「前半戦で7人のウイナーが誕生し、中盤戦以降は毎戦、大接戦が演じられています。本当に目が離せないレースが続いている」(堂本光一)
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE13
7月下旬に開催された第13戦のハンガリーGPと第14戦ベルギーGPの2連戦を終え、F1は約1ヵ月間のサマーブレイクに入った。
今シーズンの前半戦はマックス・フェルスタッペンとレッドブルが圧倒的な強さを見せていたが、中盤戦に突入して以降、マクラーレンやメルセデスが大躍進。王者の牙城が揺るぎ始め、チャンピオン争いは一気に混沌としてきた。
果たして、後半戦の主役となるのはどのチームとどのドライバーなのか!?
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■スパで感じたレッドブル時代の終焉メルセデスが夏休み前の4戦で3勝と、中盤戦に入ってかつてのような強さを取り戻してきました。第14戦のベルギーGPでもワンストップ作戦を敢行したジョージ・ラッセル選手がトップでチェッカーフラッグを受け、ハミルトン選手が僅差の2位でゴールしました。
メルセデスがワンツーフィニッシュを決めたと思ったのですが、レース後の車検でラッセル選手のマシンが最低重量に1.5キロ足りずに失格。ハミルトン選手が繰り上がりで今季2勝目を挙げました。
ラッセル選手のマシンが重量不足になったのはワンストップ作戦をしたためにタイヤがすり減ってしまったことや、車体の底面に張り付けられた板状のプランクという部品が削れたこと、さらにラッセル選手本人の体重の減少など、さまざまな要因が考えられています。
ラッセル選手にとっては残念な結果でしたが、ワンストップ作戦を採ったラッセル選手、ツーストップ作戦を採ったハミルトン選手のいずれも、優勝を狙えるだけの速さがあったのは確かです。
ただ僕は、ベルギーGPの舞台となったF1屈指の高速サーキット、スパ・フランコルシャンではレッドブルが速いと予想していました。雨の予選ではフェルスタッペン選手が最速タイムをマークし、不振にあえぐセルジオ・ペレス選手も3番手のタイムをマークしていたからです。
ドライとなった決勝、フェルスタッペン選手は年間に使用できるエンジン数(4基)を超える5基目を投入したことによって10グリッド降格のペナルティを受けたため、11番グリッドからのスタートとなりました。
それでもスパ・フランコルシャンは追い抜きがしやすいサーキットです。レッドブルのマシンに昨年までのようなアドバンテージがあれば優勝できたと思いますが、フェルスタッペン選手は5位でゴールするのが精一杯でした(ラッセルの失格で4位に昇格)。
ペレス選手はペースが上がらずにあれよあれよという間に順位を落とし、7位に終わりました。スパでのレッドブル勢の走りを見て、もはやかつてのライバルを圧倒するアドバンテージは消え去り、いよいよ土俵際まで追い込まれたな、と感じました。
■ゼロポッドとはなんだったのか!?メルセデスの復活とレッドブルの失速を目の当たりにして、"ゼロポッド"とはなんだったんだろう、という思いを強くしています。新しいマシンレギュレーションが導入された2022年、当時圧倒的な強さを誇っていたメルセデスは、サイドポンツーンを極端に小さくした革新的なデザインの"ゼロポッド"を採用したマシンを投入しました。
シーズン開幕直後は表彰台に上がることができなかったメルセデスだったが、マシン開発が進み、中盤に入って急浮上。夏休み前の4戦中3勝と強さを見せている。後半戦の台風の目になりそうだ
ところがメルセデスのドライバーたちは不安定な挙動に苦しみ、低迷します。結局、メルセデスは23年シーズンの半ばにゼロポッドのコンセプトを破棄、当時のレッドブルを模倣したマシンを開発します。そこから徐々に力を取り戻し、今シーズンの中盤になって、ようやく安定して速さを発揮できるようになってきました。
一方、昨シーズン22戦中21勝と異次元の強さを見せつけたレッドブルは2024年、過去のメルセデスとまったく同じデザインではありませんが、ゼロポッドに似たコンセプトのマシンを投入します。今シーズンのレッドブルのマシンは速さこそありますが、スイートスポットが非常に狭くて、神経質な挙動のクルマになっているように見えます。また昨年までの強みだった、タイヤに優しいという特長も消えています。
"ゼロポッド"のマシンは、データ上ではいい数字が出ているのかもしれませんが、実際にサーキットに持ち込むと、さまざまな問題が出ているように見えます。レッドブルも採用したゼロポッドのコンセプトはやはり失敗なのではないか......?僕は技術に関して詳しくありませんが、そんなふうに感じています。
■角田選手のレッドブル昇格は見送りに夏休み前の最後の1戦となったベルギーGPは、角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手にとっては歯車が噛み合わないレースとなりました。フェルスタッペン選手と同様にエンジン交換によってグリッド降格のペナルティが科され、最後尾スタートとなった角田選手。チームメイトのダニエル・リカルド選手はいいペースで走っていたので(10位入賞)、追い上げを期待していたのですが、17位という残念な結果に終わりました。
