「竜巻って、倒せるんですかね?」
【写真を見る】でんじろう先生が“竜巻”の仕組みを実験で解説!空気砲も竜巻の仲間だった?
隣の席で仕事をしていた後輩からの突拍子もない質問に、編集部員Tは思わず「倒せるんじゃない?」とそっけない返答をしてしまった。
後輩の机上には、この夏に公開される大作映画の資料が置かれていた。スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮、「ジュラシック・ワールド」シリーズの製作陣が贈る『ツイスターズ』(8月1日公開)のものだ。本作は巨大竜巻が発生したアメリカを舞台に、気象学の天才ケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)が、“竜巻チェイサー”のタイラー(グレン・パウエル)や、友人ハビ(アンソニー・ラモス)らと共に、無謀にも“竜巻破壊計画”に挑むアクション・アドベンチャーだ。
劇中に登場する竜巻は、富士山よりも高く、新幹線よりも速い時速500kmのまさに地球が生んだ最強モンスター。はたしてこんな相手に太刀打ちできるのだろうかと、後輩が疑問に思うのも仕方あるまい。そう考えた編集部員Tの頭のなかに、ある考えがよぎった。「竜巻は実在するのでいつ目の前に現れてもおかしくない。ならばその時に備えて、対処方法を知っておいたほうがいいのではないだろうか…。それにいざという時に竜巻を倒す方法を知っていたら、後輩から尊敬してもらえるに違いない…」と。
■まずは、竜巻級の強風を体験することからはじめよう!
邪な考えを胸に編集部員Tが向かったのは、日本で唯一インドア・スカイダイビングを体験することができる、埼玉県越谷市の「Fly Station」。竜巻は風でできている。そう考えた編集部員Tは、身をもってその威力を体感し、対抗できるだけのフィジカルを養うことこそ“打倒竜巻”への最短ルートだと考えたのだ。
この施設で体験できる風の最高時速は360km。“竜巻モンスター”に挑むにはちょっと足りない気はするけれど、おおよその感覚は掴めるはずだ。しかしその考えは甘かった。いざフライトが始まると、真下から吹き上げてくる強風に、編集部員Tの顔面は崩壊寸前。安全のためにと事前に風の受け方を教えてもらったはずなのに、ただただ風に身を任すことしかできない。フライト時間はちょうど1分間。嘘だろ…1分ってこんなに長かっただろうか?
「これが時速360kmの風か…」と命からがら地上に降り立った編集部員Tに、衝撃的な事実が知らされる。実はいま体験した強風の時速は120km。どうやら初心者が360kmに挑もうとすると風の威力に負けて勢いよく打ち上げられてしまい、最悪の場合、命の危険がともなうのだとか。
時速120kmでもこんなに怖かったのに、“ツイスターズ”の時速は500km。単純な数字では4倍だが、威力の差はそれ以上にあるはずだ。これはそう簡単に勝てるはずがない…
■科学で挑むなら、あの人に頼るしかない!
フィジカルで対抗できないならば、いっそ科学の力を駆使して竜巻に立ち向かうしかない。そこで向かったのは、都内にある「米村でんじろうサイエンスプロダクション」。そう、ここはメディアなどでおなじみの米村でんじろう先生のラボ。ユニークな実験で老若男女から親しまれているでんじろう先生ならば、きっと巨大竜巻と戦うためのアイデアを思いついてくれるはずだ。
『ツイスターズ』の予告映像を見てもらう前に、編集部員Tの映画メディア編集部員としての血が騒ぐ。
「でんじろう先生って、普段映画をご覧になるのでしょうか?」
「映画館になかなか行くことができないのですが、配信ではよく観ていますよ。古い映画も新しい映画も観られるので」
「どんな映画がお好きなのでしょうか?」
「特定のジャンルにこだわることはないのですが、登山系や遭難系が多いですね。古い作品ですが『生きてこそ』だったり、『八甲田山』だったり。あとは『127時間』もとても興味深い作品でした。おもしろそうだと思ったらアニメでもラブコメでもなんでも観るので、最近だと『ONE PIECE FILM RED』も楽しみました」
でんじろう先生の映画ライフの一端を教えてもらったところで本題に入ろう。「この竜巻を倒したいのですが…」と直球で投げかける編集部員Tに、でんじろう先生も思わず苦笑い。
「そもそもこんな巨大な竜巻って発生することがあるんでしょうか?」
「気象の専門家ではないので確実なことは言えませんが、地球の長い年月からすれば、1000年に一度くらいの頻度で起きてもまったくおかしなことではないでしょう。自然法則に反していない限りは起きる可能性があるといえます」
■そもそも、竜巻ってどうしてできるの?
