語ることはほとんどないという。
また、あんさんの父のように会社以外の人との接点がなかなか生まれにくい状況もあり、なんの利害関係もない人間関係がつくれる機会は少ないそうだ。

「8日間をどんな時間にしたい?」という問いかけに、東川でトライしてみたいことや自分の気持ちをどんな方向に持っていきたいのかなどが書かれていた(撮影/久保ヒデキ)
「8日間をどんな時間にしたい?」という問いかけに、東川でトライしてみたいことや自分の気持ちをどんな方向に持っていきたいのかなどが書かれていた(撮影/久保ヒデキ)

東川には「いい顔をしている大人が多い」

Compath は、こうした参加者同士のつながりを生み出すとともに、東川で活動する人々とのつながりもつくっている。
木こりや家具作家、デザイナー、カメラマンなど東川には文化の担い手がたくさんおり、そうした人々のワークショップや、彼らとの対話の機会を 各コースで設けている。 また参加者自らが街に出かけることでもさまざまな出会いが生まれている。

「参加者の一人が『東川にはいい顔をしている大人が多い』と語っていて、本当にそうだなと。温かな人がとても多い と思いました」(あんさん)

「木こりの清水さんをはじめ、生き生きと自分の想い を話されている方に出会うことができました。周りからどう見えるかよりも、自分がこうしたいという想いから決断している姿がとても印象的でした」(あおと さん)

ショートコースで行われた東旭川にある「小さなタイ食堂 トコ」の牧野理恵さんによるタイ料理のワークショップ(撮影/畠田大詩さん)
ショートコースで行われた東旭川にある「小さなタイ食堂 トコ」の牧野理恵さんによるタイ料理のワークショップ(撮影/畠田大詩さん)

東川という自然を身近に感じられるロケーションも参加者の心に何かしらの作用をもたらしているだろう。コースのテーマであった自分が本来持っている野性を取り戻すという感覚を、確かに感じた参加者も少なくない。

「交通の便がいいところに住みたいと思っていたけれど、東川は鉄道が通っていないからこそ、ゆったり景色を見られる豊かさを感じましたし、すごく満たされている自分がいました。外食しなくてもみんなで料理を楽しめばいいし、便利じゃなくちゃ住めないという感覚が解けたように思います」(えりーさん)

ナイフで枝に切り込みを入れ松明をつくるえりーさん(撮影/久保ヒデキ)
ナイフで枝に切り込みを入れ松明をつくるえりーさん(撮影/久保ヒデキ)

人と自然と深くつながっているという感覚

参加者の話を聞いていくと、印象に残ったことや感じたことはそれぞれ違うが、共通していたのは、人や自然とのつながりを強く感じたという点ではないだろうか。
安井さんが、来る2025年冬のロングコースのテーマとした「自分と、他者と、社会との、つながりを取り戻す」に寄せた文章が、それを物語っている。

「もしかしたら現代は『つながり』が切れていきがちなのかもしれません。もしくは本当は『つながり』があるのだけど、感じにくくなっているのかもしれません。
たとえば自分とのつながり。自分は何を感じていて、心はどんな方向へ向いているのか?
たとえば誰かとのつながり。SNSやzoomではつながっているけど、本当の意味で深いつながりを感じられる人は少ないのかもしれない。
たとえば自然とのつながり。人間は自然の一部のはずなのに、人工物に囲まれていると、恵みを自覚することも多様な種と共に生きていることもわかりづらくなっているのかもしれない。
たとえば社会とのつながり。社会が遠くの誰かが作ったものになってしまって、社会をつくっていく手触りがだんだん薄くなっていく」

Compathのコースには毎回テーマが設けられているが、それは答えを明示するものではなく、参加者への問いかけである。
問いかけられることをきっかけとして自分自身と向き合うきっかけが生まれ、自分とつながり直すことで、人や社会、自然とのつながりも新たなものとなっていくのかもしれない。この活動を一言で捉えることは難しいが、安井さんが新たなコースのテーマとして掲げた「つながりを取り戻す」は、この場所を表す言葉としてぴたりと当てはまると思った。

8月のショートコースの参加者。森で記念撮影!(撮影/畠田大詩さん)
8月のショートコースの参加者。森で記念撮影!(撮影/畠田大詩さん)

●取材協力
School for Life Compath
※2024年10月、2025年2月にショートコース、2024年12月にトライアルコース、2025年1~3月にロングコースを開講予定


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