歌手の
和田アキ子(74)が司会を務めるTBSの情報バラエティ
『アッコにおまかせ!』(日曜午前11時45分)が強い逆風にさらされている。放送開始から39年で、ここまでの苦境は初めてに違いない。どうしてこんなことになったのか。検証してみたい。
悪気がなくてもNGだった“トド発言”
逆風の理由の1つは東京都知事選の投開票日だった7月7日の放送で、
宇内梨沙アナ(32)が「(投票用紙には)立候補した名前で書いてください。ひらがなで立候補している人がひらがなで、漢字で立候補している人は漢字で書くようにしてください」などと誤った情報を伝えてしまったことにある。お粗末なミスとしか言いようがない。
2つ目の理由は和田の言葉にあった。8月11日放送でのことだ。パリ五輪陸上女子やり投げで
北口榛花選手(26)が金メダルを獲ると、和田は自分がファンだったため、「何回見てもだめ。涙腺が弱くなっているから」と、喜びを口にした。
反感を買ったのはその次の言葉である。北口選手はゲン担ぎの意味もあって、競技の間にカステラを口にするが、その映像を見た和田は「アハハ。なんか、トドみたいなのが横たわっているみたいな。かわいいなあ」と言った。
直後からSNSでは和田批判が渦巻く。もっとも、和田はおそらく自分が責められている理由が分からなかったのではないか。和田の言葉には悪気がないからである。それは「かわいいなあ」という言葉からも分かる。もっとも、悪意がなくてもダメなのである。2010年代ごろから世がコンプライアンス社会に入ったからだ。
悪気の有無は関係なく、問題発言は咎められる時代になった。たとえば個人の尊厳を傷つける言葉は厳禁だ。和田のケースもこれにあたる。人間の姿を動物にたとえたところが不適切だった。北口選手が金メダリストかどうかは別問題である。
コンプライアンス時代化とほぼ同時にSNS時代になったことも大きい。SNSがない時代の視聴者は沈黙を余儀なくされたが、今は違う。賞賛や抗議の声を上げられる。出演者や番組側はそれを無視できない。
コワモテの芸風を弱めた過去も
また、和田には弱点があるようだ。北口選手も含め、後輩への言葉がぞんざいになってしまうように思えてならない。芸能界は体育会系社会で、先輩は後輩よりエライという風潮が強いせいだろう。和田は1968年のデビューで、この世界に56年いる。
しかし、やはりコンプライス社会化によって、世間では先輩と後輩の関係性も見直されはじめている。一般企業では先輩と後輩のタテの関係を解消しつつある。存在するのは上司と部下の関係のみ。しかも主従関係ではない。
世の中がそうなったから、和田のように先輩風を吹かせるタイプのタレントに違和感を覚える視聴者もいるはず。和田らには意識改革が求められる。
意識改革はそう難しいことではないはず。和田はこれまでにも何度か自分を変化させているからである。たとえば、タレントとしての出世作は日本テレビ
『金曜10時!うわさのチャンネル!!』(1973年)でのゴッド姉ちゃんで、自分以外を子分扱いしていたが、1980年代にはコワモテの芸風を弱めた。
打ち切り説も囁かれるが…
『アッコにおまかせ!』については打ち切り説が報じられているものの、調べたところ、少なくとも来年3月までは継続する。そもそも視聴率が悪くないので終了は考えられない。日曜日の昼のテレビ界は超激戦区なのだが、上位に食い込んでいる。以下、視聴率の標準値である各番組の個人視聴率である。
■日本テレビ
『スクール革命!』(午前11時45分~午後12時45分)2009年スタート
7月28日3.9%
8月4日4.3%
8月11日4.0%
■テレビ朝日
『ビートたけしのTVタックル』(午後12時~同55分)この時間帯でのスタートは2016年
7月28日4.0%
8月4日3.3%
8月11日2.9%
■TBS
『アッコにおまかせ!』(午前11時45分~午後1時)1985年スタート
7月28日3.5%
8月4日3.1%
8月11日3.6%
■フジテレビ
『なりゆき街道旅』(午後12時~同2時)2018年スタート
7月28日2.4%
8月4日2.8%
8月11日 2.3%
■NHK
『NHKのど自慢』(午後12時15分~同1時)1953年スタート
7月28日休止
8月4日3.4%
8月11日2.9%
不適切発言への釈明はあるのか?
長寿番組ばかりが並んでいるのが日曜日の昼の特色だ。また、最初から若者向けの『スクール革命!』を除くと、どの番組も驚くほど10代やF1層(20~34歳の女性)に観られていない。局側が若者に見せようとしていない。
日曜の昼はそもそも若者の多くがテレビを観ていないのである。遊びに出ているのだろう。だから中高年以上がメインターゲットになる。
8月18日の『アッコにおまかせ!』は和田の不適切発言について、どう釈明するのか。悪意がこめられた発言をしたわけではなく、偽情報を流したわけでもないので、強行突破することも可能だが、それは避けたほうが賢明だろう。視聴者の声に応える番組づくりはSNS時代のトレンドだ。
<文/高堀冬彦>
【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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