ベルギーGPの終了後、レッドブルは不振が続くペレス選手を後半戦も起用し続けるのか、それとも別のドライバーと交代させるのかを首脳陣が話し合うことになっていました。僕は当然、角田選手がフェルスタッペン選手のパートナーとしてレッドブルに昇格することを期待していたのですが、結果的にはペレス選手が引き続きステアリングを握ることが決まりました。
スパ・フランコルシャンでの走りがレッドブル首脳陣の具体的な判断に大きく左右するような場面ではなかったかもしれませんが、やはり後方からでもしっかりと追い上げて、ポジションを取り戻すレースをしていたらなあ......と思ってしまいます。
ベルギー前のハンガリーGPでは角田選手は本当に素晴らしいレースを披露してくれました。ほかのドライバーがツーストップ作戦を採るなか、角田選手はワンストップ作戦を選択。タイヤをうまく使って、9位でフィニッシュ。今季7度目の入賞を果たします。
ハンガリーの角田選手はマシンのポテンシャルを限界まで引き出して速く走るだけじゃなくて、タイヤを守りながら戦略的に走れることを証明してみせました。多くの関係者が、角田選手はドライバーとして成長していることを改めて認識したと思います。
角田選手が今後さらに上のチームにステップアップするためには、こういうパフォーマンスをどんどん見せ続けなければなりません。トップグループ以上に大接戦の中団で存在感を示し続けることは大変なことですが、後半戦も角田選手には引き続き頑張ってほしい。
■マクラーレンはドライバーズ選手権をあきらめた!?第14戦のベルギーGP終了時点で、ドライバーズ選手権ではフェルスタッペン選手がランキング2位のノリス選手に対して78ポイント、コンストラクターズ選手権ではレッドブルが2位マクラーレンに対して42ポイント、それぞれリードしています。
今シーズンのF1は全24戦でタイトルが争われるので、まだ10戦も残っています。ドライバーとコンストラクターの両選手権で順位がひっくり返る可能性は十分にあると思います。
だからハンガリーGPのマクラーレンの判断には少し疑問があります。レースはF1デビュー2年目のオスカー・ピアストリ選手が初優勝を飾り、2位にはランド・ノリス選手が入り、マクラーレンがワンツーフィニッシュを達成しました。
ハンガリーの決勝ではスタート直後からピアストリ選手がトップを快走しますが、2回目のピットストップの際にノリス選手がピアストリ選手を逆転。その後、ノリス選手はピアストリ選手を引き離しますが、チームから指示が出され、ノリス選手がピアストリ選手に首位の座を明け渡すことになりました。
今、ドライバーズ選手権で3連覇中のフェルスタッペン選手に挑めるのはノリス選手しかいません。なぜ、そのままノリス選手を勝たせなかったのか?マクラーレンの戦いぶりは、もうドライバーズ選手権ではフェルスタッペン選手に追いつけないので、ふたりのドライバーで確実にポイントを稼いでコンストラクターズ選手権を獲得する方向にシフトしているように見えます。もしマクラーレンがそう考えているのであれば、非常に残念ですね......。
とはいえ、今シーズンは前半戦で7人のウイナーが誕生し、中盤戦以降は毎戦、大接戦が演じられています。レッドブル、マクラーレン、メルセデス、フェラーリの上位4チームのマシンが、戦いの舞台となるサーキットの特性に合うか合わないで勢力図が大きく変わっていくという、本当に目が離せないレースが続いています。
それまでのシーズンは優勝を狙えるのが2チームぐらいしかなく、このサーキットだったらこっちのチームが速いよね、というパターンしかありませんでした。でも今シーズンは4チームが優勝を狙える可能性があります。まあ最近、トップ4からフェラーリが脱落しかけているのがちょっと気になりますが......。
いずれにせよ、これだけ誰が勝つのかわからないというシーズンは近年なかったので、毎戦、本当に楽しい。夏休み明けが待ち遠しいです!
☆取材こぼれ話☆7月下旬から8月18日にかけて、梅田芸術劇場(大阪府大阪市)で主演ミュージカル「Endless SHOCK」を上演中の光一。
「大阪に行く前の稽古中に新型コロナにかかりました。すぐに熱は下がったのですが、今、国内でコロナの感染者が増えています。僕だけでなくカンパニーの中にも感染者が出て、稽古がちょっと滞ったりしました。それでも、みんなすごい集中力で稽古に取り組んでくれたので、無事に大阪公演の初日を迎えることができました。新型コロナが作品に影響を及ぼしていることは、一切ありません。お客さんの熱気も高く、間違いなく舞台は充実しています。
ただ僕自身、コロナの後遺症というほどではありませんが、喉の調子が完璧じゃないのと、ちょっと呼吸が浅くなっている感じがあります。加えて、大阪での初日が始まってからの公演スケジュールがあまりに怒涛すぎて(笑)、肉体的にはいっぱいいっぱいという状況です。その日の公演が終わったあとは、身体を休めることに集中しています。だから今、パリオリンピックが話題を集めていますが、残念ながら競技はほとんど見られていないんです」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD)衣装協力/AKMヘア&メイク/大平真輝)
構成/川原田 剛撮影/樋口 涼写真/桜井淳雄
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