いま人気の3人組バンドMrs. GREEN APPLEが炎上しています。6月12日に公開された新曲「コロンブス」のMVに人種差別的な表現が物議を醸しているのです。
映像には、コロンブス、ナポレオン、ベートーヴェンに扮したメンバーが、猿の着ぐるみ姿のキャラクターにピアノを教えたり、人力車を引かせるシーンが収められていました。これに公開当初から、「誰か止める人はいなかったのか」とか「海外から抗議されるまえに取り下げた方がいい」との批判コメントが殺到しました。
MVは公開停止、謝罪文を発表
これを受けて、所属レコード会社のユニバーサルミュージック合同会社は6月13日に声明をリリース。
配慮に欠ける表現であったことを認め、MVの公開を停止することを発表しました。
その後、バンドのソングライター、大森元貴も「差別的な表現に見えてしまう恐れがあるという懸念を当初から感じておりましたが、類人猿を人に見立てたなどの意図は全く無く、ただただ年代の異なる生命がホームパーティーをするというイメージをしておりました」と釈明。「
あくまでもフィクションとしての映像作品」を企図したものではあったけれども、「配慮不足」だったことを認めました。
それでも、騒動が収束する気配はありません。
音楽性は他と一線を画すが…
昨年のレコード大賞、そして紅白の初出場を経て、大ブレイクを果たした矢先に大きなケチがついた格好ですが、だからといってこれでMrs. GREEN APPLE、
とりわけ大森元貴のソングライティングまでをも全否定してしまうのはもったいないことです。
中高生の鉄板夏ソングとなった「青と夏」のキャッチーなメロディ、壮大なオーケストレーションに負けず歌い上げる「僕のこと」。そして、3人体制になってからガラッとイメチェンしたダンサブルな「ダンスホール」などなど。色々なバンドやシンガーソングライターが活躍するいまの音楽シーンにあって、彼らの音楽性の幅広さは他と一線を画しています。
また、大森の作曲は、言葉の中にあるリズムを引き出す能力に長けていて、それが土台となって曲を動かしている安心感がある。
やみくもに言葉をはめ込んでいるだけではないことを感じさせてくれる、レアなソングライターなのですね。
この大森元貴のような才能の出現は、間違いなくJ-POPの積み上げてきた成果のひとつです。多くのコードと複雑な歌メロをいとも簡単に組み合わせて、耳に残る曲を作る。若手でありながら、大森には職人的な気質さえ感じます。
奥田民生のアルバムレビューで“忘れがたい一文”
しかしながら、問題はそこに中身を詰め込む作業です。考えるべきメッセージはあるのか、繰り返しの再読に耐え得る鍛えられた言葉なのか、そして彼らのファンより上の年齢層にも訴えかける普遍性はあるのか。
これらは、小手先の技術や知識、論理をアップデートしたところで得られる資質ではありません。それは音楽の外にあるもの、常識の話だからです。ものを知っている知らない以前に、当たり前のものとしてわきまえている感覚。聴く人が聴けば、音楽から伝わってくるものなのですね。
奥田民生の『股旅』(1998)というアルバムについて、
音楽評論家の北中正和氏が“お年寄りがいたら自然に席をゆずる。そういう当たり前の感覚がある音楽”と評していましたが、それは秀でた技が突出して認識できる状態とは真逆にあると言えるでしょう。
手先と頭脳が肥大化する一方で空洞化する魂
その視点から、改めて「コロンブス」騒動を考えると、音楽、表現、学習以前の問題が浮かび上がってきます。大森がどれだけ言葉を並べて釈明しようと、
思いついた最初の段階から“これはNGだ”と気付けなかった常識の欠如を覆い隠せはしないからです。
常識=中身のない状態でどれだけ言葉を費やしても、そこに意味は生まれません。<決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでした>、<こちらの意図する物語の展開としては、歴史的時間軸は存在せず、類人猿も人の祖先として描きたかった。>
これらの大森の言葉は、意味がわからないのではなく、そもそも意味がないのです。その状態で着想しているから、悪意も善意もない、冷え切ったジオラマのような映像が出来上がったということなのでしょう。
手先と頭脳が肥大化する一方で、空洞化する魂。Mrs. GREEN APPLEの「コロンブス」は、象徴的な一曲なのだと思います。
<TEXT/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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