清水エスパルスMF
乾貴士インタビュー後編
◆乾貴士・前編>>「サイドは絶対できない。ドリブラーでもない。乳酸が溜まりすぎて...」
全国高校選手権でセクシーフットボール旋風を巻き起こし、セレッソ大阪で香川真司と強力コンビを結成。そしてドイツ〜スペインの欧州トップリーグで活躍してきた乾貴士も、今年6月で36歳になった。
体力の衰えは自覚しているという。現実とのギャップや世界のサッカースタイルの変化を、稀代のテクニシャンはどう感じているのか。同世代の引退、セカンドキャリア、J1昇格への想いについて、包み隠さず語ってくれた。
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乾貴士が岡崎慎司や清武弘嗣について思いを語るphoto by Fujita Masato
──ヨーロッパでやっていた選手が日本に帰ってきて、日本との違いをよく聞かれると思いますが、そのあたりでギャップを感じたことはないですか。
「基本的に全部、違いますからね。サッカーの質もそうだし、スピードもそう。考え方も違うので、比較するのは難しいですよね。
普通に考えたら、やっぱり日本のほうが、ちょっとレベルが下がるじゃないですか。でも今の僕は、その日本のサッカーに必死に食らいついてやっている状況なので、そのレベルまで落ちているんだという現実を、まずは受け入れないといけない。
そこは受け入れながらも、この間、ユーロのスペイン対ドイツ戦を前半だけ見たんですよ。そしたら、もう2倍くらい(動きが)速くに見えて。これが今の世界のサッカーの最先端なんだなと思ったら、ちょっとサッカーを辞めようかなっていうくらい、打ちのめされましたね」
──これまでは、そのレベルの選手たちと同じ舞台で戦ってきたわけですからね。
「そう考えると、やっぱりあの時期は幸せだったんだなって思います。でも、別に今が幸せじゃないというわけではなくて、今もサッカーは楽しいですし、今いる選手たちと一緒にプレーできているのも幸せなこと。ただ、自分のレベルが落ちていることは年々感じているので、辞め時についても考えるようにはなりました」
──自身の問題もある一方で、サッカー自体の変化もあると思います。強度が重視されるようになってきたなかで、今のサッカーをプレーする難しさを感じることはないですか。
「体力的なところではすごく感じますよ。もちろん自分の体力が落ちてきたんだなとか、走ることだったり、プレーの継続性を担保することが難しくなってきた。でも僕は、サッカーが変化してきたことに関して、あまり敏感じゃないんですよ。
ちょっと前まではバルサがパスサッカーで世界を席巻し、それを打破するためのブレッシングサッカーが、その後の主流になってきたという流れはわかります。でも結局、いつの時代もその両方があったわけですよ。
当時はパスサッカーが強くて、今はプレッシングサッカーが強い、というくらいにしか僕は思っていない。だから、サッカーが変わった、変わってないかで言うと、そんなに変わってないのかなって、僕は思うんですよね」
【引退についてリアルに考えている】──イメージとしては、テクニシャンが淘汰され、技術より強度が求められる時代になったのかなと感じるのですが。先日、セレッソの清武弘嗣選手がサガン鳥栖に移籍したのも、その象徴のように感じました。
「でも結局、キヨは鳥栖に行けたじゃないですか。鳥栖のサッカーって、キヨに絶対合うんすよ。そういうサッカーがあるから、キヨのような選手は求められる。
セレッソのようにスピードとパワーのある外国人選手が前線を形成するようなチームには、合わなかったのかもしれない。ですけど、そういうチームも昔からあったじゃないですか。プレッシングが全盛になっても、今度はそれを打破するようなパスサッカーがまた出てくるはず。だから、サッカーが変わったとは思っていないし、結局、どっちもできるチームが一番強いんですよね」
──先ほど、引退のことを考えているという話をされましたが、同年代でエスパルスOBの岡崎慎司さんや、フランクフルト時代のチームメイトである長谷部誠さんが今季かぎりで引退しました。身近な選手がそのような決断をしたことは、乾選手にどのような影響を与えていますか。
「めちゃくちゃ考えますよ。あと何年できるんだろうかって、リアルに考えています。岡ちゃんが辞めたのは、きつかったですね。まだまだやると思っていたから。
エスパルスに帰ってきて、一緒にできればいいとも思っていました。もしこのチームに岡ちゃんがいてくれたら、いい影響を与えてくれただろうし。もちろん岡ちゃんが選択したことなので尊重はしますけど、やっぱり寂しいですね」
──先日、岡崎さんがエスパルスの試合を観に来ていましたが、何か話しましたか?
