小泉今日子と小林聡美がW主演を務めるドラマ『団地のふたり』(NHK BSプレミアム4K・NHK BS/毎週日曜22時)が反響を集めている。同じ団地で生まれ育った幼なじみの日常を温かみとユーモアをまじえ描きつつ、団地というコミュニティーを通して社会の中のさまざまな問題を静かに見つめる本作。10代の出会いから40年近い付き合いとなる2人に、作品の魅力やお互いへの信頼感などを聞いた。
【写真】このふたりがそろうと最強!小泉今日子&小林聡美、撮り下ろしショット
◆団地というコミュニティーを通して見えてくる社会も描く
藤野千夜の原作をドラマ化する本作は、団地で生まれた幼なじみの野枝(小泉)と奈津子(小林)、50代、独身、実家暮らしの2人の日常を描く温かくユーモラスな物語。
野枝は大学の非常勤講師で、離婚を経験し現在は団地の実家で両親と暮らしている。一方の奈津子は、イラストレーターとして細々と活動しつつ、ネットのフリーマーケットや近所のコンビニのイケメン留学生にトキメキながら、同じく団地の実家で毎日を過ごす。そんな2人が、幼いころから知っている団地のおばちゃんや新しく越してきた住人たちの事情に巻き込まれ、時に若手として先輩方の手助けをし、時に若い世代と年配世代の橋渡しをする。そうした日常の中の小さな幸せの循環が、観る者の心をじんわり温かくしてくれる。
――本作の脚本を読まれた時の感想はいかがでしたか?
小泉:原作は長いストーリーではなかったので、連続ドラマとしてどんな脚本になるのかな?と思っていたのですが、原作の素敵なところをきちんと残しつつドラマならではのエピソードが加えられていて面白く読みました。
小林:原作の雰囲気をうまく台本として仕上げてくださっているなと思いましたし、日常的なお話なので、余白の部分がすごく多くて。2人のやりとりが多かったので、これは大変そうかもしれないと思いました(笑)。会話の量と雰囲気でドラマのテイストが決まっていくだろうなと。
小泉:同性のお友達同士のシスターフッド的なものっていろんな世代で物語が作られてきたと思うんですけど、55歳の親友同士っていうのがちょっと一味違うのは、それぞれ別の場所に行っていろんな経験をし、そのうえで戻って来て2人の時間がある。そこがちょっと違う味わいになっているなと思います。
小林:団地という環境の中でいろんな人が暮らしていて、それぞれの関わり合い方が、ドラマだからっていうのもあるのかもしれないですけど、あったかくて。今の時代にみんなが求めているようなホッとできる関係性が描かれているところが魅力の1つなのではないかなと思います。
――演じられる“ノエチ”野枝と、“なっちゃん”奈津子。それぞれのキャラクターの印象はいかがですか?
小泉:原作を読んでいた段階では、どっちがどっちの役だと思う?って話してたんだよね。どっちもありかなって。
小林:(小泉と小林の)2人を混ぜて、(野枝と奈津子の)2人に分けたような感じでね。どっちがやっても違和感なくできたんじゃないかなというくらい、近しいところのあるテイストの役ですね。
――演じられていて本作の魅力はどんなところにあると感じられますか?
小泉:団地というコミュニティーを通して見えてくる社会というのがふんわりと柔らかく描かれているんですよね。いろんなキャラクターがゲストで出てくるんですけど、社会に通ずる問題がゲストによって絡んでくる作りになっているんですね。私が印象に残っているのは親の介護を描いた回(第3回)。自分も経験しているので、切実だなと思って撮影していました。
小林:私達世代は高齢の親と向き合う世代でもありますからね。団地でロケをしていても、子どもさんたちも遊んでいたりするけれど、1人で買物に行ってる高齢の方が多かったり、そんな現実も、ドラマではハートウォーミングに皆さんに届けられる感じになっているのかなと思います。
小泉:あとは、同じ間取りでいろんな生活があるっていうのが団地ならではで、それを番組の中で毎回お伝えできるのが面白いのかなって。住んでいるキャラクターによってオシャレな部屋もあれば、引っ越してきたばっかりで何もないお部屋だったりもするんです。そんな団地だからこその面白さというのは今後も楽しみにしていただければと思います。
――おふたりのファッションに注目する声も上がっています。
小林:あははは。ジャージにワンピースにズボンをはいて。私はかわいくて好きなファッションなんですけど、50代の方の参考になりますかね?(笑)毎回、今日はどんなのを着せてもらえるんだろう?って楽しみでした。
◆小泉&小林が考える人生百年時代の「50代」とは?
