セブンイレブンにカナダ企業が5兆円の買収提案。日本のコンビニ業界「客足増でも売上が伸びない」理由

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セブンイレブンにカナダ企業が5兆円の買収提案。日本のコンビニ業界「客足増でも売上が伸びない」理由

8月25日(日) 8:53

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物価高による節約志向の増加でコンビニエンスストアが苦しんでいる。個人消費が4期連続(2024年1~3月)のマイナスとなり、消費者の先行き不安が高まっている。そして、物価上昇に賃金上昇が追い付かず、景気に無頓着だった若者も、節約を意識した購買行動に転換しつつある。

内閣府の発表によると、2024年 4~ 6月期の実質GDP(国内総生産)の成長率は、 0.8%(年率3.1%)となった。名目GDPの成長率は、1.8%(年率7.4%)となっており、これは同年1~3月期が自動車の認証不正問題などによる生産停止などにより落ち込んでいた反動と推測されている。

そのため、個人消費の基調は弱い状態のままのようで、不安が払拭された訳ではないようである。カナダの企業による買収提案が報じられたセブン&アイHD、非上場企業となったローソンなど、変化の激しいコンビニ業界について迫りたい

コンビニの国内市場規模は11兆6593億円

行く機会が減ったコンビニだが、その存在価値は低下したのであろうか。日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニの国内市場規模は11兆6593億円、5万5713店舗、客単価720.5円(2023年12月時点)。コロナ前(2019年)の国内市場規模は11兆1608億円、5万5620店舗、客単価639.3円だから、デフレ終焉と緩やかなインフレもあり、コロナ禍は10兆円後半で推移していた売上は若干伸びているが、4年間で4%の伸びに留まっている。

ちなみに客単価は2019年の639.3円から2023年は720.5円と、4年で81.2円も伸ばしており、客数の伸び悩みを客単価で補っているようだ。客単価は9年連続で増加しており、緩やかなインフレと共に、昨年5月に行動制限がなくなり、コロナの5類移行で経済・社会活動が正常化したことが大きい。

それに加えて訪日外国人の回復による人流・観光客の増加、記録的な猛暑で高温などに対応した品揃えとキャンペーンの実施で、販売が好調だったことも要因とされている。

買収額は5兆円セブン&アイHD

店舗が大型で経営効率が低いが低価格で集客力を高める大手スーパーに対し、定価販売を基本とするが小型店で小回りが効くコンビニ。コスパで勝負する大手スーパーと、経営効率が高くタイパで勝負するコンビニという両業態の対立軸は対照的だ。

セブン&アイHDがカナダの企業、アリマンタシオン・クシュタールから買収提案を受けたとの報道(読売新聞、8月19日)があった。翌日20日の朝の情報番組も一斉に報道している。買収額は5兆円らしく、世界全体で7万200店超あるコンビニのセブンイレブンがほしいのだろうと解説されていた。

アリマンタシオン・クシュタールが運営するコンビニ「サークルK」はアメリカで2位の店舗数をほこっているが、1位のセブンイレブンを買収すれば一気にマーケットシェアが高まる

経営が非効率的だったセブン&アイHD

売上は同規模だが、時価総額が倍以上の買い手。セブン側も多様な業態を抱え、経営が非効率的だったのが実情だ。

そのための改革として、前年に百貨店事業(西武・そごう)を売却、今年ニッセンHDも売却し、祖業のイトーヨーカドーも店舗の整理を実施中だ。もしコンビニ最大手の買収が実現すれば、今後のコンビニ業界はどう変わるか気になるところだ。委員会、株主、機関投資家などの判断を注視したい。

日本フランチャイズチェーン協会の発表(2024年8月20日)によると、2024年1月からの実績では、売上は前年に対して微増(2月はうるう年で営業日数が1日多い)ではあるが、客数の前年比同期比マイナスの月も多く、かつての勢いがないのは顕著である。

【日本フランチャイズチェーン協会の発表(2024年1~7月)】
全店売上店舗数1店舗平均1日客数1店舗平均客単価
1月:9229億円(+1.6%)/55,657店(-0.2%)/727人(+1.9%)/735円(-0.3%)
2月:8938億円(+5.4%)/55,657店(-0.3%)/760人(+4.3%)/728円(-1.0%)
3月:9701億円(+0.3%)/55,620店(-0.2%)/778人(-0.6%)/723円(+0.9%)
4月:9539億円(+0.2%) /55,647店(-0.2%)/804人(+0.9%)/711円(-0.7%)
5月:9858億円(+1.3%)/55,641店(-0.1%)/808人(+2.1%)/713円(-0.9%)
6月:9775億円(+1.6%)/55,637店(-0.2%)/826人(-1.2%)/709円(+0.4%)
7月:10507億円(+0.6%)/55,684店(-0.2%)/850人(+1.1%)/716円(-0.4%)


