たくさん課金した人が偉い…「推し活」ブームの裏で起こるトラブルの実態。ファン同士のいさかい、自己破産も

アニメイト池袋本店前の中池袋公園は、推しのグッズを交換しようと多くの人が集まる(合同会社Space-J 提供)

たくさん課金した人が偉い…「推し活」ブームの裏で起こるトラブルの実態。ファン同士のいさかい、自己破産も

8月6日(火) 15:51

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「推し活」という言葉が市民権を得た昨今。アニメやゲーム、アイドル、スポーツ選手、VTuberなど、特定の“推し”を応援するために「お金」と「時間」を惜しみなく使う。推し活に伴う消費行動は、大きな経済効果を生み出すことから、企業も推し活を起点にしたビジネスに取り組む機会が増えている。しかし、推し活ブームの裏では、さまざまなトラブルが発生している。

推しをめぐるファン同士の揉め事や周囲への迷惑行為、推し活の“沼”にハマって自己破産……。楽しいはずの推し活で、なぜこのような問題が起きてしまうのか。トラブルに巻き込まれないためには?

男女で異なる推し活トラブルの特徴

オタク女子向けニュースサイト「いちごあん」運営のほか、コンサルティング・講演を行う合同会社Space-J 代表の間野優希さんに、推し活トラブルの具体的な事例や正しい向き合い方について話を聞いた。

まず、間野さんは「男女で推し活に対する考え方が違う」ことについて触れた。男性の場合、推しの対象となるコンテンツやアイドルそのものに熱中する傾向があるという。

「人気アニメ『ラブライブ!』」シリーズの舞台となった地域への聖地巡礼の際に、近隣住民への配慮が欠けていたり、私有地へ勝手に立ち入ったりと、マナーの悪い一部のファンが問題視されています。

また、最近メディアでも報道された『撮り鉄問題』に関しても、お目当ての鉄道の写真を撮るという熱量が高すぎるあまりに、周囲が見えなくなってしまい、自己中心的な行動になってしまうわけです。このように男性の推し活では、一般社会を巻き込んで迷惑をかけることが多い傾向にあると考えています」(間野さん、以下同)

一方で女性の場合は、1人のアイドルやキャラクター、俳優に熱中する傾向が強いそうだ。

「男性歌謡コーラスグループ『純烈』のリーダーに脅迫文を送った65歳の女性が逮捕された事件が過去にありました。自分の推しが他のメンバーからイジられているのが気に触り、推しを応援したい気持ちが人一倍あるからこそ、行き過ぎた行動に走ってしまった事例となります。

そのほか、人気アイドルプロデュースゲーム『あんさんぶるスターズ!!』では、ゲーム内の登場キャラクターにゴキブリの画像を貼り付け、SNSで拡散したことで25歳の女性が書類送検された事例もあります。好きなキャラクターへの思い入れが強すぎるからこそ、運営のキャラクターの扱いに不満を感じ、結果として一線を超えた行動につながってしまったのです」

さらに、女性の推し活トラブルにおける特徴に挙げられるのが「同担拒否」だと間野さんは話す。同担拒否とは、同じ推しを応援する他のファン(推し被り)との交流は受け入れないこと。この同担拒否こそが、推し活トラブルの大きな“火種”になっているとか。

「女性の同担拒否はある種、恋愛における嫉妬心の感覚に似ていて、推しが被るファン同士でマウントを取り合い、ときには揉め事や口論などのトラブルに発展することもあります。

例えば、メンズ地下アイドルはファンとアイドルとの距離感がものすごく近いため、『イベントにたくさん行った人や、たくさん課金した人が偉い』といった風になりやすいんです」

グッズ交換文化を作った“ランダム商法”の弊害と懸念

他方で、アニメグッズなどに多く見られる“ランダム商法”も、推し活トラブルの要因になっているという。アニメグッズを展開する際に、「梱包を開けるまで何が入っているかわからない状態」で販売するのがランダム商法だ。

中身が見えないからこそ、独特のドキドキ感を味わえるため、非常に人気の高い商品となっている。

買う側としては、推しのグッズを目当てにランダム商品を購入するわけだが、欲しいグッズが入っていなければ、「どうしても手に入れたい」という思いから、何個もランダム商品を購入しようとする。

こうしたランダム商法が成り立っていることで、推し以外のグッズが出たときに、自分の推しのグッズを持っている人と交換し合う「グッズ交換文化」が生まれた。

しかし、“アニメの聖地”と呼ばれるアニメイト池袋本店前の中池袋公園では、「この場所に行けば、誰かしらと交換してもらえる」という風潮が広まっているため、長時間に渡る滞在が問題視されているという。

「コロナ前は“野生のアニメイト”と揶揄されていましたが、最近も特にアニメイト池袋本店で新作のアニメグッズが販売されるときや、池袋でポップアップストアやコラボカフェが開催されるときは、多くの人が集まるようになっています。

自分の推しを求めてグッズ交換してくれる人を探すわけですが、なかには何時間も公園にたむろしたり、レジャーシートを敷いて長居したりするなど、公園に滞留する人もいるんです。特に何か問題は起きていませんが、治安的な面でのリスクや当事者間のトラブルの元凶となるくらいの“カオス状態”になっていると感じていますね」

推し活の“沼”にハマりすぎて自己破産するケースも

物価高の世の中でも、推しさえ目に入っていたら精神的にも安心する。嫌なことがあっても、推しのことを考えたら夢中に楽しめるのが推し活の魅力だろう。

とはいえ、その“沼”にハマりすぎて、自己破産してしまえば元も子もない。間野さんは最低限の金融リテラシーを身につけるべきだと語る。

「日本の金融教育は遅れていると言われていますが、消費者金融に手を出し、借金をしてまで推し活するのは度を超えていると思います。先述したマウントの取り合いや推しへの揺るがない情熱が、そうさせてしまうのかもしれませんが、あくまで節度を保って、良識の範囲内で推し活を楽しむのが重要だと考えています」

1ヶ月に推し活で使う予算を決める、クレジットカードの後払いを使わない、お金の使い道に優先順位を付けるなど、身の丈に合った推し活が大事なのは言うまでもない。

世界情勢の変化でネット中心の推し活が主流に?

最後に今後の推し活トレンドを伺うと「世界情勢によって推し活の仕方が大きく変わる可能性がある」と間野さんは言う。

「ウクライナ情勢やアメリカ大統領選挙の動向次第で、日本の社会も大きく変わる可能性があると思っています。そう捉えると、今の推し活スタイルが10年も20年も続く見込みがなく、ネットを使った推し活が主流になってくるのではと予測しています。

加えて、グッズ代やイベント時の人件費、会場代、チケット代なども高騰しており、必然的に値上がりすれば生活も苦しくなってしまうため、今後はリアルの推し活機会が減ってくるかもしれません」

日常に「潤い」や「彩り」をもたらしてくれる推し活も、行き過ぎてしまえば身も心もすり減ってしまう。“推し疲れ”しないように、自分のキャパシティを考えながら楽しむのがいいかもしれない。

<取材・文・写真(人物)/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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