6月19日(水) 19:00
英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演が、6月22日(土) に開幕する。彼らの5年ぶりの来日は、22年もの長きにわたり音楽監督を務め、今シーズンで退任するアントニオ・パッパーノによる最後のツアー、最後の公演になるという。初日の幕が開く4日前に実施された開幕記者会見にはパッパーノ自身も登場、出演者たちとともに、上演するヴェルディ作曲『リゴレット』、プッチーニ作曲『トゥーランドット』について、またロイヤル・オペラの魅力について語った。
『リゴレット』、『トゥーランドット』は最高のコンビネーションこの日の会見には、英国ロイヤル・オペラハウス(ROH)のオペラ・ディレクターで、『リゴレット』の演出を手がけたオリヴァー・ミアーズ、2作品を指揮するアントニオ・パッパーノ、『リゴレット』マントヴァ公爵役のハヴィエル・カマレナ、ジルダ役のネイディーン・シエラ、『トゥーランドット』リュー役のマサバネ・セシリア・ラングワナシャ、カラフ役のブライアン・ジェイドら6人が登壇。豪華な顔ぶれに、会場はぐんと華やかな雰囲気に。
まずは主催の公益財団法人日本舞台芸術振興会、髙橋典夫専務理事が挨拶。本公演の概要とともに、『トゥーランドット』のキャスト変更が伝えられた。トゥーランドット姫役で出演予定だったソンドラ・ラドヴァノフスキーが副鼻腔炎、および重度の中耳炎を発症、来日できなくなり、代わりにマイダ・フンデリングが同役を歌うという。
オリヴァー・ミアーズ(photo Ayano Tomozawa)その後マイクを渡されたのは、会見の直前に空港から到着したばかりというミアーズ。この日の東京は朝から本降りの雨、日本公演が実現できたことへの感謝の思いを述べるとともに、「英国のお天気まで一緒に持ってきてしまった」とジョークを飛ばした。「私の演出で2021年に世界初演した『リゴレット』を携えて来ることができ、とても嬉しく思います。火花が散るような素晴らしい舞台、ハイレベルのスコアをひとつにした、最高のオペラだと思います。『トゥーランドット』のほうは、ROHの最も古い演目のひとつ。セット、衣裳、振付と、長く愛されるだけのものを備えています。22年にわたり音楽監督を務めたパッパーノ氏の、これが本当に最後の公演ですから、甘酸っぱい思いも。多くの皆さんに楽しんでいただけたら何よりです」。
アントニオ・パッパーノ(photo Ayano Tomozawa)続いてはパッパーノ。「『リゴレット』は完璧なオペラ。原作はビクトル・ユーゴーですが、シェイクスピアを彷彿とさせ、新しさ、新鮮さ、すべてを持ち合わせた最高のオペラです。『トゥーランドット』はまた全く違い、オラトリオのようでもあり、儀式的な舞踊をともなう、特別なオペラです。最初は、メロドラマでもないし物語性もいまひとつだし、『ラ・ボエーム』のようなロマンティックな場面もないし、と思っていたけれど、大きな間違いでした。これは、他のオペラとは全く違うゆえに、特別なもの。プッチーニは新しいオペラの形を提示してくれたのです。ヴェルディとプッチーニは、最上のコンビネーションです」とアピールした。
豪華キャストが語る、役柄との縁、演じることへの思い続いて歌手陣のコメント。『リゴレット』のマントヴァ公爵役、ハヴィエル・カマレナは今回が初来日だそう。
ハヴィエル・カマレナ(photo Ayano Tomozawa)「私の声の高さでできる悪役は少ないので、楽しんで演じたいと思っています。ミアーズさんのこの人物に対する解釈は、私も同じように考えていて、やりがいを感じる。この役をロマンティックに描きたがる方もいますが、彼のその解釈、またマエストロ・パッパーノの『リゴレット』に対する考え方にも賛同する。それだけに、このアイコニックなオペラの公爵役を歌うことは光栄なこと。過去の偉大なテノールたちが皆、歌ってきた役柄です。声のみならず、役作りにおいても、自分独自のアプローチを見ていただきたいと思います」
マエストロ・パッパーノと最初に共演した作品が『リゴレット』だった、と話すのはジルダ役を歌うネイディーン・シエラ。
ネイディーン・シエラ(photo Ayano Tomozawa)「私がプロの道でやっていくうえで大きな意味を持つ役となりました。この役は、私に希望や喜び、勇気を与えてくれた。これからも歌い続けたい役です。この作品に対する深い知識を持つマエストロのガイダンスのもとで演じることは、大きな喜びです」
マサバネ・セシリア・ラングワナシャは、プロとして正式に歌った初めての役が、まさに『トゥーランドット』のリューだったという。
