都知事選3位で落選…蓮舫氏を“15年以上取材した記者”が、出馬表明の時点で「勝てない」と直感していた理由

東京・町田駅前で都知事選の街宣。応援演説のマイクを握る奥村政佳議員(左)と司会進行役を務めた伊藤俊輔議員(右)(2024年6月撮影:小川裕夫)

都知事選3位で落選…蓮舫氏を“15年以上取材した記者”が、出馬表明の時点で「勝てない」と直感していた理由

7月9日(火) 8:52

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2024年6月24日に告示、7月7日に投開票された東京都知事選は2期8年の実績を大々的に喧伝した現職の小池百合子候補が当選を果たしました。今回、いち早く都知事選への出馬を表明したのが立憲民主党の蓮舫候補。4期20年の参議院議員という身分を投げ捨て、挑んだ都知事選では現職を相手に猛追したものの力及ばず3位という結果に。

本記事では、参議院1期生の頃から蓮舫候補を追いかけてきた、永田町取材歴15年超のフリーランスカメラマン小川裕夫が蓮舫氏の都知事選とこれまでの足跡・功績を解説します。

現職の小池候補が公務を“優先”したのは…

2024年7月7日に投開票された東京都知事選挙は、史上最多となる56名が立候補したこと、NHK党から国民を守る党がポスター掲示板の枠を実質的に販売したこと、河合悠祐候補が猥褻なポスターを貼って警視庁から警告を受けたことといった、全国から注目を集める選挙になりました。

前回の都知事選、つまり2020年に投開票された都知事選は新型コロナウイルスが感染拡大をしている真っ最中に実施されました。当時、「密集」「密接」「密閉」の3密を回避することが推奨されていたのです。

選挙では、各候補者が街頭で演説をしたり、握手をして回ったり、公民館や体育館などで個人演説会を開いたりして支持の拡大を図ります。これらは3密に該当する行為のため、2020年の都知事選は静かな戦いになってしまったのです。

特に、再選を目指して立候補した小池候補は、ほとんど街頭に立つことはありませんでした。現職という立場から公務を“優先”したのです。都知事が公務を優先することに異を唱える人はいないでしょう。

しかし、現職が選挙活動をしないと、新聞・テレビは都知事選が実施されていることをニュースとして伝えられません。なぜなら、公職選挙法は候補者すべてを公平に扱わなければならないという建前があるからです。

これは、あくまでも建前です。実際、今回の都知事選では50人以上の候補者が熱心に選挙活動をしていますが、ほとんど伝えられていません。とはいえ、さすがに現職に配慮をしないわけにはいきません。そのため、現職が選挙活動をせずに公務に専念してしまうと、新聞・テレビの選挙報道はなくなってしまうのです。

かつて2011年の都知事選でも見られた光景

現職が公務に専念して、ほかの候補者たちの選挙活動が新聞・テレビで伝えられなくなる状態は、俗にステルス選挙と言われます。2020年の都知事選は、まさにステルス選挙の様相を呈していたのです。

都知事選がステルス選挙になったのは、2020年が初めてではありません。過去にもありました。それが2011年に実施された都知事選でした。

2011年は3月に東日本大震災が発災し、その後に福島第一原発事故が起きました。東京都の電力は福島第一原発に依存しています。また、被災者の受け入れや瓦礫処理などにも東京都は取り組まなければなりませんでした。

そうしたことから、石原慎太郎都知事(当時)は都知事選で選挙活動をほとんどせずに震災対応を優先したのです。筆者は2011年の都知事選で各候補者を取材して回りました。当日の朝、どの候補を取材するのかスケジュールを組むために石原候補の選挙事務所に連絡を入れて予定を聞いていましたが、担当者からは「街頭演説の予定なし」という回答が続きました。

石原候補は選挙戦最終日に午前中は立川駅前、午後は有楽町駅前で選挙演説を実施しました。なぜ、最終日だけ街頭演説をしたのでしょうか?その理由を選挙スタッフに話を聞くと、「街頭演説をまったくしないと、熱心な支援者が離れてしまうし、『石原さん、立候補してたの?』という支援者もいる。だから、せめて最終日は街頭演説をする方針にした」とのことでした。

確実に当選を狙おうとする「選挙戦術」だった?

