不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第108回のテーマは、日本代表のコーチに就任した長谷部誠について。先日のアジア最終予選の代表メンバー発表で、サプライズ的に発表された長谷部のコーチ就任。代表キャプテンや海外組としての経験が豊富な長谷部が代表チームに与える影響を福西崇史が解説する。
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9月から「FIFAワールドカップ26 アジア最終予選」が始まり、日本は初戦・中国に7-0、第2戦・バーレーンに5-0と、これ以上ない最高の結果でスタートできました。
その最終予選に臨むメンバー発表で話題の一つになったのが、昨季で現役を引退した元日本代表・長谷部誠のコーチ就任です。サプライズ的に発表され、選手よりも注目が集まっていたかもしれません。
2010年のW杯南アフリカ大会からロシア大会までキャプテンとして長く日本代表を率いてきた実績はもちろん、ブンデスリーガで16年にわたってプレーし、浦和レッズ時代も含めると22年の選手キャリアは偉大です。
そんな長谷部のコーチングスタッフ入閣が、日本代表にとって大きなメリットがあるのは想像に難しくありません。
なによりも大きいのは、選手と近い距離感で、彼の経験に基づいて相談やアドバイスができることです。もちろん、森保一監督やそのほかのコーチともコミュニケーションを取りますが、より選手側に近い長谷部がいることで、いろんな相談がしやすいのは間違いない。
最終予選というのは大きなプレッシャーのかかる戦いです。それを森保監督や名波浩コーチも現役時代に経験してきました。ただ、その頃とはサッカーがだいぶ変わり、アジアのレベルも大幅に向上し、日本の立ち位置も変わりました。
その点、長谷部はそうした変化してきた時代を経験し、最新のサッカーについても肌感覚で知っています。そうしたコーチ陣とのギャップを埋め、選手たちに近い感覚で色んな不安や悩みを話すことができ、安心感を与えられる存在になると思います。長谷部をコーチ陣に入れたもっとも大きな理由はここだと思います。
その他にも監督には言いづらいことを相談したり、選手間で決めることにも良い相談役になれるし、海外組の移動の疲労やメンタル的な面まで長谷部は全部経験してきているぶん、親身になって話が聞けるでしょう。
最近ではシステムを4バックから3バックに変え、より攻撃的なスタイルを模索している代表ですが、長谷部はフランクフルトで3バックの経験も豊富です。最新のサッカーの情報にも時差がなく、戦術的なことにもピッチレベルの話ができる。ここらへんも森保監督が彼に求めていることの一つだと思います。
もう一つは選手と監督の間に入ってコミュニケーションをより円滑にできること。森保監督は選手の話を聞いてくれる人ではありますが、長谷部がいることでよりそうした環境を整えるという狙いがあると思います。
森保監督は「選手たちのほうが、経験値がある」という話をしていましたが、長谷部がそこで監督と選手の間に入り、相談に乗りながら選手側の意見として吸い上げ、監督に通すこともできます。
それから代表のトレーニングも分業制になって、攻撃については名波コーチや前田遼一コーチが仕切り、守備については齊藤俊秀コーチがやっていますが、コーチにもそれぞれ考え方があるなかで、選手側の考えを長谷部が集め、それをコーチ陣と共有する。そうしたことができると思います。
私が現役の頃は、監督と選手の距離はそれほど近いものではなく、それによって抱えていた不安や悩みはあったけれど、長谷部のような存在はもちろんいませんでした。だから今の代表がすごく羨ましくもあります。長谷部がいることで、選手と監督との風通しはよりよくなるのも間違いないと思います。
それとキャプテンの遠藤航が長谷部にキャプテンとしての悩みを相談できることも非常に大きいと思います。遠藤は自分をキャプテンぽくないと言っていて、長谷部も最初はそんなことを言ってキャプテンマークを巻いていました。
それでも長谷部ほど長く代表のキャプテンを全うした選手はいません。遠藤が抱えるであろうキャプテンとしての悩みをわかってあげられると思います。そうしたことを打ち明けられる数少ない貴重な存在だと思います。
最終予選は最高のスタートを切れましたが、今後もそうなるとは限りません。難しい局面になるほど、経験が求められるものです。本大会への出場を決めることができれば、より彼の経験値が代表チームにとって大きなものになるでしょう。
今後、長谷部がどのように代表チームに影響力を与え、日本の発展に貢献してくれるのか楽しみにしたいと思います。
構成/篠 幸彦撮影/鈴木大喜
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