マサバネ・セシリア・ラングワナシャ(photo Ayano Tomozawa)「この役を学んだのはROHのジェット・パーカー・ヤング・アーティスト・プログラムでのこと。この時、マエストロ・パッパーノに私の歌を聴いてもらい、『君はこの役を全て、きちんと学ぶべきだ』と言われたのです。リュウには3つの特別な、美しいアリアがあります。皆さんの印象に残る素敵な役ですし、オペラそのものも実に壮大。舞台に立つ私たちでさえ、本当? マジ!? と感じるほど!最高のステージを、ぜひ楽しんでいただきたいと思います」
『トゥーランドット』カラフ役のブライアン・ジェイドは、前のリハーサルの終了直後に飛行機に飛び乗り、少しでも早く到着して全部のリハーサルに参加しようと、文字通り飛ぶようにして日本にやってきたという。
ブライアン・ジェイド(photo Ayano Tomozawa)「カラフ役は、テノールにとって素晴らしい、偉大な役のひとつ。自分が勝利を収めることに疑いがなく、夢を叶える自信を持っている。それだけに全く息を抜く間がない役です。一緒に歌うのは素晴らしいキャストばかりですから、ともに舞台に立つのが楽しみです」
劇場の街のオペラハウスで得た、22年の経験続く質疑応答で、ROHでの22年間を振り返っての感想を尋ねられたパッパーノ。「何年間、ではなく、作品一つひとつに意味を見出している。私はどちらかというと貪欲なので、いろんなものをやりたかった。ワーグナー、プロコフィエフ、ベルク、モーツァルト、ヴェルディ、プッチーニ、ジョルダーノ、シマノフスキ、ベルリオーズにロッシーニ──。作品一つひとつを積み上げていく中で、私自身、その音楽的解釈や考え方をしっかりと固め、オペラハウスのみならず、劇場というものに対する考え方を確固としたものにすることができました。素晴らしい演出家や歌手との協力関係、ここで働いた時間、量より、質の高い経験を得ることができたと思っています」。
英国ロイヤル・オペラ開幕記者会見より、フォトセッションにて(photo Ayano Tomozawa)ミアーズも、ROHの魅力について問われると、ロンドンという劇場の街にあるオペラハウスであること、また300年の歴史をその特徴として挙げた。またROH出演回数の最も多い方にも同じ質問を、という要望に応じたのはジェイド。「数えてみたら、ROHへの出演は6演目。帰ってくるたびにスタッフが気を遣い、私たちの仕事がしやすいよう環境を整えてくれます。私たちは自分たちの芸術に集中でき、全力を投入できる。それが ROHの素晴らしさです」。
両作品に登場する役柄、その捉え方について尋ねられたソプラノのふたり。「ジルダが唯一受けていたのは、キリスト教の教育。彼女は他者の罪を背負い、その身を捧げて死にますが、その行動は強い確信、強い信仰に基づいているのです」と熱っぽく語ったシエラ。一方のラングワナシャは、「愛する者を守るために死を選ぶことは、リューにとっては自然なことだった」と、チャーミングな笑顔を見せた。
パッパーノとの最後のツアー。きっと、演劇の街ロンドンのオペラハウスならではの魅力を、存分に堪能させてくれることだろう。
取材・文:加藤智子
<公演情報>
英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
●ジュゼッぺ・ヴェルディ
『リゴレット』全3幕
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
2024年6月22日(土) 15:00 神奈川県民ホール
2024年6月25日(火) 13:00 神奈川県民ホール
2024年6月28日(金) 18:30 NHKホール
2024年6月30日(日) 15:00 NHKホール
[主な出演者]
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ
●ジャコモ・プッチーニ
『トゥーランドット』全3幕
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
2024年6月23日(日) 15:00 東京文化会館
2024年6月26日(水) 18:30 東京文化会館
2024年6月29日(土) 15:00 東京文化会館
2024年7月2日(火) 15:00 東京文化会館
[主な出演者]
トゥーランドット姫:マイダ・フンデリング
カラフ:ブライアン・ジェイド
リュー:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/roh/