現職の石原氏は選挙活動をしなくても、震災対応という公務に専念すれば、その動向を新聞・テレビが伝えてくれます。そこで名前も伝えられるわけですから、公務の名を借りて実質的に選挙活動ができるのです。

しかし、ちゃんとした選挙活動はしていないので、新聞・テレビがほかの候補者の動向を伝える時間は短くなります。現職はステルス選挙に持ち込むことで、選挙戦を有利に戦えるのです。

小池氏もステルス選挙に持ち込もうとしていたフシがあります。なぜなら、4月に実施された東京15区補選で、小池氏はつばさの党から執拗に追いかけ回されたからです。小池氏は乙武洋匡候補の応援演説のために連日にわたって江東区に足を運びましたが、そのたびにつばさの党が現場に現れました。

今回の都知事選では、事前から小池氏の学歴詐称疑惑などが取り沙汰されていました。また、つばさの党から代表の黒川敦彦候補が獄中から出馬しています。黒川候補は街頭に立つことはできませんが、埼玉県朝霞市の外山麻貴市議会議員が代理者となって選挙活動をしたのです。

そうした事情を踏まえれば、小池氏がステルス選挙に徹して選挙を乗り切ろうと考えることは確実に当選を狙おうとする選挙戦術といえます。実際、小池氏は告示日となる6月20日には少ない支持者だけを集めて出陣式を実施しただけで、街頭に立って第一声を発していません。

15年以上蓮舫候補を取材した筆者が出馬表明に思ったこと

選挙戦初日に実施する街頭演説を第一声と呼び、陣営の気を引き締ることや支援者に意気込みを伝えるといった意味合いもあります。だから、第一声は非常に重要です。

小池候補は選挙の常道でもある第一声を封印しました。それによってステルス選挙へと持ち込み、都知事選を勝てると踏んでいたのかもしれません。しかし、石原氏がステルス選挙で勝った2011年と、2024年では選挙を取り巻く情報環境は大きく変わっています。

2011年はインターネット環境が整備されていたとはいえ、まだ選挙でSNSを駆使するような環境にはなっていなかったのです。

というのも、公職選挙法では文書・図画の頒布が厳しく制限されていたからです。当時はインターネット、特にSNSの更新も文書・図画の頒布にあたると解釈されていました。しかし、現在は選挙戦でSNSを更新することは当たり前になり、街頭演説の予定をお知らせしたり、リアルタイムで映像を流したりといった行為が選挙戦でも大きな力を発揮するようになります。

人気の高い蓮舫候補が街頭演説を実施すれば、それはインターネット空間で拡散されていき、選挙戦をリードできるのです。筆者は、これまで15年以上も蓮舫候補を取材してきました。都知事選へ出馬表明した際には「正気か!?」と疑い、勝てないと直感しました。

「嫌われ役・恨まれ役」になりやすい立場だからこそ…

蓮舫候補は2004年に参議院議員に初当選して以来、常にスポットライトを浴びる存在でした。特に2009年の事業仕分けで話題を集めましたが、20年間という長い参議院議員生活ではほかにもたくさんの実績を残しています。

しかし、それはあくまでも15年以上も取材してきたから熟知しているだけで、世間一般では事業仕分けや行政改革というイメージが固定しています。

事業仕分けや行政改革が、非常に大変な仕事であることは理解しています。これまでの予算を無駄と断じて廃止すれば、それまで予算をつけてもらっていた人たちや部署からは恨みを買います。

誰もが必要な仕事と認識しながらも、他方で嫌われ役・恨まれ役になりやすい。それが行政改革であり、事業仕分けです。それが旗印の蓮舫候補が、無敵の強さを誇る現職の都知事に勝負を挑んでも勝てるはずがありません。

それでも話題性抜群の蓮舫候補が出馬したことで、小池候補はステルス選挙に持ち込めなくなりました。なぜなら、テレビ・新聞、そして最近は特に訴求力を増しているインターネットニュースやYouTubeをはじめとする動画共有サイトなどによって蓮舫候補の動向が拡散され、それによって蓮舫候補の勢いが増せば情勢は大きく変わるからです。

結果は3位でも、蓮舫候補は功績を残した

結果的に、蓮舫候補は当選した小池候補どころか前安芸高田市長の石丸伸二候補にも及びませんでした。敗因は、選挙で協力した共産党のカラーを強く出してしまったために無党派層が離れたとか、政策面の準備が不足していた、インターネットを駆使できなかったなど、いくつか指摘されています。

敗因分析は今後に譲りますが、いずれにしても蓮舫候補が都知事選出馬を決めたことで、小池候補は街頭に出て支持を呼びかけざるを得なくなりました。小池候補が街頭に立ったことで、有権者は生の声を聞くことができました。それは、一票を投じる判断材料を増やしたことにもつながりました。蓮舫候補は「テレビで政策討論会を実施できなかった」ことを残念がっていましたが、少なからずステルス選挙に持ち込ませなかったことは蓮舫候補の功績といえます。