科学的な見地でありながらも、ちゃんと初心者にもわかるような言葉で説明してくれるでんじろう先生。なにせ編集部員Tはからっきしの科学初心者。よくよく考えてみれば、竜巻がどのように発生するのかさえ理解していなかったのである。
「強い日差しで大地や海面が熱せられて、そこから水蒸気を含んだ温かい空気が膨張して上昇を始めます。それが気圧の低い上空で雲になり、上昇力を伴いながらどんどん膨張していく。これが積乱雲や入道雲というもので、遠くから見るとゆっくりしたものに見えますが、そのなかでは凄まじい暴風が吹き荒れた乱気流が起きています。たとえばこの乱気流のなかで氷の粒同士がぶつかって摩擦で電気が発生し、それが地上に飛び火すると雷になる。同じように、積乱雲のなかでできた渦が地上へと降りてくると、それが竜巻と呼ばれるものになるわけです」
「竜巻って渦なんですか?」
「基本的にはそうです」
そして自然界には様々な“渦”が存在しているのだと、でんじろう先生は続けて説明する。
「物が動いたら渦ができます。でも普通は見えていなかったり、あまりにも規模が小さくてほとんど影響がないのです」
そう言って、でんじろう先生はいくつかのパターンの“渦”を実際に見せてくれた。
■いざ、実験開始!空気砲も竜巻の一種?
まず用意されたのは熱湯を張った大きな桶。そのなかへドライアイスを投下すると、瞬く間に白い煙が水面を覆っていく。
「これをドライヤーで吸い上げてあげると、ここに渦ができます。それは気流ができて渦が発生したからで、これが海面だったら地球の自転の影響も受けて台風になっていくのです」
次に出てきたのは、陶芸で使われる“ろくろ”。その上に燃料の入った容器を入れて火を付けると、一気にろくろを回していく。
「竜巻は雲の方から起きますが、火炎竜巻と呼ばれるものは地上の方から発生するものです。燃えているところに回転を与えると、渦巻きができながら上へ上がっていきます。これがものすごい規模で起きたら大災害になる。有名なところでは関東大震災の時に発生しました」
そして今度は足元に置いてあった大きな段ボール。6つある面のうち一つに大きな丸い穴が開けられている。これはでんじろう先生の代名詞の一つである“空気砲”だ!
「この空気砲から出てくる空気の輪っかも、竜巻と同じように渦なんです。基本的に渦には頭と尾っぽになる部分が別々に存在していて、竜巻の場合は片方が地上に、もう片方が雲のところにあります。ですがこの空気砲ではその両方がつながっているので、なかなか消えてくれません。そこで、頭と尾っぽの間を切ってしまいます。すると空気にさらされて、パワーが足りなくなり、乱れて消えていくのです」
「じゃあ切ってしまえば巨大竜巻は消せるということですね!」
「どうやって切るかが肝心ですけどね(笑)。しかも雲から伸びているので、またすぐに次の竜巻が発生してしまう可能性もあります」
■「爆弾でぶっ飛ばしてしまえば、とりあえず竜巻は消えてくれるよね」
相手は強さや速さだけでなく、とにかく大きな竜巻。そう簡単に倒す方法など見つかりっこない。肩を落とす編集部員Tに、でんじろう先生は「もう一つ方法があるとすれば…逆回りの渦で作られた竜巻で打ち消すんです」と告げる。
編集部員Tは「ドラえもん」の名エピソードの一つ「台風のフー子」を思い出した。のび太が育てた台風のフー子が、日本列島に接近する大型台風を止めるために捨て身で太平洋上へ向かっていく。そして大型台風と一緒に消えてしまうという、ちょっぴりせつないストーリーだった。
「でもそんな竜巻を作り出すことも、コントロールすることも難しいでしょう。しかもその竜巻でも別の被害を与えることになりますし、万が一同じ方向の渦だったら合体して強くなってしまうことだってありますからね」
「じゃあ、でんじろう先生だったこの巨大竜巻をどうやって倒しますか?」
核心をついた質問に、でんじろう先生はしばらく考え込み、いたずらっぽく笑みを浮かべた。
「荒っぽいやり方だけど、爆破が一番だよね。積乱雲にエネルギーがあればまた次の竜巻が発生する可能性はあるけど、爆弾でぶっ飛ばしてしまえばとりあえずは消えてくれるよね」
■竜巻の倒し方の答えは『ツイスターズ』のなかに!
結局でんじろう先生のもとでも竜巻の確実な倒し方を見つけ出せなかった編集部員T。すごすごと編集部に戻ってくると、ちょうどワーナーブラザース ジャパンから『ツイスターズ』の試写状が届いていた。もしかして、最初から映画を観ていればよかったのでは…。
急いで試写室へと駆け込んだ編集部員Tを待っていたのは、冒頭シーンから次々と襲来する竜巻モンスターの群れと、最新鋭の技術を駆使した大迫力の映像。座席を震えさせるほどの竜巻の威力におののき、1990年代の良きハリウッド超大作を思わせるような直球のストーリーに心打たれ、圧倒的な臨場感に息を呑む。そして肝心の竜巻の倒し方はといえば、映画の世界にすっかり没入していた編集部員Tの予想を超えた驚くべき方法だった…。
はたして人類は、どのように最強モンスターである巨大竜巻を倒すのか…。竜巻を倒したいと考えている人は映画館でその答えを目撃しよう!
取材・構成・文/久保田 和馬
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