『ウルトラマンアーク』ウルトラハグのルーツは『シン・ウルトラマン』?辻本貴則メイン監督に聞く!

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『ウルトラマンアーク』ウルトラハグのルーツは『シン・ウルトラマン』?辻本貴則メイン監督に聞く!

7月26日(金) 20:00

7月6日(土)から放送を開始した『ウルトラマンアーク』。ウルトラマンアークの約3分間にわたる戦いを、リアルタイムかつ疑似ワンカットで描いてみせた第1話は、放送直後に大きな話題となった。

今作の企画段階から携わるメイン監督を務めるのは、辻本貴則(※「辻」は一点しんにょう)さん。2013年から始まったニュージェネレーションウルトラマンシリーズ(以下、ニュージェネ)では、2015年の『ウルトラマンX』で初参加し、2018年の『ウルトラマンR/B』以降は毎年監督として参加。メイン監督を担当するのは今作が初となる。

今回は辻本監督にインタビューを敢行。ウルトラマンアークやメガホンをとった第1~3話の演出、OP・EDへのこだわりなどたっぷりと語っていただいた。

>>>『ウルトラマンアーク』場面カットをみる(写真7点)

◆『アーク』では縦軸回しかやらない◆

――『ウルトラマンアーク』のメイン監督を務めるにあたり、大切にしたことははんですか?

辻本僕はずっと各話監督をやってきたんですが、そのときは縦軸の話はやらないから、単発回としての面白さを追及していたんです。シリーズの決まりごとをアレンジして面白い演出を入れたり、爪痕を残そうと過剰なサービスカットを用意したり。結果として一応シリーズに貢献できていたとは思うんですが、いざメイン監督となると、今までやってきた奇を衒った演出……僕は ”遊び” と言っているんですが、それがシリーズのカラーを貫き通すためには邪魔になると感じて。だから今回、本筋にあまり関係ないのであれば、遊びの演出や特撮カットとかはやめようとしました。したはずだけど、「いや、やってるじゃん!」みたいな演出があったとしたら、それは気づかない間に僕のフェチが漏れ出ていただけです。

――第1~3話を拝見したんですが、すみません、実に辻本監督のクセが出ているなぁと思って観ていました……(笑)。

辻本(笑)。アレでも抑えていたはずなんですが(笑)。やっぱり隠し切れなかったんですね。本来であれば今までの作風からして遊びの面での盛り上げを期待されているだろうし、僕も最初はやろうと思っていたんです。でも、メイン監督の立場になると、ミニチュアの車をひっくり返すとか、細かいことをやっている場合じゃないなという気持ちになったのは確かで。ウルトラマンが変身して、この怪獣をどういう気持ちでやっつけているのか、とかをちゃんと考えなきゃいけない、という意識になりました。

――実際、特撮とドラマのリンク度は過去の担当作以上に高まっていると感じました。

辻本ありがとうございます!

――それは辻本監督の手腕もそうですし、これまで別作品でもタッグを組んできた、シリーズ構成・メイン脚本の継田淳さんの存在も大きいのではないかと。

辻本そうですね。継田さんには、僕らは今まで散々単発回をやってきたので、『アーク』でご一緒する回はもう縦軸しかやらないよ、とお伝えしました。継田さんにはシリーズ構成として、ほかの監督の単発回をチェックしていただいて、僕とはシリーズの核となる主人公ユウマとアークの話をやりましょう、と。僕が担当する前半、中盤、終盤の中で、ユウマとアークの出会いから、絆を深めて、最後に気持ちがひとつになるところを丁寧にやっていきましょう、と約束したんです。その意識のおかげで、良い方向に転んでいったんだと思います。

――今回、辻本監督から参加をお願いしたスタッフの方はいますか?

辻本監督では湯浅弘章さん、脚本家では本田雅也さんですね。湯浅監督はドラマを撮るのが本当に上手い方で、湯浅監督が撮るウルトラマンシリーズのドラマが観たかったので、円谷さんに「お願いできますか?」と相談しました。本田さんは別件のアニメの仕事でご一緒したのですが、そのときにとても論理的で細かいところまで気を配ってくださる、自分の中でのルールというかちゃんとロジックがある脚本家という印象を抱いて。もしウルトラの現場に上手くハマったら、すごい戦力になってくれるに違いないと思い、ご紹介しました。

