ベイスターズ退団から3年、乙坂智の今 「仲間と最高の瞬間のために、自分のできることを一生懸命やる。今年が野球人生のベストシーズン」

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ベイスターズ退団から3年、乙坂智の今 「仲間と最高の瞬間のために、自分のできることを一生懸命やる。今年が野球人生のベストシーズン」

7月26日(金) 17:00

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乙坂智インタビュー(前編)

2021年限りでDeNAを退団した乙坂智は、翌年からメキシコ、アメリカ、ベネズエラと海外でプレーしている。今季はメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンに加入し、1番打者として牽引。多くの日本人選手と異なるキャリアを歩む乙坂は、異国でどんなことを感じているのか。本拠地のメキシコ南部メリダで直撃した。

今季からメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンでプレーする乙坂智/写真は球団提供

今季からメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンでプレーする乙坂智/写真は球団提供





【1試合に対する思いが違う】 ──海外でプレーして3年目になります。そもそも海外で野球をやろうとなったきっかけは?

乙坂 初めてメキシコに来たのは2017年、ウインターリーグでプレーした時です。あれがすべてのきっかけでしたね。

──その頃から、海外で野球をやりたいと?

乙坂 最初はブレークスルーしたいという感じでした。

──当時はDeNAで外野のレギュラーを争っていました。野球の部分では、日本とメキシコでどんな違いを感じましたか。

乙坂 野球の部分より、人と関わっているうちに感じることが多かったですね。精神的なタフさとか、よく使われる言葉ですがハングリーさとか。どういった心持ちで野球をやっているかに興味があったので。

──どう感じましたか。

乙坂 ウインターリーグは短期決戦で、プレーオフに進めばその分の給料も出るし、逆に進めなければ給料も発生しません。メキシコでプレーしている選手からすると、死活問題じゃないですか。

──そうですね。逆に成績を残せなければ、1試合でクビも珍しくない。

乙坂 そうだし、お金があればそれだけ安全な生活を送れるわけです。

──メキシコは治安がよくない場所もあり、「お金で安全を買う」という表現もされます。

乙坂 こっちで暮らしていて、そういうメンタリティーはすごく感じます。年俸も日本だとふつうに12カ月分割でもらえますが、こっちの選手はプレーした分だけ。でも、出れば出た分だけもらえる。だから、1試合に対する思いは全然違うなって感じました。

──日本に帰ったあと、心の持ちようは大きく変わりましたか。

乙坂 正直、そこまで変われなかったんです。日本の常識にまた戻ってしまって。自分のなかでは「ウインターリーグに行っていろいろ見て、変わったぞ」と思っていたけど、いま振り返れば、そこまで深くいってなかったのかな。

【開幕直前にリリース】 ──その後、2021年限りでベイスターズとの契約が終わり、海外にプレー機会を求めます。海外一択だったのですか。

乙坂 最初に声をかけてくれた球団に行きたいと思っていて。それがメキシコだった、ということです。

──それでディアブロス・ロホス・デル・メヒコ(英語名はメキシコシティ・レッドデビルズ)に入団したら、開幕直前にリリース。

乙坂 「シーズン中でもリリースや移籍は多い」と聞いていたけど、いざ自分の身に起こるとけっこうきついなって。チームメイトとすごく仲良くなって、もうすぐで開幕というところだったので......寂しかったですね。

──突然のリリースはメキシコでは日常茶飯事ですが、どう切り替えたのですか。

乙坂 意識しているのは、「日本だったら」とか「日本だとこうだよね」と考えないようにすることですね。

──メキシコに来て1年目からそう思えたのですか。

乙坂 いや、当初は激動の毎日っていうか、こんなことが起きるのかって......。正直ストレスしかなかったです。

──シーズン中にブラボス・デ・レオンに入団し、さらにサラペロス・デ・サルティージョにトレード。翌年にはアメリカの独立リーグ、アトランティックリーグのヨーク・レボリューションに入団します。

乙坂 行く前は、僕のなかでアメリカをけっこう美化していて、そのギャップがすごくて。その頃から「日本だったら」と考えないようになってきました。この違和感と戦っていたら、いつになっても勝てないなって。

──具体的には?

乙坂 日本だったら時間どおりにバスが来るとか、誰も寝坊しないとか、食事が当たり前に出るとか。小さいことですけど、そういうのと戦わないようになりました。アトランティックリーグはけっこう過酷なので。金銭面もそうですし、移動も含めて。

──バスで10時間以上移動して到着後、すぐに試合というのも普通にあるとか。

乙坂 はい。なので、流れに身を任すしかない。そことぶつかると、あまりいいことないって感じましたね。日々、その勉強っていうか。今年は今年で、学んだことがたくさんあります。

──たとえば、どんなことですか。

乙坂 こっちに来た当初は、外国の選手は個人主義なのかなと思っていたんです。でもレオネスに来たら、チームを大事にするというか。みんな、家族のように仲がいい。一致団結してやるチームです。メキシコで僕が経験したなかでも、また新しい形というか。

──ベイスターズとレオネスではどんな違いがありますか。

乙坂 プロはチームが勝っても、自分の成績がよくなければ次の年にプレーできるかわからないじゃないですか。そのなかでも最大限、「チームがまとまっていこう」と一人ひとりがリーダーシップをとっている。ベイスターズでは筒香(嘉智)さんや(ホセ)ロペス、ピッチャーなら石田(健大)さんなど先頭を切ってやっている人もいましたけど、レオネスはその数が多い。

【野球人生のベストシーズン】 ──今季開幕前、アトランティックリーグからもオファーがあったなか、「一人ひとりが役割をまっとうして勝利を目指す野球をしたい」と、レオネスに来た理由を答えていました。まさに今、それをやっていると?