小池氏が街頭に出て2期8年間を総括する、まず手始めに街頭演説の場として選んだのが八丈島です。八丈島のような離島なら、つばさの党が追っかけてくる可能性は極めて低く、そうした思惑から八丈島を選んだという憶測も流れました。

しかし、小池候補は2016年の都知事選でも八丈島を訪れています。八丈島では地熱発電が取り組まれており、環境大臣経験者でもある小池候補にとって八丈島訪問は絶好のアピールの場になりました。また、選挙戦で離島を訪問することで「離島を見離さない」という政治的なメッセージを込めることもできます。

今回の八丈島訪問では、後者の離島を見離さないという意味が強く、それは翌日の奥多摩・青梅での街頭演説にも活かされています。八丈島から始まった小池候補の街頭演説は奥多摩、青梅、そして足立区北千住といった具合に少しずつ人の多い場所へと移っていきます。そこでは、つばさの党が街宣車で乗り付けるといった事態も起きました。

「辞めろ」コールを行う人たちの正体は…

小池候補の街頭演説に乗り込んだのは、つばさの党だけではありません。選挙戦の中盤からは「辞めろ」コールをする人たちも現れるようになりました。「辞めろ」コールをしていた人たちの主張は「公約を達成していない」といった小池都政8年の実績を疑問視する声が多く見られましたが、そのほかにも「自民党の支援を受けている」ことを問う声も見られました。

自民党は今回の都知事選でどの候補にも肩入れせず、自主投票という立場を明らかにしています。それは表向きの姿勢で、自民党は選挙の手伝いから業界団体の取りまとめを担当しています。

それが小池候補の得票につながっていることから、小池候補は自民党のステルス支援を受けていると批判されていたのです。

それら「辞めろ」コールをした人たちを取り上げたネットニュースを読むと、対立候補を支持する人たちによる妨害といったニュアンスで書かれている記事もあります。また、小池候補の選挙を手伝っている都民ファーストの会の議員のXなどにも似たようなポストがありました。

筆者も「辞めろ」コールの現場に居合わせ、「辞めろ」コールをしていた人たちからも話を聞きました。彼ら・彼女らは、必ずしも対立候補を支持していた人たちではありませんでした。

なぜなら、「辞めろ」コールをしていた人の中には、とある宗教団体の幹部や蓮舫候補の街頭演説でも「辞めろ」コールをしていた人がいたからです。

また、YouTuberなどもいて、特に特定の政治思想があるというわけではなく、PVが稼げるといった目的で「辞めろ」コールの輪に加わっていた人もいたようです。つまり、小池候補を批判する目的が一致しただけの、偶発的な集まりだった可能性も高いのです。

広がっていった「一人街宣」の取り組み

こうした小池候補の街頭演説で「辞めろ」コールをする人たちが出現する一方で、今回の都知事選では投票率を上げようと呼びかける一人街宣という新しい動きが見られました。

一人街宣は、駅前や人通りの多い場所にプラカードなどを持って立つ政治行動です。投票に行くことを呼びかける一人街宣は、必ずしも声を出すわけではなく、黙ってプラカードを掲げて立つだけの人もいます。その行動形式は人それぞれで、特にやり方が定められているわけではありません。

もともと一人街宣は杉並区の岸本聡子区長が始めた取り組みで、その目的は投票率を上げることでした。岸本区長が都知事選において蓮舫支持を打ち出したことで、一人街宣は蓮舫支持者のアイコンになって一気に広がっていきました。一人でプラカードを持って駅前や街に立つ一人街宣は、気恥ずかしなることも臆してしまうこともあるでしょう。とても勇気がいる行動です。

私たちは政治に無関心で生きることはできても無関係で生きることはできません。であるならば、投票という政治参加を呼びかける一人街宣は決して恥ずべき行動ではありません。

蓮舫候補は当選できませんでしたが、市民間で広がった一人街宣という現象が広まったことを踏まえると、決して蓮舫候補が都知事選に挑戦したことは無駄ではありませんでした。

前回に比べて、小池候補にとってハードな都知事選になりましたが、なんとか相手を振り切りました。一方、敗れた蓮舫候補は想定外の3位という結果になり、政治の舞台から降りることになります。

蓮舫候補は街頭演説で「将来を諦めない都政」を訴えて、若者支援を打ち出していました。蓮舫候補は56歳。小池候補が都知事選に初挑戦した2016年は63歳でした。再チャレンジを待ちましょう。

<取材・文・撮影/小川裕夫>

【小川裕夫】
フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。首相官邸で実施される首相会見にはフリーランスで唯一のカメラマンとしても参加し、官邸への出入りは10年超。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)などがあるTwitter:@ogawahiro

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