――ノエチとなっちゃんの日常に50代のリアリティーを感じたのですが、お二人は「ここ、分かるな~!」と思われたところはありましたか?
小林:私は普段、ひとりテレビを見ながらつっこむようなこともないし…。
小泉:もうそういうのも過ぎたよね。
小林:ご飯もそんな手の込んだものを作らないし…。
小泉:なっちゃんの作るご飯が、お野菜や豆腐中心だったりするところはリアリティーがあるかも。でも、普段は納豆とかもっと簡単なもの(笑)。今回55歳の役ですけど、私たち50代といえど間もなく60歳なんで、最初抵抗があったんだよね(笑)。
小林:(55歳の役は)若いからね(笑)。
小泉:60代以降どんな暮らしなのかなっていま頭の中で絶賛考え中なんですけど、ちょっと自然のあるところに住むのもいいなとか考えています。
小林:(野枝の母親役の)丘(みつ子)さんが実際そういうところにお住まいになられているんですよね。1人だと体力的に難しいのかなっていうのがあって、どうするかっていうのが今の問題です。
――人生百年時代と言われますが、おふたりが考える、50代の大変さはどんなことでしょうか?
小林:大変さ…。あまり感じないですかね…。
小泉:体にすごくきている友達もいるかもしれないけど、私たちはあまり変わりなく過ごせたね。
小林:大きな病気もせずね。
小泉:本当に健康が一番だなっていうのは50代になって分かるところだなって。
小林:しみじみ分かる(笑)。健康でなければいろいろ楽しいこともできないしね。
小泉:(2人は)そういうところの思想も合ってるから、すごく楽だったよね。食べるものとか。
小林:ちょっと興味のある美容のこととかね。
小泉:そういう感じで、50代もそんな変わらない。とにかく健康だけを手に入れていれば、何歳になってもたぶん楽しいんですよ。ただリスクは高くなってくるじゃないですか、病気になるとかどこか体を壊すとか。でもきっと、聡美さんも私も若いうちから、健康に対してそういう志向があったと思うんですよね。だから培われたものは似てるよね。私もすごい粗食派だし。
小林:そうだね。おいしいものは好きだけれど。
小泉:かといって、美容だとか、そういうことに対してすごい頑張ってます!っていう感じもなく(笑)。
小林:自然に老いを受け入れて(笑)。
小泉:私達の感覚が遠くないから、一緒に演技をしていて、自然になっちゃんとノエチになったのかなという気もしています。
小林:30代とか40代はその人が置かれた環境にもよると思うんですよ、子どもがたくさんいて、育てていてとか。そうなるとやっぱり体も疲れるでしょうし、気も遣うでしょうし。私達はたぶん特殊というか、自分の好きな時に休めて、自分の好きなことを選べるみたいなところで、ありがたいな、幸せだなと思います。
◆大先輩が多い現場いろいろな話を聞ける機会が幸せ
――今回のドラマには、橋爪功さん、丘みつ子さん、由紀さおりさん、名取裕子さん、ベンガルさんと大先輩の皆さんが多く出演されています。
小林:最近どの現場に行っても、最年長だったりするので今回は久々に後輩気分を楽しめました。
小泉:先輩方は、本当にお元気で素敵なんですよ。先輩方のお話を聞ける機会があるっていうのは本当に幸せでした。
小林:楽しかったです。
――小泉さんは、由紀さんとは『あんみつ姫』で、橋爪さんとは『愛するということ』でご共演されています。小林さんも名取さんとは『3年B組金八先生』でご一緒でしたが、若い頃の自分を知る先輩との共演はいかがでしたか?
小林:当時は子どもだったのでお話も普通にできなかったところを、私も大人になって、先輩方と普通に大人としていろいろ会話ができる。「昔はこういうふうに思っていたのよ」というお話を聞いたりできるというのは、豊かで面白いなと感じました。
小泉:由紀さんも橋爪さんも変わらないんですよね。由紀さんは昔からいろんな話を気さくにしてくださる方で、それもまったく変わっていないし、橋爪さんもちょっとユーモアを持って接してくれるところも変わっていなくて。ずっとこの世界で変わらずいてくれて、由紀さんなんていまだにものすごい数のライブをやっていたりする。まだまだ自分も行けるかな?っていう希望みたいなものを、今回先輩方にたくさん見せていただけました。丘さんも名取さんもお元気だし、オシャレで。すごくいい時に再会できたなという感じがしました。
あと、お兄ちゃん役の杉本哲太さんと、第3回ゲストの仲村トオルくん、そして聡美さんと私は同学年だったりするんです。4人のシーンは同窓会的な感じでウルっとしました。
◆40年の付き合いの2人お互いの信頼できる点&今後演じてみたい関係性は?