(C)円谷プロ(C)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京



◆現場で増していったアークの ”新マン” 味◆

――作品全体としてアットホームなお仕事ものドラマ感があるというか、怪獣が関わってこない場面だと一般ドラマを観ているのと変わらない視聴感だと思いました。

辻本「これ特撮ドラマだから」という記号的な演出をできるだけ避けたい、ドラマだけを観ていると「普通のドラマっぽいよね」と思われるラインを目指していました。あと去年の『ウルトラマンブレーザー』との差別化を図った部分もあって。『ブレーザー』は、防衛隊の描写にかなり力を入れたハードSFで、年齢層の高い視聴者を意識した作品だった。せっかく僕がやるなら違うものを見せたいという気持ちもあって、優しくて柔らかい世界観と、普通のドラマを撮っている感覚を狙っていきました。キャラクターも濃くてわかりやすい設定にはせず、シリーズを通してそれぞれの人物像が見えてくるような、非常にフラットに観てもらえる感じでスタートできればいいなと、第1~3話は作りましたね。

――SKIPの雰囲気の良さも印象的でした。特にシュウみたいな外部から来た人間が、ユウマたちとあまり対立しないというのが少し意外で。

辻本朝からいがみ合ったり喧嘩したりするシーンを観せられても、しんどいじゃないですか。感情をぶつけ合うのはドラマとしてわかりやすいし、演じるほうもやりやすいかもしれない。でも、自分がメイン監督の時にそれをやりたいとは思わなかった。現実の社会人も普通はそんなにいがみ合わないですよね(笑)。「何かいいもの観たな」「今日一日楽しいことがあればいいな」みたいな気持ちで土曜日の朝を迎えてほしいので、継田さんとはできる限り揉め事のシーンとか言い争うシーンは減らそうと話していました。

――直近の監督作だと『ブレーザー』第17話の「さすらいのザンギル」や、別作品で言えば『超速パラヒーロー ガンディーン』に通じる、あたたかみが感じられるなと。

辻本うわっ、めっちゃ観ていただいてますね!そういう嬉しい感想は、どんどん書いてください(笑)。『ガンディーン』も真面目なテイストというか、しっかりした物語の中に特撮の要素が入ってくるという感じだったので、『アーク』にもそういうところがあったかもしれません。カナン星人の回(『ブレーザー』第6話)もそうですが、僕は宇宙人と人間が対話するシーンが大好きなんですよ。『ウルトラセブン』のメトロン星人回(第8話)とか、ペロリンガ星人回(第45話)みたいな。宇宙人と会話する中で交渉や駆け引きをして、意見を交わしたり決裂したりって展開が好きで、隙があればねじ込んでしまうんです。『ブレーザー』の時も今思えば、メイン監督の田口(清隆)さんとしてはコンセプト的に、あまり宇宙人は出したくなかった気がしますけど(苦笑)。『アーク』で僕は縦軸しかやらないと決めていたので、今回そういう要素はアークとユウマのやり取りに集約させています。

――ルティオンの設定もワクワクしました。普通ならウルトラマンと地球人が一体化するところを、宇宙人のルティオンと地球人のユウマが一体化した姿がウルトラマンアーク……というのがこれまでにない新しい発想だな、と。

辻本実はルティオンというキャラクターありきで設定を考えたわけではなくて、キャッチコピーの「想像力を解き放て!」という言葉が、アイデアの源泉としてあったんです。子どもって、いろいろ絵に描いたりするじゃないですか。そのときに想像して描いた ”僕の考えた強いヒーロー” の絵を、宇宙人に具現化してもらえたとなったら、子どもにとっても夢があるし、僕もそうなったら嬉しいなと。そこからさらにアイデアや話を膨らませて、ルティオンやウルトラマンアークの設定が生まれたんです。それに子どもが変身アイテムや技を考えたことにすれば、「なぜ変身アイテムの使い方を知っているの?」とか、「なんで技の出し方がわかるの?」という疑問も、全部解消できるなと。

