ディズニー&ピクサー最新作『インサイド・ヘッド2』が現在公開中だ。本作は、高校入学という人生の転機を控えた主人公ライリーに、シンパイ率いる<大人の感情>が芽生え、ヨロコビたちが追放されるというストーリー。そんな本作の監督を務めたケルシー・マンとプロデューサーのマーク・ニールセンにインタビューを実施し、<大人の感情>のキャラクターたちの誕生秘話や、『インサイド・ヘッド3』の可能性などを聞いた。
【写真】キャラ濃いめ!『インサイド・ヘッド2』で新登場する<大人の感情>たち
■「しっくりきたんです」新キャラ誕生の裏側
――今回、マン監督が初めて長編映画の監督をするのが『インサイド・ヘッド2』という続編だったわけですが、前作のピート・ドクター監督とはどのような関係で制作に取り組んだのか教えてください。
マン:私は、前作の大ファンなので、前作に忠実であると同時にそこからどう拡張していくのかを大切にしました。『インサイド・ヘッド』(2015)を監督したピート・ドクターは今やスタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)であり、本作にはエグゼクティブ・プロデューサーとして関わっていますから、今回も非常に密接に仕事をしました。私からしてみれば、今作は『スター・ウォーズ』でいうところの2作目『帝国の逆襲』(1980)のようなものなんです。『帝国の逆襲』は元祖『スター・ウォーズ』である『新たなる希望』(1977)の続編ですが、監督はジョージ・ルーカス本人ではありません。続編である『インサイド・ヘッド2』を作るにあたってのピート・ドクターは、僕にとってジョージ・ルーカスのような存在として考えていました。
ニールセン:ピートはジョージ・ルーカスに少しも似ていないけどね。
マン:ヒゲを生やせばいいんじゃないかな。(笑)
――ありがとうございます。今回新たに4つの感情が登場しましたが、この感情たちを作り上げていく上で、その感情を選び、キャラクターとしてデザインしていったプロセスについて教えてください。
ニールセン:今回の続編を作るにあたって、自意識(self-consciousness)に関わる感情というアイデアにひかれたんです。まさに私たち自身がティーンエイジャーの頃に感じたものでもありますし、自分やマン監督には子どもがいるのですが、その子たちの中に現れているものでもあります。今回の感情たちというのは、まさに子どもたちの顔に表れる感情だと思っています。
今作のアート部門は、プロダクション・デザイナーのジェイソン・ディーマーに率いられており、中でも村山佳子が素晴らしいキャラクター・アート・ディレクターとして、それぞれの感情のカラーやシェイプ・ランゲージ(基本となる形・形態言語)を選ぶのに多大な愛と労力を注いでくれました。1作目の『インサイド・ヘッド』でキャラクター・アート・ディレクターを務めたアルバート・ロサーノが導入したシェイプ・ランゲージにならい、シンプルな形やデザインを用いることで、各キャラクターがどんな感情を表しているのか、できるだけハッキリ読み取ってもらえるようにしたかったのです。
――感情自体にはもともと性別などはありませんが、キャラクターにしていく上でどのように性別を決定したのでしょうか。
マン:1作目の頃から、ライリーの中には女性と男性の感情が混ざっていましたよね。ヨロコビ、カナシミ、ムカムカの3人は女性、イカリとビビリの2人は男性。私たちは新しい4人の感情を追加する上でもその割合を維持したかったので、3:1の割合で女性と男性の感情を追加しました。中でもメインキャラクターであるシンパイの性別については、制作中ずっと…
マン&ニールセン(同時に):女性だったね。
マン:別に何か特別な考えがあるわけではないけど、なぜか女性だなって感じていたんです。それがしっくりきたんです。特に彼女は、(今作でのライリーの気持ちを表す)メインのキャラクターでもありますし、女性の声である方が良い気がしました。これについて異存はなかったと思います。また今作の物語では、ヨロコビが、ティーンエイジャーになったライリーを助ける準備ができているシンパイとそうでない自分とを比較して、「自分では不十分(“I’m not good enough”)」なのではないかと思ってしまうという展開を描きたかったので、その意味でも女性同士の方がやりやすいと感じました。他のキャラで言えば、ダリィも制作中ずっと女性だったと記憶しています。映画を見た人の中にはダリィを男性だと思った人もいるようですが、女性です。
ニールセン:私たちはダリィ(原語ではEnnui=アンニュイ:フランス語)を本格的なフランス語のアクセントの英語を話すキャラクターにしたかったので、キャストにアデル・エグザルコプロスを採用しました。彼女はとってもディープでハスキーな声をしていて、素晴らしい役者でしたよ。
――ピクサーでは毎回作品を作る上で、専門家や現場の人に話を聞き、調査をすることが有名ですが、今回はティーンエイジャーを描くにあたってどのような意見を取り入れたのでしょうか。
■『インサイド・ヘッド3』の可能性は?
