パリオリンピック女子100mハードル 日本記録保持者・福部真子が肌で感じた大舞台の尊さと世界トップクラスの壁

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パリオリンピック女子100mハードル 日本記録保持者・福部真子が肌で感じた大舞台の尊さと世界トップクラスの壁

8月12日(月) 16:05

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福部真子は予選突破も準決勝で世界との差を痛感したphoto by YUTAKA/AFLO

福部真子は予選突破も準決勝で世界との差を痛感したphoto by YUTAKA/AFLO





【準決勝で体感した世界の厚い壁】6月下旬の日本選手権では参加標準記録突破と優勝でパリ五輪代表を決め、7月20日のオールスターナイト陸上では自身が保持する日本記録を12秒69まで伸ばす好調な状態でパリ五輪本番を迎えた、陸上女子100mハードルの福部真子(日本建設工業)。陸上競技7日目の8月7日に行なわれた予選では、安心できる走りを見せた。

福部の予選第1組は、2021年の世界選手権準決勝の同じ組で12秒12の世界記録を見せつけられたトビ・アムサン(ナイジェリア)もいる組。福部は1台目のハードルをトップで入ると、その勢いを維持し3台目を2番手で通過、その後も大きく崩れることなく12秒85の4番手でフィニッシュした。3番手のジェニーク・ブラウン(ジャマイカ)とは わずか0秒01。準決勝進出の条件は、各組着順3番手以内と全組4番手以下の記録上位3名までのため、残り4組の結果待ちになった。

「やっぱ着順で残りたかったし、0秒01秒差だったので、そこが自分の詰めが甘かったなと思いました。全5組が終わるまでプラス進出者の待機場所で待っているのが本当に長くて。『あと0秒01速かったらもう帰れていたのに』と思いながら待っていました」

結局プラス3番目の記録で予選通過。敗者復活ラウンドは避けられた。

「自分の状態がいいから、勝手に『準決勝へ行く』と決めつけていました。『とにかく自己ベストを出すしかない。それしか道はない』と思っていたので、オリンピックであることはあまり感じてなかったけど、会場に入った瞬間にちょうど男子走高跳で選手が跳んだ時で、『ワーーッ』という大歓声にびっくりするほど圧迫感がありました。日本では経験できないし、世界選手権のオレゴン大会は観客が近かったけどそんな満席ではなかったので、それでちょっと『オリンピックだ』と思い出した感じです」

スターティングブロックの角度がきつく、耐えられるかという不安でスタートはあまりよくなかったという福部だが、1台目のハードルを越えてからは自分のリズムが徐々に戻った。「準決勝も、1台目しっかり入れれば自己ベストは確実に出るなっていう手応えを感じている」と次への意欲を語っていた。

だが、2日後の準決勝では、世界のトップクラスとの差を感じることになった。

「最低でも12秒7台の後半、もしくは(7台)前半でまとめられれば地力がついたと思える」と語っていた福部は、「コーチと、勝負するのは3台目までと話したので、それだけは自分のなかで達成しようと思い、『1台目は誰よりも速く入る』という気持ちでスタートを切れたので、そこは評価していいと思います」と、1台目はトップで2台目は2番手でクリアした。だが3台目を越えてからは隣の4レーンのアケラ・ニュージェント(ジャマイカ)や5レーンの前回女王、ジャスミン・カマチョクイン(プエルトリコ)という12秒台前半を持つ選手たちにスーッと離された。結果は、12秒89の組5着でフェニッシュ。決勝進出は各組2着以内に全3組の3着以下記録上位2名で、後者の2番目の記録は12秒52。決勝の舞台は遠かった。

「12秒7台や6台は"ひとり旅"(独走)のレースで出したものだけど、オリンピックの準決勝はまったくリズムの違う選手とのレースで、そこでどう自分が切り替えればよかったのか、自分の走りをどう体現すればよかったのか......。

ハードリングのスピードだけを出すのではなく、スプリントを出しながらそのなかにハードリングを入れなければいけないという細かいところは異次元というのが正直ある。本当に緻密なアタックの仕方、着地の仕方、抜き足の持って行き方などすべてにおいて、ほかの選手とは、天と地の差だったという感じはします」

【オリンピックでの経験はどの方向へ】福部自身初の日本記録更新を果たした2年前の世界選手権は、コロナ禍での開催で、現地に行っても陽性反応が出て出場できない選手もいた。そのため、予選はスタートラインに立てたことを安堵する気持ちで走り、準決勝は「これでもう終わり。力を出し切ろう」という気楽な気持ちで挑めた。

だが、今回のオリンピックは「12秒5を切ってファイナルに残りたい」と言い続けてきたこともあり、意地もあったが、世界の選手たちの姿勢に改めて衝撃を受けた。

「『ここで終わりたくない』という気持ちはありましたが、カマチョクイン選手などトップ選手ですら笑わないのを見ると、決勝に行きたいと言っていた自分が恥ずかしいくらいです。12秒2台(の自己記録を)持っていても、準決勝を突破するのは至難の業で確実ではないことは、顔を見たりアップの集中力を見てもわかりました」

ウォーミングアップのスタート練習でトップ選手が出す音は、日本の男子110mハードルの選手くらいだったという。「男子並みの選手と戦わなくてはいけないのか」とも思った。

「(田中佑美と)ふたりが準決勝に行けたのはいいことだけど、男子ハードルが世界と戦っているのを目の当たりにすると、進化と言っていいかわからないですね。私たちが自己ベストを出しても世界の決勝ラインに及ばないのが現実。どうやって日本の女子ハードルを男子ハードルレベルまで引き上げるかと考えると、今回は現実を見たというか、何をとっても劣っているなと思いました」

初めて経験したオリンピックは最高の舞台であり、競技者が最も目指すべき場所であることを肌で感じたという。そこに4年間の人生を賭けてやるからこそ、その人たちにしか感じられないものを得られる。人生の中でも大きな価値がある舞台を経験したからこそ、次の人たちにそれを伝えていくのが自分の役割、とも考えているが、思いは逡巡する。

「オレゴン(世界選手権)の時はもう一回世界にアタックしたいと思った自分がいたけど、今回は走る前から『もしかしたら自分がオリンピックを走るのは最後かもしれない』と思っていました。そのくらいにオリンピックへの切符をつかむのは大変だったし、4年後も万全な状態で挑めるかと言ったら確実ではない。6月に紫村仁美さん(リタジャパン・33歳)が11年ぶりに自己ベストを出して『ここまで頑張れるんだ』という気持ちを周りに与えていたので、私も与えたいなと思っているけど、反面......という感じですね」

大きな衝撃を受けたパリ五輪。福部は、一度冷静になってから次を考えると話す。納得しきれなかった気持ちは、どの方向に向かっていくのだろうか。

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