――アークのアクションも実に辻本監督の好みが出ているというか、『帰ってきたウルトラマン』のウルトラマンジャックのリスペクトですよね。

辻本そうジャック……僕の世代の言い方だと新マンとか帰りマンですね。アークのスーツの着合わせのとき、「どんなポーズがいいですか?」と聞かれたんですけど、そのときはまだ考えていなかったんです。「じゃあ、どのウルトラマンが好きですか?」と言われて新マンを挙げたら、スーツアクターの岩田(栄慶)さんが、首の振りをつけてあの構えをやってくれて、「わぁすげえ、新マンだ!」と感動しちゃって。新マンは当時のスーツアクターのきくち(英一)さんがものすごく姿勢が良くて、動きが特徴的なんですよ。目の前で新マンの動きを見たら、もう戻れないというか。初代ウルトラマンやウルトラセブンのオマージュは今まであったけど、新マンやウルトラマンAは案外少ないし、今後も「やりたい!」って言う監督は出てこない気がして。もう「俺が行く!」と。

――それだと『ブレーザー』じゃないですか(笑)。

辻本(笑)。新マンで行くぞ、となったらアクションコーディネーターの寺井(大介)さんがどんどん寄せてくれて、その結果、技もチョップが多くなったりしました。バリアが多いのは、僕がバリア好きだからです(笑)。

――皆さんでアークのアクションを作っていったんですね。アークの描写だと、ユウマが変身するときに抱きしめる動作も印象的でした。ウルトラマンは強くてカッコいいだけでなく、優しさを持っているところが魅力だと思うんですが、あの変身にはウルトラマンのあたたかさが出ている気がしました。

辻本そうなんです、現場では ”ウルトラハグ” と呼んでいました。あたたかさや優しさを物語だけじゃなく、ビジュアルでも伝えたいと考えて、「優しく包まれたいな」「バックハグだな、これは」と。

――顔の仕草もいいですね。

辻本あれは岩田さんに「最後ちょっと頭をひねろう」「そこに優しさが生まれるはずだ」と言ってやってもらったんです。いやぁ、皆さんにその思いが伝わって良かったです(笑)。ウルトラハグの発想のきっかけは、『シン・ウルトラマン』だったんです。ニュージェネの監督を続けていく中で、いつも漫然とやっているような描写を一旦疑ってかかったほうがいいんじゃないか、という気持ちがずっとあって。そこで『シン・ウルトラマン』の変身シーンで、ウルトラマンの手が出てきて人間を掴むカットを観て、「ああ、先輩たちやっぱりすごいわ」「僕たちまだまだです」と思って。『アーク』のメイン監督の話が来たときにそのことを思い出して、僕も独自性を出さなきゃだめだと考えた結果、ウルトラハグが生まれました。

――確かにあの変身シーンは衝撃的でした。

辻本結構初代ウルトラマンに忠実だなと思って観ていたときに、ああいう新規のアイデアがポンッと入ると「おっ!」となりますよね。樋口(真嗣)監督にお会いしたら、あの動きに名前があるのか聞いてみたいです(笑)。

(C)円谷プロ(C)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京



◆ニュージェネフォーマットへの挑戦◆

――第1~3話の特撮演出について伺いたいのですが、まず第1話の3分間・疑似ワンカットは凄まじかったですね。

辻本僕は特撮のアイデアをいつか実現できるようにとiPhoneでメモをとっていて、その中に3分間をワンカットでやる、とずっと書いてあったんです。でも、ワンカット演出は現場の撮影が大変だし、合成カットもすごく増えるから通常の予算では難しくて、「やれるとしたらメイン監督になったときだな」と思っていました。今回はついにその時が来たな、と。ワンカットでやるにはいろいろとハードルを越えなければいけないんですけど、その中の一つが、ニュージェネでよくやっているインナースペース。途中でインナースペースに入るとワンカットに見えなくなってしまうので、プロデューサーをはじめ製作に携わる大人たちに根回しをして、『アーク』ではなしにしました。

――『ブレーザー』第14話でも田口清隆監督が疑似ワンカットの空中戦を手がけていたので、まさか2年連続で素晴らしい疑似ワンカットのアクションが観られるとは思いませんでした。

辻本ちょうど『アーク』の第1話の絵コンテを描いていたころに、田口さんが空中戦でワンカットをやるって噂を聞いたんですよね(笑)。考えることはみんな一緒なんだな、と思いました。田口さんと差別化する意味で、空中にはあまり行かずに地上戦をメインにやったり、ウルトラマンが変身できる時間の3分間を強調する演出にしたり。戦っている最中にはスーツアクター同士の息遣いみたいな、リアルな間が生まれたりして、ウルトラマンと一緒に戦っている感じが出て良かったなって。

――まさに掴みはバッチリ、という感じでした。

辻本以前田口さんから「1話で視聴を切られることが多いから、1話は全力でいったほうがいい」と聞いていたんです。田口さんは何度もメイン監督をやっているし、「じゃあ1話は頑張らないとダメなんだな」と意気込んでやり切りました。

