魔法と永遠について『デカ盛りハンター』/テレビお久しぶり#109
長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は、現在TVerにて展開中の『真夏のホラー特集』から『稲川淳二の怪談グランプリ リターンズ 2024』(カンテレ)をチョイス。
■夏は堂々とホラーの話ができるから最高だ『稲川淳二の怪談グランプリ リターンズ 2024』
私は一年中ホラーコンテンツに触れているホラー好きだが、夏は堂々とホラーの話ができるから最高だ!本当はホラーの話しかしたくない。当連載でもよく、「おっ、これはオカルトな話ができそうだ…」という理由で番組をチョイスしている。そして、そんな私が、『稲川淳二の怪談グランプリ』なんて番組をスルーできる筈があるだろうか……。
今は、8月13日(火)昼12時からTVerで独占配信される本戦への出場権をかけた予選が開催中。TVerで配信されている、10人の出場者それぞれの怪談を、ひとつずつレビューしていきたいと思う。記事の終わりに投票方法を記載してあるので、気になった方は是非TVerをチェックして、投票に参加してみてほしい。それではいきましょう!
■怪談師10人よる予選コンテンツ10本をレビュー(以下、ネタバレ含みます)
■神原めぐみ『死神の新聞』
ビーチで新聞を売っている死神、というのがおもしろい。ホラー全般において、こういったキャッチーな絵面は必要だと思う。それはときに恐怖を担保してくれながら、我々の想像力を刺激してくれる。加えて、怪談を聞いて話の筋道を理解するのが苦手な私からすれば、ビーチに死神(と思われるもの)がいます、という分かりやすくてキメになる情報がひとつあるとかなり有難い、というのもある。
■富田安洋『リノベーション物件』
なんか鳥肌立っちゃった。これは映像にしてもかなりコワそうである。この淡々としながら畳みかけてくる感じ、怪談の素人である私がイメージする怪談で、安心感がある。それにしても、私は事故物件は絶対に御免ですねえ。霊にも腹が立ちますねえ。次の住人を怖がらせてやろうという思考は一体なんなんだと……。
■木根緋郷『無線接続』
”Z世代のカリスマ怪談師”という異名のとおり、Bluetoothに関する怖い話。普通にびびった。「Connected」という機械音声に眠る恐怖の萌芽、生きている者はもちろん、死んでいる者にとっても主流はデジタル、それが令和である。ちなみに私も有線イヤホン派です。未だに無線を信用しておりません。
■佐伯つばさ『無邪気な呪い』
これは面白い話。私は不勉強なもので、蟲毒、というものについて詳しく知らなかったのだが、なるほど……。悪意が無くとも、偶然に呪いの手順を踏んでしまうというのは至極迷惑なハナシである。何かこう、管理委員会的な機関を用意して、そういった事態を未然に防げないものだろうか?これは国民全員で議論していかねばならない課題だろう。
■線六本『労い』
なんだかイイ話である。もしかしたら私が読み取れていないだけで、裏にコワいテーマが眠っているのかもしれないけれども……。とはいえ、ホラー特有の”伝播”にはやはりぞくっとさせられてしまう。それにしても、こちらを労ってくる幽霊というのは、それはそれで気味の悪いものだが、次の住人を驚かせてやろうなんて幽霊よりはよっぽどマシだ。見習ってほしい。まあ、出てこないのが一番いいけども。
■たっくー『祖母の家』
祖母の家で、まったく知らないおじいさんの霊が出たら私もパニックになるだろう。まず幽霊という存在自体が説明のつかないものではあるが、さらに知らないおじいさんということで、説明のつかなさは倍になる。私個人としては理想的な、出来事主体の怪談。「こうこうこうで、後から聞いたらこうでした」というものより、「こうこうこんなことがあって、結局なにが何なのかまったく分かりません」というような、突き放されるようなお話が私は好き(語り手自身の体験談であるというのも、物語のリアルタイム感を高めているのだろう)。そもそも、説明のつく怪異なんてそこまで怖くないのである。
■チビル松村『ポスターガイストの果て』
どんでん返しというか、えっ、何それ…?というような、不条理なオチ。そもそも条理が通用しないのがオカルトではあるのだが、”オカルト”における倫理は間違いなく存在していて、その倫理をも壊され、突き放される感覚が気持ちいい。怪談において気持ちいいというのはどういうことか、とは思うけども、気持ちがよかったのだから仕方がない。それにしてもチビル松村ってすごい名前だなあ。
■はおまりこ『心霊写真』
痛覚を刺激してくるような要素を含んだお話の内容はもちろんのこと、語りの流麗さに惹かれる。怪談というより、まるで一人芝居を見ているかのような充実感。ちょっと例えがヘタかもしれないけども、イライラ棒を器用にこなしてゆくような、一定のテンションを上にも下にも越えないラインでの豊かさが心地よくて、何度でも聞きたくなる。恐怖と、ASMR的な癒しが同居しているのも、怪談の魅力のひとつなのかもしれない。
■宮平直樹『琉球奇譚』
オカルト・ミステリーとしての強度がある。何やら大変なことが起こっていて、しかしその対処法も、原因すらも分からない、という車中でのパニックがスリリングに想像できる。いやあ、心霊スポットなんて行くものじゃないですね。かりゆし58のギタリストである語り部による、そういった心霊スポットは観光地のすぐ近くだったりするという前置きをしたうえでの「沖縄はいいところなので、皆さんも是非遊びに来てください」という締め方も、何やら挑発的でにやりとさせられる。
■山口綾子『指輪』
いいですねえ。こういうヒトコワを含んだゾッとする話って大好き。語りにも貫禄が感じられて、安心して怖がれる怪談。安心して怖がるという心理的矛盾は、期待通りに怖がらせてくれるだろう。という、プロフェッショナルへの信頼感からきている。私は怪談という文化には明るくないし、この山口氏のことも知らなかったのだけども、素人目から最も貫禄を感じられたのは彼女であった。
『稲川淳二の怪談グランプリ リターンズ 2024』予選の投票は、7月31日まで。番組の公式X(旧Twitter)にて、各出場者の紹介ポストをリポストすると2pt、いいねすると1pt、そしてTVerで再生すると3ptが加算され、その合計ポイントで本戦出場者が決定する。是非ともすべての怪談を聞いてから、Xでの投票にも参加してみていただきたい。いやあ、やっぱり夏はホラーコンテンツが増えていいですねえ。あとは暑いのと虫さえどうにかしてくれれば……。
■文/城戸
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