「美談ではない」引きこもり時代を振り返って── 山田ルイ53世が保護者に伝えたい本音

「美談ではない」引きこもり時代を振り返って── 山田ルイ53世が保護者に伝えたい本音

「美談ではない」引きこもり時代を振り返って── 山田ルイ53世が保護者に伝えたい本音

9月3日(火) 0:00



©サンミュージックプロダクション

お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さんは、勉強もスポーツも万能だった「神童」から一転、中学2年生から約6年間、引きこもり生活を送りました。今だからこそ語れる親への思いや、子どもが不登校や引きこもりになった時、保護者はどんな心構えでいるとよいか、自身の考えとメッセージをいただきました。

この記事のポイント

「しばらく放っておいてくれと思っていた」 専門家のサポートを、もっと気軽に受けたかった 『美談』にすることには違和感がある 保護者がすべてを背負うことはできない

「しばらく放っておいてくれと思っていた」

自覚がないままに張り詰めていた糸がプツンと切れてしまい、夏休みの宿題にまったく手をつけず、学校に通えなくなった山田さん。

自分の中に根強く残る『神童感』からくる自己肯定と、周囲とのギャップへの焦りや不安からくる自己否定を繰り返し、躁鬱(そううつ)のような状態に苦しみます。

親から見ると「優秀で従順な息子」で、空気を読むことにもたけていましたが、引きこもっていた期間、特に最初のころは、親に対して「しばらく放っておいてくれと思っていた」と言います。

「放っておいてくれたら、ちゃんと夏休みの宿題を終わらせて、また普通に学校に通うから、ちょっとくらい休ませてと思っていましたね。ただ、明確に言えるのは、当時、僕が望んだように親が静観していたとしても、引きこもり続けたという事態は変わらなかっただろうということ。

僕の場合は自分の内面の葛藤(かっとう)から引きこもっていましたから、親に見守られようがうるさく言われようが、結局は同じだったと思います」

専門家のサポートを、もっと気軽に受けたかった

勉強するまでにやらなければ気が済まないルーティンが膨大になり、勉強にたどり着くことさえできなくなっていた当時の状態は、のちに専門家から「強迫性障害(強迫神経症)」だったのだろうと言われます。躁鬱のような状態もあり、「気軽に相談できる場所があればよかった……かもしれない」と山田さんは言います。

「カウンセリングを受けるとか、メンタルクリニックに通うとか、専門家の心理的・精神的なサポートを、もっとオープンに気軽に、ポップな感覚で受けられればよかったなと今は思います。当時からそのような環境はあったのかもしれませんが、少なくとも山田家においては、そういうサポートを受けるという選択肢は思いつきませんでした」

さらに、専門機関にかかることの必要性について、こう続けます。

「風邪をひいたら病院に行って薬をもらうのと同じ感覚で、当たり前にそういう機関にアクセスできるようになれば、当事者も家族も、気持ちがずいぶんラクになるんじゃないかと思いますね。一方で、どういうところに相談すればいいかわからないケースもあると思うので、そのあたりの整理も大事やと思います」

『美談』にすることには違和感がある



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最近は引きこもりや不登校の子どもたちと接したり、保護者向けに講演したりする機会も増えている山田さんですが、自身の体験を「『美談』として語られるのには違和感がある」と言います。

「引きこもりは悪ではないですし、いじめや暴行、誹謗(ひぼう)中傷などで深く傷付いて、通えなくなってしまうケースだってある。それ自体は決して悪いことではありません。かと言って、あくまで自分が引きこもったケースについてですが、前向きにとらえているわけでもありません。

中には、引きこもったことで得るものがあったり、いい出会いがあったり、それが仕事につながっている人もいると思います。そういう人がいてもいいし、そういう人が多いほうがすてきだとも思います。でも、無理やり『美談の着地』としてきれいごとで済ませるのも、それはそれで違うのではないでしょうか」

保護者がすべてを背負うことはできない

結婚し、現在は2児の父となった山田さんは、「保護者という立場に多くのことが求められすぎている」と感じています。

「保護者は、我が子のことを無条件にかまったり心配したりするだけで十分だと感じています。小言だって言っていいと思いますよ。だって、言ったらあかんと思うと余計にしんどいですもん。親になったからといって、突然、徳の高い、高尚な人間になれるわけじゃないですから」



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では、保護者には何ができるのでしょうか?

「できることがそんなにたくさんあると思わないほうがよいかもしれません。何とかしてあげたいと思う気持ちは理解できますし、当然ですが、人の心理や行動を、外から劇的に変えるというのはとてつもなく難しい。子どもも一人の人間ですから。保護者にできるのは、環境を整えるとか、選択肢を示してあげるとか、そういうことではないでしょうか。万能薬なんてないのですから」

さらに、子どもが落ち込んでいても「保護者まで落ち込む必要はない」と続けます。

「『子どもが引きこもっているんやから、私も落ち込まなきゃいかん』という空気感って、あまりよくないと感じていて。趣味でもなんでも、これまでどおり楽しんだらいいと思います。

子どものころは、親には親の人生があるなんて俯瞰(ふかん)して見られませんでした。でも今は、家族みんなで苦しむ必要はないと思っています。簡単ではないでしょうが、子どもが引きこもっても、不登校になっても、保護者や家族はこれまでどおりでいいのではないかなと。『オレが苦しんでいるのに、お前ら(親御さん)だけ楽しみやがって……』と反発を買うかもしれませんが、トータルで考えると、家が暗くなるより好ましい状態かと思うんです。親はもっと楽に生きていいと、心からそう思います」

(全3回・終聞き手/文:笹原風花)

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