円安で過去最高の外国人が押し寄せ、インバウンドが絶好調のなか、訪日客の免税制度の悪用が問題になっている。消費税を逃れた商品の行き着く先はどこなのか。取材を進めると意外な実態が浮かび上がってきた。
免税不正転売最大の謎!商品はどこに流れるのか
6月に「ダイコクドラッグ」が消費税の免税要件を満たさない外国人客に免税販売したとして、運営会社が3億円を追徴課税されたことが明らかになった。
過去にはアップルジャパンや近鉄百貨店なども追徴課税されており、近年社会問題化しているが、外国人観光客向けの免税制度とはどういうことなのか。
元国税調査官の税理士・笹圭吾氏はこう解説する。
「消費税は国内で使用される商品にかかる税金なので、短期滞在の外国人が自ら海外で使用するために購入した商品は、基本的に免除されます。しかし、日本に長期滞在していたり、購入した商品を日本国内で使用したり転売すると、免税要件から外れます。また、海外に持ち出しても転売目的であれば業者とみなされ、免税販売が認められません」
つまり、これらの企業は、転売目的で課税対象の取引であると判定されたものについて、追徴課税されたのだ。
短期滞在の外国人は、10%の消費税を支払わずに商品を購入できる。その商品を定価かそれ以上の金額で売り捌くことができれば、当然、大儲けとなる。
中華SNSで盛んに募集される“買い子”
急増する免税不正購入の背後には、転売グループが暗躍し、組織的に商品を買い漁っているという。
「最近ではベトナム人や韓国人も増えていますが、圧倒的に多いのは中国人転売グループです」(免税店コンサルティング会社の関係者)
「小紅書」や「微信」など中国SNSでは、誰でも簡単に転売できる仕組みが構築されている。中国事情に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。
「SNSには免税品を販売するアカウントが多数存在するほか、短期滞在ビザを所有する買い子を提供する業者や、商品を中国に輸送して通関手続きまで行う業者がすぐに見つかります。また、『◯◯百貨店で列に並び商品を購入。日当500元(約1万円)』といった買い子を募集する書き込みや、『帰国の際にモノを運びます』といった個人旅行者の投稿もよく見られます」
こうした中国人による免税不正転売はテレビでも報じられ、広く知られるようになった。しかし、どのような人が転売に手を染め、商品はどこに行くのかといった実態は謎になっている。
年間数千万円の利益を出す中国人も
SPA!記者は今回、複数の転売グループや物流業者にコンタクトをとった。まず話を聞いたのは、大連市出身のHさん(40歳)。専業主婦ながら荒稼ぎしている。
「800万円のバーキンを転売して100万円近く儲けたこともあります。バーキンやヴィトンなどのハイブランドは利益が出やすい。中国では人気商品の場合、抱き合わせ販売しかしないことがあり、100万円のバッグを買うのに倍近い金額がかかることもありますが、日本ではそれがないので、需要があります」
Hさんのママ友も組織的に転売をしていると言う。
「かなり大掛かりにやっているママ友は、年間数千万円の利益を出しています。彼女は、表向きは飲食業や貿易業をやっているので、とにかく人脈が広いんです」
一方、飲食店を経営する上海市出身のLさん(32歳)は、副業として免税品の転売を行っているという。
「私は、日本の商品を好きな中国人が集まる複数のグループに入っていて、そこで注文を受けた商品を購入して郵送しています。グループでは買い子や売れ筋商品などの情報も常に入ってきます。最近だとウイスキー『山崎』やアイコス、ロキソニンなどが定番ですね。資生堂『クレ・ド・ポー ボーテ』の限定品も高値で転売しやすい」
大量転売を行うグループの場合、利益は…
2人の話やSNSでの情報を総合すると、中国では、日本の市価の2~3割増しの価格で販売されるのが相場のようだ。歴史的円安もあり、価格差が広がっているのだ。
さて、もっと組織的に大量転売を行うグループの場合、どれほどの利益が生まれるのか。広瀬氏が解説する。
「仮に100万円の高級時計を100本、組織的に免税購入したとしましょう。まずSNSで10人の買い子を日当3万円で雇います。彼らを車に乗せて店舗を回り、購入させます。集まった時計は国際小包で中国に送るか、運び屋に直接持ち込ませる。中国では20%増しの一本120万円で売れると仮定すれば、経費を引いても1950万円の利益になります。本来、総額1億円にかかる1000万円の消費税を払っていないので、これだけ儲かるのです」
「空港でバレても逃がしてくれる」
大量の高級品を海外に持ち出すことは容易でなさそうだが、日本で物流会社を営む中国人女性は、日本の税関は対応が甘いと明かす。
「個人の場合でも購入金額が数百万円程度までなら、空港で検査されることはほとんどない。1000万円以上だと取り調べを受け、課税を言い渡されることもありますが、搭乗時間が差し迫っていれば、飛行機に乗せてくれる。帰国してしまえば、税金は踏み倒せてしまうのが現状です。物流会社を利用した場合、他の輸出品に交ぜて送るので、こちらもバレないのです」
日本政府の対応の実態
まさにやりたい放題だが、こうした状況に日本政府も手をこまねいているわけではない。出国時に現物を確認してから消費税を還付する「リファンド方式」を検討しているのだ。
それによって悪質な転売は減るのだろうか。前出の笹氏はこう指摘する。
「現場の国税職員としては、不正されない仕組みづくりを優先してほしいと考えるとは思いますが、日本全体の経済効果を考えると、たくさん買ってもらうほうがいいと考える人もいるでしょう。ルールや法律を考える場合は、その適正な運用方法まで熟慮して導入を検討してもらわないと、現場は混乱します」
組織的な転売を防ぐために対策は急務だが、実効性を高めるためには、慎重な制度設計が求められそうだ。
取材・文/週刊SPA!編集部写真/産経新聞社
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