【#佐藤優のシン世界地図探索64】プーチン大統領の逆襲

プーチン大統領「これからふたりで世界を運転していこうぜ!」金正恩第三代最高指導者「分かりましたぜ…

【#佐藤優のシン世界地図探索64】プーチン大統領の逆襲

6月28日(金) 7:00

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プーチン大統領「これからふたりで世界を運転していこうぜ!」金正恩第三代最高指導者「分かりましたぜオジキ!」(写真:朝鮮中央通信=共同)

プーチン大統領「これからふたりで世界を運転していこうぜ!」金正恩第三代最高指導者「分かりましたぜオジキ!」(写真:朝鮮中央通信=共同)

ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

***

――6月18日、プーチン露大統領が北朝鮮を国賓として訪問し、翌日、金正恩総書記と首脳会談を行ないました。しかし、それよりも驚いたのは、プーチン大統領が朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に寄稿した内容です。ロシア大統領府HPに掲載され、佐藤さんが翻訳されていました。

『ロシアと朝鮮民主主義人民共和国の友好善隣関係は、平等、相互尊重、信頼の原則に基づき、70年以上の歴史があり、輝かしい歴史的伝統に富んでいる。



両国民は、日本軍国主義に対する困難な共闘の記憶を大切にし、戦死した英雄を称える。1945年8月、ソ連軍兵士は朝鮮の愛国者たちと肩を並べて戦い、関東軍を打ち破り、朝鮮半島を植民地支配から解放し、朝鮮民族が自主的に発展する道を開いた。 1946年、赤軍による朝鮮解放を記念して平壌の中心部に建てられた牡丹峰の丘の記念碑は、両国民の兄弟愛の象徴である』

特にここに、戦の歴史マニアとしてはぶっ飛びました。

『1945年8月、ソ連軍兵士は朝鮮の愛国者たちと肩を並べて戦い、関東軍を打ち破り、朝鮮半島を植民地支配から解放し、朝鮮民族が自主的に発展する道を開いた』

ソ連軍が北朝鮮軍とともにいまの北の基礎を築いたというのはマジですか?

佐藤 史実です。ここで特に重要なのは、金日成政権の後期から、北朝鮮がソ連軍の力を全て隠すようになったことです。だから、北のメディアでこういった史実に即した内容が出るのは異例です。北朝鮮の政権は、国の在り方として金日成、金正日たちの神話の上で成り立っていました。しかし、それを変えて史実に即していこうというのが非常に重要なのです。これまでは全て、自力解放といっていたわけですよね?

――そうなっていました。

佐藤 中国東北部で北朝鮮が抗日パルチザンをやって、「自力で大日本帝国主義を追い出した」となっていたのを、「ソ連軍と一緒にやっていたんだ」という話にしたのです。だから、金日成爺さんはソ連軍に籍があったし、金正日父さんは白頭山で生まれたのではなく、ソ連で生まれたということに近づいてくるわけですよ。これは大きな話ですよ。

――自国の神話を否定して、生誕地も変える。

佐藤 そのベクトルです。金正恩政権は「神話に無理矢理合せろ」と言わずに現実的になっているんです。

――これ、日本は歓迎すべきなんですか?



佐藤 そうでもないですね。ロシアはいままで日本軍国主義に対する戦争が日朝関係の基礎を作ったという歴史観に関して、ソ連崩壊後は対日配慮があったので述べたことはありません。今回の共同声明からうかがえるのは、ロシアにとって日本が非友好国から敵対国に近づいているということです。

――これ、一部の方々は分かっているかもしれませんけど、大半の方々は気が付かない大転換ということなんですね。

佐藤 その通りです。しかし、これだけでは終わりません。

――まだ、隠された歴史的な事実があるんですか?

佐藤 いや、これからのことです。

――未来の話ですか......。

佐藤 ロシアは、ドルに頼らない決済システムを目指しています。具体的にはペトロダラー(原油取引に使われるドル)を崩壊させることです。これには、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦が加わります。すると、ペトロダラーがダブつきます。そこで米国の世界経済の基軸通貨とされるドルをぶっ壊してやるという、かなり大胆な野望です。

――ペトロダラーがなくなると、ペトロルーブルになるんですか?

佐藤 それはあり得ません。私は「金本位制」に戻ると思いますね。世界情勢が不安定で、政治力のある国が軍事力を背景に貨幣というシステムを維持できなくなります。そうしたら、モノで担保せざるを得ません。

すると、世界の金のほとんどは米国連銀の地下倉庫にあるため、おそらく米国は全部、ガメてしまうのではないでしょうか。

――1960~70年代の娯楽映画では、よくフォートノックス(アメリカ陸軍施設)の金が強奪されていました。それが米国国家自体によって行なわれる?そんな娯楽映画の脚本では企画が通らないですよ。

佐藤 米国を守るためにはそうせざるを得ません。だから、これまでの常識で考えたらあり得ないことが起きるかもしれません。

――プーチンが北朝鮮に行くだけで始まる革命ですか?

佐藤 いまのところは"逆襲"ですね。この2年間、西側連合にやられ続けたロシアが逆襲に出た。そして、その逆襲はもうひとつあります。

――二本立ての逆襲!!



佐藤 それは新しい安全保障体制を作ることです。二国間でお互いに軍事も含めて、その都度、協力しましょうという体制です。そして、そのネットワークをいくつでも作ります。なので、インドとロシア、ロシアとパキスタンが仲良くしてもいいということです。しかし、インドとパキスタンが喧嘩した時は、ロシアは中立の立場をとります。同盟条約ではありませんからね。

だから、いわば19世紀から20世紀初頭に見られた「協商」という関係です。「協力してビジネスをしていきます」という穏やかな協力関係にあるものの戦争への自動介入がなくて、その都度判断するということです。

――それって、NATOを全て骨抜きにするというロシアの逆襲でありますね。

佐藤 そうです。そして、このロシアの逆襲にグローバルサウスは喜んでいます。スイスでのウクライナ平和サミットに関して、日本の新聞は「成功」と報じていますが、G7以外のサウジやインドは署名していません。だから、客観的に見れば失敗です。

――すると、日本は完璧にロシアの敵国になるんですか?

