1980年代から1990年代にかけて都市部を中心に全国各地に生まれ、それぞれの個性にあわせた上映ラインナップやサービスで大ブームを巻き起こした“ミニシアター”。『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)から『アメリ』(01)、『メメント』(00)まで、いまなお愛され続ける作品や監督の存在が、ミニシアター文化を通して多くの映画ファンに知れ渡ったことはいうまでもないだろう。
【写真を見る】ヒットアニメと人気ミニシアターがコラボレーション!本稿では、現在も全国各地の映画ファンや地域の人々から愛されるミニシアターのなかから、劇場オリジナルTシャツを販売しているミニシアター13劇場をピックアップ。それぞれの劇場の歴史や特徴と共に、一挙に紹介していこう。
■コロナ禍を乗り越えたミニシアターの現状は?
ミニシアターブームが落ち着き始めた2000年代後半以降、映画館業界にはフィルムからデジタルへ移行する波が訪れ、大規模な設備投資が必要となったことで閉館・廃業する劇場が相次ぐことになった。その後は全国にオープンするシネコンとの棲み分けも進み、2010年代にもミニシアターでの上映をきっかけにした新たなヒット作が次々と生まれていったのだが、2020年にまたしても大きな危機が訪れる。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言のあおりを受け、経営難に陥る劇場が続出。ミニシアター文化全体が存続の危機に立たされたなか、『ドライブ・マイ・カー』(21)の濱口竜介監督や『LOVE LIFE』(22)の深田晃司監督らミニシアターから飛び立った監督たちをはじめとした有志の呼びかけによって「ミニシアター・エイド基金」が設立され、なんとかその危機を乗り越えることができた。しかし観客の動員などコロナ禍前の水準に戻りつつあるなかで、また新たな危機が立ちはだかろうとしている。映画館にとって心臓部ともいえる映写機をはじめとした設備の老朽化、さらに事業継承の問題などだ。
誰もが知るような大作メジャー作品を大スクリーンで観るのも映画の醍醐味だが、アート性や作家性に富んだ秀作・名作と小さなシアターでめぐり逢うこともまた特別な映画体験の一つ。それぞれの劇場のカラー、それぞれの土地に根差した雰囲気を携え、一歩足を踏み入れただけで“映画を観る”こと以上の体験を味わうことができるミニシアターという文化を守るために、いま大きな力添えが必要な状況となってきている。
■オリジナルTシャツには、各ミニシアターのこだわりと個性がぎっしり!
■CINEMA Chupki TABATA
まず紹介するのは、田端駅から徒歩5分の場所に2016年にオープンした、北区唯一の映画館「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」。常時イヤホン音声ガイドや字幕付き上映を行なったり、小さい子ども連れでも安心して映画が鑑賞できる防音の親子鑑賞室を設けるなど、あらゆる人に向けて映画を届ける日本唯一のユニバーサルシアター。“チュプキ”とはアイヌ語で“自然の光”を意味し、シアター内は森のなかをイメージしたリラックス空間で、音へのこだわりも抜群。
多くのサポーターの支援によって設立され、劇場に入ると支援者の名前が書かれた“チュプキの樹”が来場者を迎えてくれる。オリジナルTシャツにも、劇場のシンボルともいえるチュプキの樹がデザインされている。イラストレーターの河野愛がデザインを担当し、チュプキの樹の中心にはスクリーン、そしてそこに続々と集まる多種多様な動植物たちがイメージされている。
■CINEMA NEKO
市内のいたるところに懐かしい手描きの映画看板が点在していることでも知られる、昭和レトロあふれた東京都北西部の青梅市。かつて3つの映画館があったこの街に、約50年ぶりに映画館を復活させようと市民がプロジェクトを発足させ、2021年にオープンしたのが「CINEMA NEKO(シネマネコ)」。
昭和初期に建てられた旧都立繊維試験場の建物をリノベーションした、東京都内で唯一の木造建築の映画館。歴史を感じさせる外観でありつつも、なかに入るとぬくもりのあるアットホームな空間が広がっている。63席の場内は、座席もスクリーンも音響も最新設備搭載。この劇場のオリジナルTシャツには、劇場のマスコットキャラクターである金ちゃんと銀ちゃんのワンポイントイラストがあしらわれている。
■シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』
