鬼ヶ島から戻った桃次郎が抱える秘密とは――。兄弟ユニット作家、大森兄弟さんの新作『めでたし、めでたし』は誰もが知るおとぎ話「桃太郎」のユニークな後日譚。本作をいち早く読んだ伊坂幸太郎さんも「超絶技巧」と激賞したのだそう。
鬼ヶ島から帰っても物語は続く。あのおとぎ話の奇天烈な後日譚。
きっかけは編集者からの提案。兄弟の作風の魅力を活かすため、「桃太郎」のようにすでに世界観が確立したものの続編を書くのはどうか、という打診だったという。
「僕も弟も“面白い~!”となって。そこからルノアールに集まっては、どんな話にしようかと話し合っていきました」(兄)
鬼ヶ島で鬼を退治し、犬、猿、雉と共に奪われた宝物を持ち帰った快男児・桃次郎。元の持ち主に名乗りでるよう呼びかけ屋敷には行列ができるが、桃次郎はなぜか宝を返そうとしない。不満が募る人々の混乱をおさめようと忠義心の強い犬は必死、お人好しの猿は苦悩し、なぜか雉は毎日どこかへ出掛けていく。
一方、桃次郎は持ち帰った鬼の首に執着している様子。そんな彼には景色が文字で見えるという不思議な能力があるが、「実はダジャレから発想したんです」とお兄さん(読めば何のダジャレか分かります)。が、この能力がじつは物語の大きな鍵。
ユーモアたっぷりながら、濃密で巧みな文章世界が均質に構築されているのが驚きだ。お二人は、役割を分担せずに共同で執筆していくスタイルなのだそう。
「試し書きを出し合って、それを互いに上塗りしていくことが多いですね」(弟)
「カレーも、混ぜているうちに味が馴染んでいきますよね。あんな感じです(笑)」(兄)
やりとりを始めて半年経った頃、ふと立ち止まる瞬間があった。
「僕たちは単にパロディをやって、結末を遅延させているだけでは、と気づいて。そうしたら弟が、“なんで物語って終わりがあるんだろう”と言ったんです。その頃ちょうど僕は『ファイナルファンタジー』をやっていて、終わらせたくなくてずっと魔王の城の前でうろちょろしていて。物語の“終わりがある”という性質vsプレイヤー(登場人物)みたいな発想に繋がりました。ただ、物語は閉じないと完成しない。そこから物語が閉じたと思えるのはどういう時か、と考えていきました」(兄)
終盤は大きな存在も現れて、実にダイナミックな展開になり、鬼の首の正体にもびっくり。物語の最後には、読者は「めでたし、めでたし」という言葉の何重もの意味を味わうこととなるはず。
それにしても大森兄弟さん、お二人とも実に穏やかで、仲が良さそうな雰囲気が印象的。一人で小説を書こうと思ったことはあるのだろうか。
「ないですね。僕は一人で書き切れる力はないと思います」(兄)
「僕も今のところないです。ルノアールで小説のアイデアを話して、兄がゲラゲラ笑ってくれるのが楽しいんです」(弟)
大森兄弟『めでたし、めでたし』鬼ヶ島から帰還したものの、なぜか持ち帰った宝物を人々に返そうとしない桃次郎…。犬、猿、雉はどうする?桃次郎の真意とは?中央公論新社1980円
おおもりきょうだい兄(左)と弟(右)の兄弟ユニット作家。2009年『犬はいつも足元にいて』で文藝賞を受賞してデビュー。著作に『わたしは妊婦』『ウナノハテノガタ』など。
※『anan』2024年8月14日‐21日合併号より。写真・土佐麻理子中島慶子(本)インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
【関連記事】
青羽悠「主人公は僕がなりたかった人物像」 学生時代のきらめきと痛みと成長を追体験できる『22歳の扉』
推し活がはらむ闇も!? 推し活のリアルを描いた、少しホラーな物語『コレクターズ・ハイ』
構想・執筆に10年かけた恩田陸によるバレエ小説『spring』 架空の演目は「私の妄想です (笑) 」