佐藤 このままだと、そうなります。その流れを抑えるために、ロシアと実務レベルできちんとした対話をしないとなりません。

例えば、ビザなしでの北方領土墓参です。それから最近、羅臼(らうす)沖に白いシャチが2匹見つかりましたが、これを日露で共同研究するのもいいでしょう。または、モスクワで日本アニメ祭を開催するのも手です。政治と関係ないところからバンバン交流して、とにかく対話窓口を閉ざさないことが重要です。

――ともにソ連軍兵士と肩を並べて、大日本帝国と戦った北朝鮮とはどうすれば?

佐藤 北朝鮮とは無条件で対話を早く進めることです。コミニュケーションできずに日本に対する悪いイメージだけが北朝鮮に積み重なった結果、武力紛争に至ることだけは避けなくてはなりません。

立場が違って争いになるのは仕方ないことです。しかし、誤解による争いは避けないとなりません。だから、信頼醸成装置が必要なわけです。

――それも早くやらないと。逆襲と陰謀が始まっていますから。

佐藤 日本外交に重要なのは、東アジアの平和です。全世界の平和といっても、ヨーロッパと中東で戦争が起きていて、日本はそれを止めることはできません。自分の手が届かないところは関与すべきではないんです。ただし、東アジアの平和は、日本の主体的な努力で実現可能です。

――どうやるんですか?「●●廃絶!!」「××反対!!」では何も変わらないのでは。

佐藤 そのためには、外交における人権・民主主義・市場経済の価値の比重を落とすことです。その3つで突っ張っていくと戦争になります。

――その通りです。

佐藤 戦争が起きたウクライナを見ると、まず人権に関しては18~60才の男子は出国禁止。民主主義に関しては大統領選挙が行なわれていません。そしてメディアは、テレビ局が1局になっています。経済でも市場メカニズムが機能せず、汚職が蔓延して、賄賂も当たり前の世界になっています。

全ては戦争が起きたからです。戦争が起こるとどんな国でも、人権、民主主義、市場経済が抑えられます。そう考えた場合、いかに平和が重要かということです。だから、いまの日本の人権、民主主義、市場経済のレベルを維持するためには、平和が絶対に必要なんです。すると、ミャンマーでロヒンギャ迫害が行なわれているから、ミャンマーに対して徹底的に制裁をかける必要は関係ありません。

――北朝鮮との拉致問題も関係なくなるのですか?



佐藤 それは違います。北朝鮮の拉致問題は日本の国益と直接関係があります。なぜなら、日本国民の人権と日本国家の主権が直接、侵害されている事例だからです。日本は直接的な当事者だから、この問題は放置できません。一方で、ロヒンギャやウイングルの問題では直接の当事者ではありません。

つまり、「最重要価値を東アジアの平和にする」と言えばいいわけです。平和が第一義的に守られ、その条件下で基本的な人権を尊重するのです。

――東アジアがヤバいことになりそうならば、敏感になる。

佐藤 だから、まずは自分のことを考えた方がいいんです。分かりやすくいえば、人のケツを拭くことではなく、自分のケツだけ拭いたらいいということです。「汚いケツをこっちに回さないでください。ウチは自分のケツを拭くので精一杯です」とね。自分のケツは皆、自分で拭こうというだけです。

――分かりやすいですね。

佐藤 これが外交の基本です。隣の家で葬式をやっているのに、香典を持って行かないとしたら変な人だと思われますよね。変な人だと思われたら自分に不利益になるから、香典を持っていきます。

それから、夏祭りの奉加帳が回ってきた時にお金を出したくなくても、「千円だけ出しとくか」となるのはご近所さんの手前ですよね。

――ただ、地球の裏側から「祭りがあるから金出しな」と言われても、「ちょっと遠くていけません」となる。

佐藤 そう。だから、物理的な距離がすごく関係してくるんです。

――ご近所付き合いを考えて人のケツを拭かない。そう単純に考えていれば、もう解決ですね。

佐藤 だから今回は、企業舎弟のような会社のようなものがあると考えてみます。

――それ、北朝鮮ですね。

佐藤 そうです。その会社が最近、大きな広域団体の組長と会談を行ないました。

――東組のロシアでございますね。

佐藤 そこに「米組のパシリの日本がカチコミに来るかもしれない」といういい加減な情報が入りました。

――ヤバいじゃないですか!

佐藤 日本の様子はよく分からず、「とりあえず備えておこうぜ」という状況だったのが、「これはどうも完全にカチコミがあるらしいぜ」となってしまいました。そしたら「先にやっちまえ」となります。

なので、こういう事態が起こらないように、普段から状況を周知しておくことが大切です。「お隣さんはカチコミするつもりは全然ない」と分かってもらうんです。そのための外交です。

――普段からお近所付き合いをちゃんとやって、自分で自分のケツを拭き、汚いケツは外に向けないようにする。

佐藤 ただし、お互いの立場があって喧嘩せざるを得ない場合は仕方ありません。その時は負けないように最善を尽くすのみです。いずれにせよ、誤解から戦争が起きるのを避けないといけません。お互いに口を聞かない、交流を避けるとか、そんな状態が続けば、誤解から戦争になってしまう可能性が排除されなくなります。

次回へ続く。次回の配信は2024年7月5日(金)予定です。

取材・文/小峯隆生

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