――第2話もアークとリオドの主観を、目の奥のカットを間に入れて描いていたことに驚きました。

辻本ウルトラマンの目の奥の描写は正直「OK出るかな、これ?」と不安でしたが、プロデューサーに画コンテを提出したときに何も言われなかったのでホッとしました。第2話については「『アーク』のシリーズではこういう各話になりますよ」という、通常回のフォーマットを見せる意図があったんです。でも、特撮シーンではやはりキャッチーな画が欲しい。何かいいアイデアがないかなとさっき話したiPhoneのメモを読み返したとき、”ウルトラマンと怪獣の主観で特撮を描写する” と書いてあったので、よしここでやろうと思いました。

――第2話に限らず、辻本監督は怪獣の目の演出にとてもこだわっている印象があったんですが、何か理由みたいなものはあるんですか?

辻本怪獣って最終的に倒される流れになっちゃうんですけど、怪獣にも表情はあるし、痛みもあると子どもたちに伝えたいなと思って、ひたすらこだわっています。僕は犬を飼っているんですが、犬って目で会話をするんですよ。目で訴えてくるんです。なので、目玉をギョロギョロ動かしたり、昔のウルトラマンではアナログでやっていたまぶたの動きをデジタルで再現したりして、できる限り怪獣の表情を描写するようにしています。

――逆に第3話に登場したディゲロスは、リオドや第1話のシャゴンと違って愛嬌のない、不気味な感じの怪獣でしたね。

辻本そうそう。ディゲロスは宇宙の獣なので、地球人の理屈や常識に囚われない動きが良いなと思っていて、異物感や異質感が出るように意識していました。2話までの少しかわいらしい怪獣の感じとは違う、ハードな雰囲気が出るように、百武(朋)さんにも『ウルトラセブン』の怪獣みたいな得体の知れないデザインにしてください、とお願いしました。

――戦闘シーンも、街中のカメラが捉えた映像をつないで見せていたのがユニークだと感じました。

辻本僕は監視カメラの映像やニュース映像を挟み込むのが好きなんですが、一度長めのシーンで、さまざまな客観的なカメラ映像をつなぐことをやってみたい、という発想があって。そんな中、巨大モニターがあるビルにウルトラマンが突っ込んでモニターごと割れる、というオチを思いつきまして、今回やってみました。最後のビル壊しは合成も結構大変でしたね。実際にはビルが壊れたら映像はパッと消えちゃうんだろうけど、そうするとわかりづらくなっちゃうんで、ちょっと嘘をついて崩れている最中もギリギリまで映像を残す、という演出にしました。

――アイキャッチを入れたり、OP映像にその話のダイジェストを挿入したりと、『アーク』では番組フォーマットを今までのニュージェネから変えていますよね。

辻本やっぱり『ブレーザー』からガラッと印象を変えたかったし、ニュージェネも10年以上続いてフォーマット化されすぎているので、少し疑ってかかりましょうよ、という気持ちがあって。今までルーティンでやっていたことを変えていこう、と自分なりに頑張った結果ですね。OPもみんないつも一緒だと思って、毎回は観ないじゃないですか。「OPも毎回ちゃんと観てよ」という意味で、ダイジェストを入れてみました。

――EDもフィルム調な映像が印象的ですし、ユピーが頭と終わりに出ることで本編との地続き感が出ていたのが素敵だなと。

辻本EDは今までのシリーズだと、編集の矢船(陽介)さんがアイデアを出してくれていたんです。今回はせっかくメイン監督ですし、僕のほうから16ミリフィルムの映像風にして、ユピーの芝居で間をつなぎたいと、EDも演出させてもらいました。ユピー自体も結構こだわって作ったし、なんとか活かしたいなという想いもありました。

――最後に今後のエピソードで注目してもらいたいポイントを聞かせてください。

辻本放送前の段階では昭和二期のオマージュが話題になっていましたが、これからとても奇抜な回とかも出てきて、ルックはベーシックだけど内容はトリッキーな方向へどんどん進んでいきます。予想外の展開を楽しみにしてほしいし、各話の監督がそれぞれ工夫を凝らして、印象深いエピソードにしてくれているので、今後もご期待ください!

(C)円谷プロ(C)ウルトラマンアーク製作委員会・テレビ東京
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