大学在学中に制作した『僕はイエス様が嫌い』(19)が世界中の映画祭で高く評価された奥山大史監督の商業デビュー作にして、第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された『ぼくのお日さま』(9月13日公開)。本作のQ&A付き試写会が7月25日に東京・練馬区にある日本大学藝術学部 江古田キャンパスで行なわれ、奥山監督と池松壮亮が登壇。いままさに映画の勉強をしている学生たちからの質問に答えていった。
【写真を見る】教室中から質問が殺到!約1時間のQ&Aで、池松壮亮が日藝時代を振り返る
本作の舞台は雪が積もる田舎町。すこしだけ吃音のある小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、苦手なアイスホッケーの練習でケガをしたある日、フィギュアスケートの練習をする少女さくら(中西希亜良)に目を奪われる。アイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て何度も転ぶタクヤを見たさくらのコーチ・荒川(池松)は、彼にスケート靴を貸してあげ、練習に付き合うことに。そして荒川の提案で、タクヤとさくらはペアを組んでアイスダンスの練習を始めていく。
日本大学藝術学部映画学科の監督コースを卒業した池松にとって、今回のイベントは母校への凱旋。「自分の母校で、これから未来に羽ばたいていく皆さんにこの映画を届けられて本当に光栄に思います」と挨拶。一方、青山学院大学出身の奥山監督は「本作のスタッフも卒業制作のスタッフにも日藝出身の方が多かったので、いつか来てみたいと思っていました」と語り、スクリーンが備えられた教室に興味津々。「どんなQ&Aになるか、いまからワクワクしています」と笑顔を見せた。
学生たちからのQ&Aに入る前に、本作の見せ場のひとつであるスケートシーンの撮影について訊ねられた奥山監督は、自身が幼少期にスケートをやっていた経験を活かし、自ら滑りながらカメラを構えて撮影したことを明かす。「割とドキュメンタリー的と言いますか、ト書きではおおまかにしか書いていなかったので、ほとんどアドリブで演技してもらいました。ただアドリブだと、良いものを撮れてもリアクションがないとつながらない。凍った湖でのシーンは劇中では3分ですが、実際には2日間かけて3時間くらい撮影しました」と、自身の演出術について説明。
一方「俳優をやっているといろいろなことに取り組ませてもらう機会がありますが、これまでで一番難しかった」と、元スケート選手という役柄の苦労を語る池松。「子どもたち2人は脚本を受け取っていないので、カメラの前であらかじめ決められたことをやるのではなく新鮮に物語と出会っていくスタイル。どうしたって自分が2人を導いていかなければならなかったし、2人の輝きをどれくらい映画に残すことができるかを考えながら、心を通わせること一点勝負で向き合っていました」と振り返った。
そしてQ&Aに入ると教室中のいたるところから手が挙がり、次々と寄せられる日藝生ならではの質問に2人は真摯に答えていく。前作『僕はイエス様が嫌い』に絡めて「子どものころの経験を映画にする上で大切にしていることは?」と訊かれた奥山監督は、「子どものころは些細なことで落ち込んだり、喜んで舞い上がったり、いまよりもっと感情の起伏があった。あのころのキラキラしたものがカメラのレンズを通せばもう一度呼び起こされる気がしています」と語り、「今作はフィギュアを習っていたこと以外はこの映画のための物語。実体験でないストーリーに自分の子どものころの感情をどう取り入れていけばキラキラしたものを呼び起こせられるのか、悩みながら撮影していました」と述懐。
また、子ども時代や学生時代の経験がいまにどう活きているか訊かれた池松は「もう、全部活きていると思います」と回答。「今回の主役の2人は撮影当時11歳や12歳。僕もそのぐらいに俳優としてデビューしていますが、映画を体験するってどういうことなのか、自分は初めての映画でなにを思っていたのか、どういうふうに世界や大人たちを見ていたのか。たくさん振り返る時間になりました」としみじみ。そして越山と中西について「2人から出てくる表情やしぐさは、あまりにも無垢で人間本来が持つ輝きみたいなものがある。『こんな顔するんだ』『あんな顔するんだ』と日々発見し、そのたびに感動していました」と、将来性豊かな2人に賛辞を送った。
さらに「自分なりの表現やスタイルを見つけていく方法は?」と質問してきた学生に対して奥山監督は、「僕もまだ探している途中ですが、好きな作品や監督を見つけたら一通り触れてみて、なぜそれがいいと思ったのかを言葉にして繰り返していくことしかない。そうするうちに目指す方向も見えてくると思います」とアドバイス。それを受けて池松も「俳優の場合は常に流動的でありたいと思うし、様々なスタイルを獲得していきたいとも思う。いろんなものを真似し、自分の表現に対して素直になること。そうしたら結果としてスタイルが見つかるのかなと思います」と、ひとつひとつ言葉を選びながら語りかけた。
イベントの終盤、奥山監督から「なぜ演技コースではなく監督コースに進んだのか」と訊かれた池松は、「これを言ったら演技コースの人たちに失礼かも…」と前置きをした上で「僕は演じるというものは人に教えてもらうものではないと勝手に思っていて、技術的なところではないところにお芝居の理想があった」と、理由の一つを明かす。さらに「監督は学べるものだったのでしょうか?」と訊かれると「監督は専門的なことも技術的なこともいろいろ知っていないといけない。そういう意味では学べる時間にはなりました」と答え、「全然覚えていないんですけど…」と学生たちの笑いを誘う。
そして最後に学生たちに向けて奥山監督は「池松さんをはじめとした先輩たちの背中を追いかけながら学べるのは最高にうらやましいこと。そういう場所にいることに誇りを持って映画づくりを目指していただき、いずれなにかの機会にご一緒できたらうれしいです」と呼びかけ、池松も「どんどんやりたいことをやり、これまでのルールに縛られることなく新しい時代を作っていただきたい。僕もぜひ皆さんと仕事ができる日を楽しみにしています」とエールを送っていた。
取材・文/久保田 和馬
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