意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「女性の徴兵制」です。
世界の潮流を見ながら、国防について考えよう。
今年3月、デンマークは2026年から女性の徴兵制を開始する軍事改革計画を発表しました。兵役期間は男女ともに現在の4か月から11か月に延長。メッテ・フレデリクセン首相は「完全な男女平等」を達成しようとしていると発言。これは、ロシアのウクライナ侵攻により、緊張が高まっていることが背景にあります。
女性の徴兵制は、ノルウェーとスウェーデンではすでに始まっており、台湾や韓国でも議題に上がっています。
女性の徴兵が拡大することによる影響について、2つの見方が出ています。一つは女性が加わることにより、軍が人道支援やケアなど、柔和な側面が主体となる組織に変わっていくのではないかという楽観論。もう一つは、軍の行いの正当性を強化し、より暴力的な方向に進むのではないかという悲観論です。イラク戦争中、アメリカ軍がアブグレイブ刑務所でイラク人収容者を拷問・虐待していた事件が発覚しました。女性兵士が笑顔で虐待する写真が公になり、世界を震撼させました。イスラム社会では、女性に貶められることは男性にとって最大の屈辱です。命令により任務を遂行したと女性兵士は話していましたが、その後、軍法会議により有罪の判決が下りました。
ジェンダー平等が広がることは良いことですが、女性を徴兵することが“平等”といえるのか。男性的な暴力装置に利用されはしないかということについては、まだ議論が必要です。
現在、日本に徴兵制はありませんが、人ごとではありません。隊員不足に陥っている自衛隊においては今後人材を確保していかねばなりません。一方で、元陸上自衛隊員の五ノ井里奈さんが訴えたような性暴力事件も起きています。
2010年~’20年代にかけて、男女の性差なく国を守るというムーブメントが、世界に広がっています。男女の徴兵制を実施しているのは、北欧3国の他にイスラエル、マレーシア、北朝鮮、オランダなど10か国以上あります。安全保障の不安があるなか、国を守ることに関して無関心でいるのは国民として無責任かもしれません。知らないうちに戦争に加担させられることのないよう注視しておきたいですね。
ほり・じゅんジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。
※『anan』2024年7月31日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子
(by anan編集部)
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