乙坂 そうですね。だから、今年が野球人生のベストシーズンです。そういう環境にいることがめちゃくちゃ幸せだなと思って。

──レオネスではおもに1番打者として、打率.300と打線を牽引しています(今季の成績は現地時間7月24日時点)。

乙坂 その感覚も変わってきているんですけど、自分の成績は関係なくて......変な話、打率4割打ったとしても、今後の人生でそんなに意味を持たないと思っています。それより、そこで何を経験したか、誰と出会ったか。そういうことのほうが、すごく価値があると思っているんです。

──レオネスからオファーが来た時、そういうチームだとわかっていたのですか。

乙坂 いや、知らなかったです。そもそも、オファーは来てないんですよ。それも面白くて。何か、「このチームに行きたい」と思ったんです。外国人選手を担当する人の連絡先を聞いて、「オレどう?いらない?」って連絡しました。そうしたら「来る?」みたいな感じで言われて、ありがたいことに話がまとまりました。

──入団テストもなしですか?

乙坂 はい。じつは最初にディアブロスに行った2022年、レオネスからも声をかけていただいて2番目だったんですよ。で、行けなかったのもあるんで、今度は行きたいと。

──メキシコで野球は楽しんでいますか。

乙坂 ウインターリーグに行った日本人選手が、よく「野球が楽しいと気づいた」と言っているじゃないですか。その感覚はあまりわからないです。自分を高めることに対しての楽しみはすごくありますよ。楽しむというより、学ぶ気持ちのほうが多いですね。

──野球を続ける最大のモチベーションは、メジャーリーガーになることですか。

乙坂 以前から「メジャーに行きたい」と言っていましたけど、ちょっと資本主義に毒されているなって、最近思うんですよ(笑)。いろいろ学んで、そのなかで自分を高めようとしているわけじゃないですか。メジャーは後々ついてくるものなので。そこを目指していたら、違う方向に行っちゃうんじゃないかと思うんですよ。

──まずはチームが勝つために何をするか?

乙坂 そうです。仲間と最高の瞬間のために、自分のできることを一生懸命やる。その連続が、そこにつながると思うんですよ。でも今までの僕は、違うほうに行っていました。自分さえよければ、と。

【最近のテーマはみんなの応援団長】 ──年齢も経験も重ね、今は野球という競技で一番求めるべきものを純粋にやれているからベストシーズンなのですか。

乙坂 (小声で)そうなんですよ。今は自分の好奇心が赴くままに行動しているので、ベストシーズンなんです。

──最近の好奇心は?

乙坂 今の幸せは、試合終了後にみんなとハイタッチしている時です。だから、その瞬間のためにどうしたらいいかと逆算して動きます。最近のテーマは、みんなの応援団長。目の前の人の心にどう着火させられるか。その問いのなかで生きています。全員は不可能に近いけど、接した人を少しでも元気づけるとか、挨拶して笑顔にするとか。

──外国に行き、うまく溶け込んでいくために重要なことは何ですか。

乙坂 飛び込むことじゃないですか。こういう言い方はあまりよくないですけど、日本人の国民性としてあまり主張しないじゃないですか。でも、こっちでは主張すると受け入れられる。「それ何?見せて、見せて」とか言うと、意外とやさしく教えてくれる。とにかく輪に飛び込むことが一番馴染むし、そこから得られるものって無限大にあるので。

──初めからそうできていましたか。

乙坂 僕ね、できていたんですよ。ひとりでメキシコにウインターリーグに行っていたので、自分から行かざるを得ないっていうか。「やべぇ、行かねぇと」みたいな(笑)。

──2017年に初めてメキシコのウインターリーグに行った時、「ブレークスルーしたい」というのは必死だったということですか。そうしないと、野球人生の先がないと?

乙坂 人間的に小さいなって、ずっと思っていたんです。考え方や、相手に対しての接し方とか。何か自分を変えたいな、見える景色を自分から変えたいなって思ったから、メキシコ行きをお願いしました。

後編につづく>>



乙坂智(おとさか・とも) /1994年1月6日、神奈川県出身。横浜高から2011年のドラフトでDeNAから5位指名を受け入団。プロ3年目の14年、プロ初打席初本塁打を記録した。19年には97試合に出場するも、レギュラーの座はつかめず、21年オフに戦力外通告を受け退団。その後、メキシカンリーグ、昨年はアメリカの独立リーグでプレーし、今年はメキシカンリーグの名門レオネス・デ・ユカタンで現役を続けている

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