ニールセン:今作では「ライリーズ・クルー」というチームを結成しました。スタジオの元幹部でインクルージョン・ストラテジー担当の副社長だったブリッタ・ウィルソンがつながりを持っていたボーイズ&ガールズ・クラブ・アメリカという団体を通して、アメリカ全土の13歳から16歳の少女たちに呼びかけて、協力してくれる人を募りました。彼女たちとは、制作中の3年の間、4ヵ月に一度くらいのペースで、映画の各バージョンを自宅で見てもらってから、Zoomでフィードバックをもらうというやりとりをしました。ストーリーボードの段階から見てもらい、物語に共感できるか、現代の女の子同士のやり取りとして自然か、会話での言葉遣いはどうかっていう部分について意見をもらったんです。
マン:彼女たちに初めて対面で会ったのは、今年の6月のロサンゼルスでのプレミアイベントでのことでしたが、そこで彼女たちはセレブリティーのように扱われていました。実際、そう扱われるにふさわしいくらいこの作品の完成には彼女たちの協力が重要でした。
ニールセン:私たちは、伝える物語の真正性のために必死に努力するようにしています。私やマン監督自身は、ライリーのように13歳でもなければ女性でもありませんから、自分の感覚としてその気持ちが分かる人たちに話を聞くのはとても大事なことでした。
マン:それに、全国のあらゆるエリアの少女たちに聞くっていうのもね。ライリーはサンフランシスコのベイエリアの学校に通っていますから、当然ベイエリアの少女たちにも協力してもらいましたが、他の地域の少女にとっても自分の物語と思えることが大事なんです。
――ピート・ドクターがCCOに就任してからピクサーではさまざまな変化があったことが窺えます。これまでスポットの当てられなかった社員たちを取り上げる、「Disney+(ディズニープラス)」配信のドキュメンタリー『ピクサーの舞台裏』や、さまざまな新しい監督たちによる短編シリーズ『スパークス 奇跡の瞬間』や長編映画の数々がその良い例だと思います。今のピクサーで感じる最も大きな変化はどんなものでしょうか。
ニールセン:そうですね。最大の変化は長編映画へもう一度集中し直すという方針になったことでしょうか。CCOのピート自身もそうですし、スタジオ内のあらゆるクリエイティブの情熱を全て長編映画へ注ぐようにしようという方針です。
すでにアナウンスされているものとそうでないものとがありますが、スタジオでは現在何本もの「インクレディブルな(驚くべき)」新作たちが制作の段階にあります。2年に3本ほどのペースで、オリジナル作品や続編を含む多くの作品を世に送り出していくために、たくさんの監督たちが待機している状態ですよ。今後数年間で公開されることになっているラインナップを眺めるだけでもとってもワクワクします。
マン:「D23 expo」では毎回すごくエキサイティングなニュースが発表されますが、8月開催の「D23」(現地時間9日~11日に米開催)でも面白い発表が聞けると思いますよ。まあ、僕らはその頃には休暇に入っちゃいますがね!(笑)
――ちなみに『インサイド・ヘッド3』やミニシリーズの予定はあるのでしょうか。
ニールセン:『インサイド・ヘッド2』の制作で忙しくて、終わった後の休暇のこと以外を考える暇はなかったけど、将来何が起きるかは誰にも分からないよね。感情の世界の中でもまだ深掘りできていない感情はたくさんあるし、今作では感情の待機室があるということが明らかになったわけで、あれ以外にどんな感情がいるかは誰も知らない。まだまだ冒険しがいのある世界はたくさんあるし、なんといってもライリーはまだ13歳だからね。現時点で3作目の計画はないけど、どんなアイデアでもウェルカムです。
(取材・文:山本恭輔写真:阿部桜子)
アニメ映画『インサイド・ヘッド2』は全国公開中。
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