イオンが展開「まいばすけっと」に注目

コンビニは、食品、飲料、日用雑貨などを幅広く扱う長時間営業の小型店。約30坪程度の売り場にATMや多機能情報端末を備え、公共料金の支払いやチケット発行など多様なサービス機能も持ち、利便性を売る成長著しい業態だ。何も買う予定がなくても、立ち読みでブラっと寄る人も多く、ついで買いを誘発したりしていたものだった。開いていると安心する、なくては困る町のインフラ的な役割も担っていた。

しかし、社会の環境変化に迅速かつ柔軟に適合させてきたコンビニも、この節約志向の高まりに対応するのが困難になっている。また、ドラッグストアなどとの競争激化もあり、苦戦を強いられている。各社、さまざまなキャンペーンを実施しているが、なかなか優位性を確保できず、加盟店の集客支援にも苦労しているようだ。

コンビニは、食品、飲料、日用雑貨などを効率よく、小規模スペースで約3000品目を幅広く扱う小売店だが、最近は生鮮品を含む食品に特化したイオンが展開する「まいばすけっと」が注目を集めている。都心において、こだわりのある安さと品質を毎日提供するまいばすけっとは、買い物動線の長い大型スーパーと違い、効率よく買い物ができるので高齢者にも人気のようである。若者離れが深刻な中、その補完的役割を担ってくれていた高齢者まで他店に奪われる心配があり、コンビニにとっては“新たな脅威”となる存在だ。

値引きシールを貼るなどの工夫も

近くにあり便利だからと、お金より時間を節約するタイパ派の人たちに支持されていたコンビニ。店にとっては、ほぼ定価で買ってくれるからありがたい。廃棄処分を軽減させるために、値引きシールを貼り販売しているのは最近のことだが、基本は定価による販売だ。コンビニに行けば今のトレンドが分かるといったメリットも大きかったが、節約志向の人の増大に、来店数が伸びていないのも実情である。

人口減少をインバウンドによる海外旅行者で補完している日本。客数が伸びないのはコンビニ市場が飽和状態だからという理由だけではないようである。毎月、300品目以上の新商品が発売され、話題性を集めながらトレンド商品を作り出し、社会に価値を提供していたコンビニの訴求力の低下は否めない。

各社がいろいろなキャンペーンを実施し、今しか買えない、ここでしか買えない(有名シェフを冠したカップ麺など)など、限定品に弱い日本の消費者に販売チャネルを制限し、消費意欲を喚起して集客の努力をしているのはよく分かる。

また、あまり遠くに買物に行けない高齢者も昼食時にコンビニを利用している。一人暮らしをしている高齢者にとっては単に便利に買い物をするだけの場所だけでなく地域のコミュニティの場としても活用されており、地域密着の店として日課となっている人もいる。

本部とFC加盟店の共存共栄

コンビニはフランチャイズシステム(FC)を活用して本部と加盟店が共存共栄することを目的にした代表的な業態である。最初はお互いを、経営理念共同体として良好な関係の中、ベクトルを合わせながら、ビジネスを円滑にスタートさせるが、実績が思うようにいかなければ大変で、相互が見苦しく罵り合いを始め争うことになる。

お互いが不満を言い出し対決姿勢を表立って明確に示す強気な加盟店も多い。双方が話し合いでうまく解決できればいいが、言い出したら引き下がれないところも多くある。巨大なフランチャイズ本部を相手に戦う個人オーナーの覚悟は半端ではできないし、そう勝てるものではない。

加盟店同士が連携し、訴訟を起こすのはコンビニに限らず、よくある話だが、時間とお金の問題から相当な覚悟がなければできないだろう。加盟店が勝つケースはあまりないように思えるのが正直なところだ。加盟店側が勝訴したケースを紹介すると、「コンビニエンスストアにおける見切り販売妨害」について、東京高等裁判所の平成25年(2013年)8月判決で、加盟店側が勝訴した例があるがこれは稀なことである(「コンビニエンスストアの見切り販売妨害と優越的地位の濫用」より)。

今年で50年のコンビニの今後は?

コンビニは地域や生活者にとって、社会生活のインフラのひとつであり、なくてはならない存在である。単なる小売店ではなく、防犯・防災・公共サービスの提供など、地域社会における大切な役割を担っている

少子高齢化・核家族化・女性の社会進出、ライフスタイルの変化に対応した品揃えで、カウンター商材、冷凍食品、調理麺、おにぎり、デザートなど中食を中心に販売する利便性の高い最も成長していた業態だった。

しかし、コロナが収束し、行動制限も全くなくなった今、客足が回復しているはずなのに、思うように業績は伸ばせていない実情をどう改善するか。1974年、東京の豊洲でセブンイレブンの1号店がオープンして、日本で進化したコンビニ。今年で50年だ。この節目にさらなる成長を目指した業態にブラッシュアップしてもらいたいものである。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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