東京を代表するサブカルチャーの街として、若者を中心に長年絶大な人気を果たしている下北沢。新宿駅からアプローチする際に使う小田急線の旧線路跡、南西改札口と直結した「(tefu)lounge下北沢」に2022年に誕生したのが「シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』」。
「街の入り口に、街の文化の共有地。」をキーワードとして掲げ、多種多様な上映ラインナップや併設するカフェ、また様々なイベントなどを通し、様々なカルチャーが活発に混ざり合う下北沢ならではのミニシアターとして成長を続けている。その開館2周年を記念して発売されたオリジナルTシャツは、劇場の座席の写真がプリントされたシンプルかつ“映画館愛”にあふれた一枚となっている。
■下高井戸シネマ
前進は1950年代後半にオープンした木造平屋建ての封切館で、1980年に名画座へと転向。その後リニューアルして現在の建物となり、1988年から「下高井戸シネマ」として生まれ変わった、東京23区では数少ない昭和の面影が残るミニシアター。1990年代後半に閉館の危機を迎えた際には、地元の人々が立ち上がり、閉館寸前のところから再起した過去も。現在は都心部の劇場で上映を終了した作品を連日各1回上映で複数本、週替わりで上映する“二番館”として、多くの映画ファンの劇場体験の最後の砦となっている。
そんな“街の映画館”である下高井戸シネマの劇場名がデザインされたオリジナルTシャツ。胸元の四角はスタンダードサイズのスクリーンを表現しており、そこからはみ出したアルファベット「映画にかかわるすべての人がスクリーンを越えて繋がっていく」という意味が込められているのだとか。
■新宿武蔵野館
“武蔵野館”という名称の歴史は100年以上。関東大震災を乗り越えたロードショー館に始まり、トーキー映画への変遷を通ってきた大劇場など。現在その名を受け継いだ「新宿武蔵野館」は、30年前に「シネマ・カリテ」としてオープンした3スクリーンを有するミニシアター。いまでは新宿エリアを代表するミニシアターの一つとして、アート映画から日本のインディペンデントまで幅広いジャンルの作品を上映。
数々のヒット作が生みだされてきた同館で、近年ひときわの人気を集めたのはアニメ映画『音楽』(19)。同作でメガホンをとった岩井澤健治監督が「上映館である武蔵野館を応援したい」と提案したことから、公開当初には販売のなかった「『音楽』×武蔵野館」のコラボTシャツが販売されている。
■Stranger
東京都墨田区、都営新宿線の菊川駅からほど近い場所に2022年にオープンしたばかりの「Stranger」は、東東京エリア初のミニシアターとして、日本でなかなか観ることができなかった海外の隠れた秀作や上映権利が切れていた作品など、都心部のどの劇場でも味わえない独自のプログラミング編成を展開。
“ここに行かなければ観られない”というミニシアターの持ち味をとことん味わえるだけでなく、アートギャラリーのようなおしゃれな外観とこだわり抜かれたハイスペックな上映環境、充実したメニューを取り揃えたカフェも併設するなど、唯一無二の映画文化発信地として遠方からの来場者も多数。劇場ロゴがデザインされたオリジナルTシャツを着れば、映画仲間が増えるかも。
■長野相生座・ロキシー
1892年に芝居小屋として建てられ、1897年に活動写真を初上映。1919年から映画館として営業を続け、実に100年以上(建物としては130年以上)の歴史をもつ、日本最古級の映画館「長野相生座・ロキシー」。長野の映画文化を見守り、多くの地域住民に支えられてきたこの劇場は、1970年代と1980年代に増設を行ない現在は3館体制で営業している。
そんな相生座のオリジナルTシャツは、全国のシアターを紹介するWOWOWの番組「W座からの招待状」内でイラストレーターの信濃八太郎が来館した際に描いた劇場正面のイラストをそのままデザイン。いつまでも残したい“映画館のある街の風景”がこの一枚に収められている。
■日田シネマテーク・リベルテ
大分県日田市にある「日田シネマテーク・リベルテ」は、人口7万人規模の町としては国内唯一の、常設の個人事業による映画館。現支配人が市内に残った最後の映画館を引き継いでから今年で15周年。映画の上映はもちろんのこと、アーティストの音楽ライブやワークショップ、ギャラリーなど、様々なアートを伝える発信地として日田のまちに根ざした活動を続けている。
映画館=地域のコミュニティスペースとしての価値を守り続けているリベルテのオリジナルTシャツは、支配人の友人であり是枝裕和監督の『万引き家族』(18)の題字も担当した画家のミロコマチコが、リベルテ緊急コロナ支援のために描き下ろした原画をもとに制作されたもの。シンプルかつアート性が高いデザインで、どんな服とも合わせられそう。
■フォーラムシネマネットワーク
