夏は堂々とホラーの話ができるから最高だ『稲川淳二の怪談グランプリ リターンズ 2024』/テレビお久しぶり#110
長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『スマホがない時、どうしていたの?』(HBC)をチョイス。
■言葉そのものの交わし合い『スマホがない時、どうしていたの?』
スマホのない時代の人々の生活を、各世代へのインタビューと当時の映像を中心にひも解いていく、タイトルそのまんまなバラエティ『スマホがない時、どうしていたの?』。公衆電話の普及から始まり、やがてスマホへ……”電話”というツールの進化と変遷をたどってゆく、非常に面白く興味深い番組だ。また、スマホ世代である乃木坂46・弓木奈於と五百城茉央が、スマホを使わず、ある目的地を目指すというコーナーも。目的地の名前を聞いただけじゃ、場所はおろか、それが何なのかすら分からない。我々スマホ世代の現代人は、丸腰だとなんにもできないのだと痛感させられる番組だ。
さて、私はスマホにウンザリして、スマホを捨てた人間である。この連載でも何度かそう話したが、半年間スマホ無しで過ごして、限界が来て、結局、またスマホを手に入れてしまった。自分としては悔しい結果となってしまった。もちろん私の意思の弱さもあるのだが、何よりも、すでにこれだけスマホが普及している世界で、自分がスマホを持たぬことで困るのは、自分だけでなく、自分の身の回りの人間も同様であるのだ。スマホを持っていない待ち合わせ相手が遅刻をしたら?ぞっとするでしょう。私はそういうことを何度もやってきた。これはスマホ関係なく私が悪いですが……。とにかく、現代を生きるなら、人を困らせないためにも、連絡手段を持っておかざるを得ないのだ。
スマホ無しで”デンキヤホール”という場所を目指す弓木奈於と五百城茉央は、自分たちの今の現在地はおろか、時間すらも分からないという窮地に立たされる。これは私も非常に覚えがある。スマホがないとマジで時間が分からない。松屋に時計がなくて困ったことがある。このあとの仕事の時間に間に合うかどうか分からないまま、牛丼を急いで食べた。また、弓木奈於と五百城茉央も活用しているように、公道に設置されている周辺案内図はマジで役に立つ。あれが無きゃ終わっていたことが何度もある。今、私がこうして自宅に居られるのは、あちこちに周辺案内図があるおかげだ。周辺案内図に感謝。こんな風に、スマホ無しでここに行ってみようとか、あれをしてみようとか、遊びとしてやる分には結構楽しいと思うので、スマホを捨てるまではいかずとも、家に置いて外出してみる日を作ってみるのはどうだろうか。なにせスマホのない半年間、私はなんだかんだ楽しくやっていたのだ。
さて、番組内でももちろん紹介されているように、電話の進化を辿るなら、ポケベルを避けては通れない。私は世代ではないので、使ったことはないのだけども、数字の羅列でやり取りをするというコミュニケーションの形に非常に興味がある。スマホであれば、もちろん文字が使えるし、絵文字やスタンプも使える。もうすぐ着くということを伝えようとした際に、「もうすぐ着く!」「もうすぐ着くよ!」「もうすぐ着きます!」「もうつく」「つく」とか、テキストだけでも、とにかく様々な表記が考えられる。ほんの細かい表記の違いで、印象ががらりと変わるのだ。これはスマホだけの話でなく、直接対話をする際にも、言い回しや声色、表情や仕草によって、”言葉”というものはどんどん装飾されていく。「ありがとう」をどう伝えるか。「!」をつけるのか、「。」をつけるのか、絵文字をつけるのか、フォントは何を使うのか、対話であれば、どんな声色で言うか、声量で言うか、表情で言うか、仕草で言うか……項目は無限だ。ここにコミュニケーションの面白さと難しさがあると私は考えている。「ありがとう」というその言葉ひとつに、何種類もの装飾が認められてしまうのである。もちろんそれが悪いことだと言いたいわけでは決してないのだが、装飾が増えるごとに、”言葉”そのものの純度は目減りしていくように感じる。
これが、ポケベルだとどうだろう。相手から送られてくるのは数字の羅列である。それを、自らの頭で解凍し、「ありがとう」という言葉を導き出したとしたら……。それは、何の装飾もない、”言葉”そのものではないか……!一見すると、ごくインスタントで寂しいやり取りのようにも思えるが、実のところは、非常に純度の高い言葉の交わし合いなのではないだろうか……という……。やってみたいなあ。
■文/城戸
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