【写真】日本版では竹内力が声を担当!圧倒的な迫力の独裁者プロキシマス
SF映画の名作シリーズ「猿の惑星」の“完全新作”として製作された映画「猿の惑星/キングダム」が、8月2日に配信された。同作は「メイズ・ランナー」シリーズなどでも知られるウェス・ボール監督と、「アバター」シリーズを手掛けた最高峰のVFXスタジオ・WETAがタッグを組み、現在から300年後、支配者が人間から猿へと移り変わった衝撃的な世界を舞台に、猿と人間の共存か、猿の独裁かを懸けた新たな衝突が圧倒的なスケールで描かれる物語だ。今回は幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が視聴し、独自の視点でのレビューを送る。(以下、ネタバレを含みます)
■きめ細やかなカメラワーク
5月10日に全国公開されたばかりなのに、早くも配信で見られるというのは映画好きにはたまらない試みだ。私はこの作品をまずスクリーンで見て、その圧倒的な余韻を体内に残した状態で配信でも鑑賞したのだが、卓越したアクションシーンや、実にニュアンスに富んだ空の色や波しぶきの加減、攻め込んでくる水の、温度の冷たさまで伝わってきそうなカメラワークに、「ここまでキメ細かく描写されていたのか」と、新たな感慨をもって楽しむことができた。
「猿の惑星/キングダム」は、そのタイトル通り、歴史的な「猿の惑星」シリーズに連なる、完全新作。ちなみに「猿の惑星」の原作小説が発表されたのは1963年、映画化の権利を得たのは65年と伝えられる。結果、映画の第1弾は68年に完成して、ここから73年制作の「最後の猿の惑星」に至る5作品が、まずは古典ということになろうか。製作年代としてはキング牧師やロバート・ケネディの暗殺、テト攻勢、フランス五月革命の頃から、カンボジア侵攻、ラオス空爆、ベトナム和平協定に至るまでの間といえばいいか。相当にヘビーな時代だ。「猿の惑星」のリブート化が始まったのは2011年のことであった。
完全新作として公開された「猿の惑星/キングダム」で描かれているのは、前作「猿の惑星:聖戦記」から300年後の世界。人類は野生動物となり、言葉もほぼ失われてしまった。地球を支配するのはエイプたち。エイプとは「類人猿」という意味だが、彼らにしてみたら人類こそ下等な「類猿動物」に映っているに違いないのだ。英語を巧みに操り、運動能力も高い。しかもピラミッド型社会だ。巨大な王国を築いているのは、独裁者のプロキシマス・シーザー。独裁者だけに、いかにも他者をビビらせるにはうってつけの、いかめしい外見、声、発言の持ち主だが、「誰か権力のある者が勝手に物事を決めてくれたほうが、それに従っていればいいのだから楽。しかもその権力者が自分にとって悪い存在でなければその者を応援する」という層は確実にいて、それはエイプの世界でも変わりなさそう。
何しろプロキシマスが社会をコントロールしているのだから、彼に気に入られることが、「庶民」のフィールドにとってはすなわち「出世」となる。いくら出世してもプロキシマスを超えられるわけもなく、そもそも対等になることすら不可能であろうに、他の「庶民」に対して勝ち誇りたいのだろう。しょせん「虎の威を借る狐」でしかないのに。
■若き猿・ノアと人間のノヴァが共闘
それに我慢できず、あえて「いばらの道」に進む者もいた。それが若き猿・ノアだ。だってプロキシマスを崇拝し、命令に盲従する連中に村と家族を奪われたようなものなのだ。プロキシマスにヘコヘコしたほうが生きていく上では安泰だと頭では分かっていたはずだが、憤怒が抑えきれるわけもない。村と家族を奪われているのである。阿鼻叫喚の中で生き残ったノアは、自分が何をなすべきかを知っていた。
それに彼は、年老いたオランウータンから猿と人間が「昔は共存していた」ことを知る。なのに今はなぜ争う?争ったほうが誰かの利益になるからじゃないのか?そんな彼に理解を寄せる人間として登場するのがノヴァ(メイ)という女性だ。2人は類人猿と人間という垣根を越えて、プロキシマスの絶対的支配に立ち向かうが、「俺は絶対的支配だとは思わないけど。プロキシマスにも憎めないところがあるしね」的な層もしっかりいるので、ノア&ノヴァの「倒すべきもの」は、必ずしもプロキシマスの肉体や彼を中心とする体制だけではない。そのあたり、人間ドラマとしても「猿の惑星/キングダム」の深いところである。
メガホンをとったウェス・ボール監督としては「猿の惑星」シリーズを手掛けるのは今回が初めて。プロキシマスは押井守監督の「ガルム・ウォーズ」でも主要キャストを務めたケビン・デュランド(日本版声優:竹内力)が演じ、ノアにはオーウェン・ティーグ(日本版声優:松岡禎丞)、ノヴァにはフレイヤ・アーラン(日本版声優:小松未可子)が扮(ふん)する。気になる猿たちのCG映像は、俳優による演技を基に、動作や細かな表情をCGに落とし込むパフォーマンスキャプチャーという技術を駆使して撮影されたという。だからこそのリアルな動きはまさに圧巻の一言だ。
映画「猿の惑星/キングダム」はディズニープラスのスターで独占配信中。
◆文=原田和典
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