世界の女性アーティストを撮り続けてきた写真家・松本路子の映画初監督作で、20世紀を代表するフランス出身の造形作家ニキ・ド・サンファルの軌跡を追ったドキュメンタリー「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」完成披露試写会が9月10日、日比谷図書文化館日比谷コンベンションホールであり、松本監督と本作でナレーションを務め、「黒猫同盟」としてエンディング曲を提供した小泉今日子が上田ケンジとともにトークイベントに登壇した。
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【フォトギャラリー】小泉今日子が登壇したトークイベント
女性としての困難や怒りをアートに昇華させ、カラフルで解放的な女性像「ナナ」シリーズや、遊び心あふれる野外彫刻や建造物などを創作。その集大成として、イタリアのトスカーナに20年以上の歳月をかけて彫刻庭園「タロット・ガーデン」を創り上げたニキの生涯と作品に迫る。
コロナ禍も経て構想からおよそ6年、撮影に3年、編集に1年をかけて完成した本作。松本監督は「やっとたどり着いた感じ。人生でやり残したことは何かと考え始めた頃、もう一度ニキに向き合ってみたいと考え、私自身が1人のアーティストの生涯をたどることで、自分自身が来た道もたどってみたいと思った」と制作の経緯を語る。
50年間写真家として活動してきた松本監督。ニキが制作した巨大な建造物や動く彫刻作品を目にし、動画で記録してみたいとの意欲が出て「70歳を目前にして、今後どれだけの仕事ができるか考えた。ムービーカメラを担いで、山を登るのは今じゃなきゃできないだろうと思って。それでちょっと冒険してみよう」と新たな領域に挑んだ。
小泉は本作で松本監督と出会う前から松本監督の写真集について、自身のポッドキャスト番組で「すごくかっこいい女たち」と紹介していた。その番組を聴いた松本監督は「その声が優しくて、柔らかくて、凛としていて。直感的に、この方のこの声にナレーションしてもらいたいと思ったんです」と、面識のなかった小泉に直接連絡を取り、今回のコラボレーションが実現した。
小泉は「私には今、マネージャーはいません。マネジメントを全て自分でしています。松本さんからお手紙をいただいて、あの写真集の方だと気づいて。私が仕事を受ける時の1番の基準は、心が動かされること。作っている人の思いや純度が伝わると、私にできることがあるのなら、参加させていただきたいなという思いで参加しました。でも、(ナレーションの)録音に関しては『上手にできたかな?』まだそんな域です」と、現在の自身の仕事のスタンスについて語った。
本作のテーマである、芸術家ニキ・ド・サンファルについては「それまで表面的なポップアートとしか捉えていなかったけれど、この映画でニキの活動の深部まで触れられた」といい、ニキの代表的なパファーマンス作品「射撃絵画」を挙げ、「対象物を撃ちながらも自分自身を撃っているように見えて。でも、私たち創作活動をするものは必ず定期的に自分を撃っている。自分を壊さないと次のものが生まれなくて、ちょっと苦しい時期があったりする。だから、アーティストがあの場面を見たら、そんなふうに感じるのじゃないかな」と俳優のみならず多彩なフィールドで活動する自身の立場を重ね共感していた。
小泉とともに「黒猫同盟」として活動する音楽家の上田ケンジは、ギリシャ発祥で、その後アイルランドの民族音楽や一般的なポップスでも用いられるようになった楽器、ブズーキを使った楽曲を制作。「僕が持ってるアイリッシュブズーキーは岐阜の工房で作られていて、世界を旅して、どこに収まるかわからない珍しい楽器。だけどそこがニキと共通点があると思った」とエンディングテーマの楽曲の発想について説明し、「見たことあるなと思ったのが『ナナ』のシリーズ。明るくて快活な人生を送られた方なのかな、と思って映画を観たらあっと驚きだった」と映画の感想も語った。
松本監督は、ニキの作風を「遊び心があって、シリアスで哲学的」と評し、「ニキが残したメッセージを受け止めていただけたら」と観客に呼びかけ、小泉も観客向けの写真撮影にも気さくに手を振り笑顔で応じていた。
「Viva Niki タロット・ガーデンへの道」は9月25日公開。
【作品情報】
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Viva Niki タロット・ガーデンへの道
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