「いろいろと話しましたよ。俺は辞めるけど、お前はもっとがんばれ、あとは任せた、みたいな感じで言われました。まあ、がんばりますけど、あと何年やれるかは本当にわからないので、先のことを考えるのは難しいですね」
【ああいう監督が日本に来てくれたら...】──引退後のプランなどはあるのですか。
「そこも、まったく考えてないですね」
──指導者ライセンスを取りに行ったり?
「まだ行ってないです。去年行こうとしたんですけど、結局、行けなくて。 行く気はあるんですけど、けっこう時間が取られるじゃないですか。だから、(本田)圭佑くんがもっと言ってくれればいいですけどね(笑)」
----指導者になりたいという考えがあるのですか。
「なりたいとは思いますよ。でも、なるまでが大変ですからね。いろんな監督を見てきましたけど、相当難しいだろうなって」
----これまでのキャリアで一番影響を受けた監督をひとり挙げるとすれば、誰になりますか?
「ダントツで(ホセ・ルイス・)メンディリバルですね。エイバルの時の監督です。あの人は、めちゃくちゃきついことを言うんですよ。ボロカスに文句も言われるし、変なプレーでもしたら、ちょっとここには書けないようなことも言ってくるんです(笑)。
それでも、僕は彼のことを全然、嫌いにならなくて。褒める時はちゃんと褒めてくれるし、いいプレーにはいいって言ってくれる人。それにすべての選手に対して平等で、本音で対等に話してくれるんですよ。
監督もやっぱり人間だから、人によって対応を変えたりする人が多いんですけど、メンディリバルに関しては、それがまったくなかった。グラウンドを離れれば本当に優しいですし、そんな監督はなかなかいないですよ。僕にとって理想の監督でしたし、ああいう監督が日本に来てくれたらいいなって思います」
──いよいよ、ここから昇格争いは本格化していきます。後半戦に向けた意気込みを聞かせてください。
「前半戦はケガで休んじゃいましたし、パフォーマンスも全然よくなかったので、後半戦はJ1に上がれるようにがんばるしかないです。もう、それだけですね」
【プレーオフは二度とやりたくない】──何がポイントになってきそうですか。
「とにかくアウェーが弱いんでね。ホームでは無敗なのに、アウェーだと6敗もしていますから。もちろん環境の違いもあるし、相手は俺らを食ってやろうって向かってくるなかで、受け身に回ってしまうところもあるのかもしれない。でも、それはサッカーでは当たり前ですから、言い訳にはならないです。
気にしすぎっていうのもたぶんあるとは思うんですけど、さすがにこれだけ成績が悪いと、しっかりと考えないといけない。なんとか対策してアウェーでもしっかりと勝ち点が取れるようにしていきたいですね」
──昇格のためには、やはり乾選手の活躍が不可欠だと思います。
「そうですね。がんばるしかないです。去年みたいなパフォーマンスは難しいかもしれないですけど、ここからしっかりと状態を上げて、最低でも2位以内には入りたいです。プレーオフは二度とやりたくないですから」
<了>
【profile】
乾貴士(いぬい・たかし)
1988年6月2日生まれ、滋賀近江八幡市出身。野洲高2年時に高校選手権を制し、2007年に横浜F・マリノスへ加入。セレッソ大阪での活躍が認められて2011年にドイツ・ボーフムへ。翌年にフランクフルトへ移籍。2015年にからエイバル→ベティス→アラベス→エイバルとスペインで計6年間プレーしたのちC大阪に復帰。2022年より清水エスパルスへ。日本代表・通算36試合6得点。2018年ロシアW杯に出場。ポジション=MF。身長169cm、体重63kg。
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