日本で初めて市民の出資によって生まれた、映画ファンのための映画館「フォーラム山形」を皮切りに、仙台や福島、盛岡、那須塩原など東北エリアの各県に複数の劇場を展開している「フォーラムシネマネットワーク」。映画館のなかった場所に映画館をつくるだけでなく、都市部でしか上映されない映画を数多く届け、また地元の大学や市民団体などと協力しながら様々な上映会を企画。まさに“地域に根ざした映画館”の代表的な存在。
そんな「フォーラムシネマネットワーク」のオリジナルTシャツ「SEAT-T」は、1984年に山形市大手町にオープンした際に設置されたグリーンモケットのシートがモチーフとしてデザイン。このシートは、香澄町に劇場が移転した現在も現役で活躍しており、40年も映画上映を見守ってきたフォーラムのシンボル的存在。ちなみにフォーラムではビルの老朽化に伴う建て替え、または賃貸借契約の満了に伴う退去で3つの劇場が閉館したが、そのうちの一つである盛岡の「アートフォーラム」は、来年場所を移し「フォーラム盛岡ART(仮称)」として再オープンすることが決まっている。
■ポレポレ東中野
新宿駅から2駅。都会の雰囲気と古き良き街並みが混在する東中野の駅前に位置するビルの地下にある「ポレポレ東中野」は、1990年代から9年間にわたって営業していた映画館「BOX東中野」を継承するかたちで2003年にオープン。ほかの劇場ではあまり観られないドキュメンタリーなどの“文化映画”や、日本の若手監督の手掛けたインディーズ映画を積極的に上映する劇場として映画ファンからの信頼も厚い。
96席ほどの館内は天井も高く段差もあり、大きめのスクリーンはどこの座席からでも観やすい作りになっている。開館20周年にあわせて発売されたオリジナルTシャツには、そんな劇場の断面図のようなイラストが描かれており、長年この劇場で映写スタッフとして働きながら「ROTA」というブランドも展開する大橋祐介がデザインを担当。Tシャツのカラーは劇場のシートと同じヘイジーブラックとなっている。
■目黒シネマ
山手線の目黒駅から徒歩5分という好立地にある「目黒シネマ」は、“いつも腹ペコ2本立て”のキャッチコピーでもわかる通り、現在ではすっかり少なくなった2本立て上映(一部プログラムを除く)を実施している映画館。館内の展示や手書きのポップなど、映画愛にあふれたスタッフによる装飾の数々で来場者を楽しませてくれる。
シネコンなどでの上映が終わって数か月経った作品や、過去の名作などを週替わりで上映しており、35ミリフィルムでの上映も頻繁に行われている。そんな現役で活躍を続ける35ミリ映写機への感謝が込められたオリジナルTシャツ「映写機Tシャツ」は、イラストからすべての文字にいたるまで劇場のスタッフが手描きでデザインしたもの。
■元町映画館
異国情緒あふれる神戸の中心地、元町商店街に位置する「元町映画館」。2010年にオープンした同劇場は、ドキュメンタリー作品から新進気鋭の作り手によるインディペンデント作品など、近隣のほかの映画館では上映されないような作品を積極的に上映。66席の落ち着いた場内と、地元の映画ファンに支えられた手作り感で、“ザ・ミニシアター”と言いたくなるような味わいにあふれている。
オリジナルTシャツは、開館当初からスケジュールチラシやスタンプカードなどを手掛けているイラストレーターの朝野ペコによる映写機のイラストがデザインされている。コロナ禍以降、立て直しに向けて様々な取り組みを行っている同劇場では、現在継続的に劇場を支援してくれるサポーターを募集しているとのこと。Tシャツとあわせて、ぜひとも応援してほしい。
■横浜シネマリン
かつては数多くの映画館が軒をつらねた横浜有数の繁華街、伊勢佐木町。元々は二番館として営業していた「横浜シネマリン」は、映画の急激なデジタル化の波に乗れず、2014年に閉館の危機に見舞われ一旦休館。その後、閉館を惜しむ市民とそれに賛同する多くの協力者の奮闘によって再建。同年末にミニシアターとして再オープンを果たした。
映画と映画館を愛する市民の熱意によって復活した「横浜シネマリン」のオリジナルTシャツは、コロナ禍での応援グッズとして誕生。デザインされている劇場キャラクターのネコの“クリコ”の愛らしさで話題を集め、すでに販売数500枚を超えるロングセラーとなっているのだとか。
それぞれの劇場がそれぞれの歴史と特徴、魅力を備えているミニシアター。ここで紹介した各劇場のオリジナルTシャツを着れば、いつも通っているおなじみの劇場やいつか行ってみたいと思っている劇場の力になれるはずだ。いまなら、これらTシャツを一挙に紹介しているページもあるのでチェックしてみてほしい。猛暑が続くこの夏は、ミニシアターオリジナルTシャツを着て、涼しい映画館へ出かけよう!
文/久保田 和馬
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