南葛SC 高橋陽一×稲本潤一 対談(前編)
東京の葛飾区をホームタウンとする「南葛SC」は、世界的人気漫画『キャプテン翼』の原作者の高橋陽一氏が代表取締役を務めるサッカークラブだ。現在は地域リーグの関東サッカーリーグ1部に所属しながら、JFL(日本フットボールリーグ)昇格を目指している。もちろん、その先にある目標は、Jリーグだ。
高橋氏が社長に就任して5年目を迎えた今シーズン。果たして、その節目の年に南葛SCは目標のJFL昇格を果たせるのか。
今年の春から『キャプテン翼』の連載を、ネーム連載という新しい形態でスタートさせたほか、原画展を開催するなど漫画家としても精力的な活動を続ける高橋氏と、今シーズンからコーチも兼任しながら南葛SCでプレーする元日本代表MF稲本潤一が、"リアル"キャプテン翼の現在とこれからについて、熱く語り合ってくれた。(全2回中の1回目)
オーナーの高橋陽一氏と稲本潤一選手 photo by Tatematsu Naozumi
――本日は、南葛SCの現在と未来についてお話いただきたいと思いますが、その前に、高橋先生の漫画家としての活動をお聞かせください。個人的にも楽しませていただいていますが、この4月からとても興味深い試みをされています。
高橋
長年にわたって漫画誌を中心に『キャプテン翼』を連載してきました。ただ、物語の構想はかなり先まであるのですが、従来通りにペン入れ(漫画の下書きにインクなどを使って仕上げる作業)をしていると、完結する前に自分の寿命がきてしまうな、と(笑)。
最初はそれでもいいかなと考えていましたが、一度ネーム(下書き)をまとめて作ってみたときに、1年分が1カ月くらいでできまして、この形なら最後まで描けるかもしれないし、こういう形として残しておけば、のちのち誰かが漫画にしてくれたり、将来的にたとえばAIが作画をやってくれたりするかもしれない。
物語が途中で終わってしまうより、そっちのほうがいいかもしれないと考えて、"ネーム連載"という現在の形式での連載を始めてみました。
――稲本さんも高橋先生の作品を読まれていますか?
稲本
最新作はこれからですが、現在は毎週テレビで放送しているアニメ「ジュニアユース編」にはまっていますね。僕が子どもの頃に見たものを、いまは自分の子どもと一緒に見ています(笑)。でも、この歳になっても夢中になれますし、改めて見直していると新しい発見もあったりして。「あ、マラドーナみたいな選手がいる」って、選手の名前なんかにも反応しています(笑)。
――稲本さんは加入3年目ですが、このクラブでプレーしていると、いろいろと『キャプテン翼』を肌で感じることがありそうですね。
稲本
めちゃくちゃ感じています。ですが、高橋先生は毎試合、ホームもアウェーも試合を見に来てくださいますし、普段の練習を見に来てくださることもある。そうすると、何かそういう環境に慣れてきてしまった自分がいて、そんな自分の感情が少し嫌なんです(笑)。
だって、パリ・サンジェルマンの選手たちが、来日イベントで高橋先生のライブドローイングにくぎ付けになって憧れてしまうような方ですよ。本来は高橋先生と会うこと自体が非日常的なことなのに、それが日常のようになってしまって、そこに自分の中では違和感があるんですよね。逆に言えば、それほど『キャプテン翼』を身近に感じられるクラブということなんですけれど。
ネーム連載で「翼の完結を目指したい」と高橋氏
―
―羨ましい限りです。まさに南葛SCはリアル『キャプテン翼』ですね。さて、本題に入りたいと思いますが、高橋先生はここまでの南葛SCの道のりをどのようにとらえていらっしゃいますか?ここまでは順調でしょうか?
高橋
いや、当初イメージとしては、もっと早い段階でJリーグにいけると思っていました(笑)。でも、そんなに簡単じゃないことは、やっているうちに分かってきました。
まず、もちろん勝たないことには上には行けないのですが、とにかく勝ち続けること自体が難しい。漫画だったら簡単なんですけど(笑)、実際はそうではないことを実感しています。結局は勝つ確率を上げなければいけないのですが、でも、そこには運もかなり影響することも分かってきました。そう思いつつ、それでも強いチームを作っていけば目標に近づいていけるとは感じています。
今年は関東サッカーリーグ1部に昇格して3季目なのですが、これまでの中では一番いい成績を残せています。過去2季は残留争いに巻き込まれたりしていましたが、一応、今年は同じようなことにはならないと思っています。まだ優勝の可能性も残っていますし、そこは最後まで目指していきたいですね。
稲本
確かに、今年は風間(八宏)さんが新監督に就任して、サッカーの質の部分がだいぶ変わったと僕も感じています。僕自身はかつて川崎フロンターレで風間監督のもとでプレーした経験があるんですけれど、選手をうまくするトレーニング方法であったり、コミュニケーションの取り方だったり、その辺りにとても秀でた監督なので、僕から見ても選手たちがうまくなってきているな、という印象があります。
なので、去年までは残留争いをする事態に陥っていましたけれど、このところ結果もついてくるようになって、少しずつ勝てる確率も上がってきています。風間監督の戦術も徐々に浸透して、チームとして力がついてきたと感じるようになってきました。
――やはり風間監督から指導者として学ぶ部分は多いですか?
稲本
はい。風間さんは全部自分でやるタイプの監督なので、僕たちコーチ陣はもっぱら見ていることがほとんどです。それでも、自主練で選手たちがどのように成長していくのかとか、チームマネジメントの中で学ぶことがとても多い監督だと思っています。
高橋
もともと風間さんの前の(森一哉)監督も、風間さんの下でコーチを経験した指導者でしたので、ベースは変わっていないのですが、今年からはいよいよ大元に来てもらいました(笑)。
稲本
そう、ついに大ボスが登場したみたいな(笑)。
(つづく)
【Profile】
高橋 陽一(たかはし・よういち)/東京都葛飾区生まれ。1980年、『キャプテン翼』(集英社)でデビュー。1983年にはアニメ化。同作品は日本でのサッカー人気はもとより、世界のサッカーの普及・発展に大きく貢献し、数多くの海外サッカー選手たちへも影響を与えている。現在でも世界中で愛され続けるグローバルコンテンツとなっている。2024年4月にシリーズの漫画連載を終え、同年夏よりWEBサイト『キャプテン翼WORLD』に掲載の場を移してネーム形式で連載を継続している。2023年にはアニメ最新作『キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編』の放送が開始され、海外でも順次放送されている。葛飾区よりJリーグ入りを目指すサッカークラブ「南葛SC」のオーナー社長を務めるなど、漫画家以外の活動も積極的に行っている。
稲本 潤一(いなもと・じゅんいち)/1979年9月18日生まれ。プロサッカー選手。ポジションはMF、DF。1997年にガンバ大阪のトップチームに昇格し、Jリーグ最年少(当時)となる17歳6か月でのリーグ初出場を記録。1999年に準優勝を果たしたFIFAワールドユースでは主力として活躍し、同年A代表にも初選出された。2001年にはイングランドプレミアリーグの名門アーセナルFCに移籍。2002年の日韓ワールドカップでは第1戦のベルギー戦、第2戦のロシア戦でゴールを決め、史上初の決勝トーナメント進出に大きく貢献。ブンデスリーガやJリーグでのプレーを経て、2022年より南葛SCに所属。2023年オフよりコーチ兼任。国際Aマッチ82試合出場、5得点。181cm・77kg
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