――小泉さんと小林さんは、1985年放送のドラマ『女の一生』から、さまざまな作品で共演されてきました。
小林:今回は幼なじみということで、大人ならではの気配りみたいなものを取っ払った、楽な関係性でいられる同士という役でやりやすいですね。
小泉:同じ学年なので、何か話題が出た時に、なんにも打ち合わせしなくてもパッと合わせられるみたいな幼なじみ感はもともと持っているかもしれないですね。役を作っていく上で、台本をどう面白く表現するかという点でもストレスなくできたかもしれないです。
出会ったのが10代で、そこから30代、40代と一緒に作品を作ってきたので、もう幼なじみみたいなものかもしれないです。でも、しょっちゅう会ったり、メールや電話をするということはなくて。
小林:お互い知らないことも多いよね。
――初共演の時のことは覚えてらっしゃいますか?
小泉:長崎まで来て鬘(かつら)かぶってるねって(笑)。
小林:着物着てるねって。
小泉:あの頃は一緒にご飯を食べよう!とも言えなくて。「金八先生見てたよ…」って心の中で思ってました(笑)。
小林:小泉さんは大人気で忙しそうでしたね。でも、本当に自分をしっかり持ってるっていう感じはその時からあって。そういう人なんだなって遠くから眺めていました。
――もう40年近いお付き合いとなりますが、お互いのここが信頼できる!と思われるところはどこでしょう?
小林:とにかく、嘘がないところがすごく信頼できるし、正しいと思うことはそこに行きたいと思って頑張るし。そこが信頼できるっていうか、すごいなといつも思っています。
小泉:天才だと思うんです。何を観ても。本人はそう思わないかもしれないけど、表現者としての引き出しにものすごく綺麗にきちんと整頓された何かが入っていて。私は引き出しは大きいのを持っているんですけど、開けるとガッチャガチャで、どこにあったっけ?っていう感じ(笑)。でも、聡美さんはきちんと入ってる感じなんですよね。
なので、何かこういうものをやってもらおうという時や、こういうものを一緒に演じようという時に、「何を出してくるんだろう?」といつも楽しみで。「そっちか!センスいいなぁ、やっぱり」みたいな。見てるのがいつも楽しいんです。
小林:嫌なことやこれは恥ずかしいなってことの趣味が合ってるんですよね。これバカっぽくて面白いとか。
小泉:そうそう(笑)。
小林:そういうところのセンスが近いから、きっとやっていて面白いな、と思えるのかなと。
――これまでは、仲良しな関係の役どころが続いてきましたが、今後こんな関係性を演じたいというものはありますか?
小林:えぇ~。敵対する役とか怖そう~(笑)。
小泉:(笑)。私は敵対する役はやりたくないけど、今回『すいか』(編集部注:2003年放送のドラマ。小林が真面目に働いてきた信用金庫職員・基子を、小泉が基子の同僚で信金の金を横領し逃亡を続ける馬場ちゃんを演じた)を思い出すというご意見も来てるんです。でも、『すいか』で語るなら、基子側に馬場ちゃんがストンと落ちた世界がここ(『団地のふたり』)だとしたら、ちょっと馬場ちゃん側に落ちた世界も見てみたい。ダークな感じの。
小林:面白そうだね。ほのぼの系じゃない感じの。
小泉:結局協力し合うけど、もうちょっとハードな関係性で。『テルマ&ルイーズ』じゃないけど、そういうちょっとアクティブな作品とかで共演したいですね。
小林。でも、吹きそう。(小泉は)すぐ吹くんですよ。
小泉:疲れてきちゃうと、感情がコントロールしにくくなって、怒るとかじゃなくて笑っちゃう(笑)。きっとそういうふうに死んでいくんだろうなというのが見えています。
小林:(笑)。
(取材・文:田中ハルマ写真:松林満美)
プレミアムドラマ『団地のふたり』は、NHK BSプレミアム4K・NHK BSにて毎週日曜22時放送。
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