「無能な男どもに下に見られる」。朝ドラから日曜劇場までずっと続く、女性裁判官たちの“地獄”

「無能な男どもに下に見られる」。朝ドラから日曜劇場までずっと続く、女性裁判官たちの“地獄”

6月2日(日) 8:44

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NHKの連続テレビ小説『虎に翼』(月~金曜あさ8時~ほか)が異例の人気だ。主演の伊藤沙莉が演じるのは、日本初の女性弁護士の一人でのちに初の女性判事となった三淵嘉子をモデルにした女性・寅子。本作では女性を取り巻く“地獄”が次々と描かれ、それが令和に通じることも話題となっている。

一方で現代の法曹界を描いているのが、弁護士の明墨正樹(長谷川博己)が司法の闇を暴いていくリーガルドラマ『アンチヒーロー』(TBS系、日曜よる9時~)。 5月26日に放送された7話は、『虎に翼』を思い起こさせる展開が一際目を引く内容だった。

「自分よりも無能な男どもに下に見られる屈辱」



まず7話では、糸井一家殺人事件の冤罪に苦しむ死刑囚・志水裕策(緒形直人)に死刑判決を下した裁判官・瀬古成美(神野三鈴)をターゲットに据える明墨が、彼女に対して揺さぶりを繰り返す。最高裁判所判事を目指して汚職に汚職を重ねてきた瀬古だったが、明墨にそのことを暴かれて金も地位も一気に失う。裁判所内でうなだれる瀬古は明墨に声をかけられ「私がこれまで積み上げてきたものを簡単にぶち壊して」と口にするが、「積み上げてきたのは実績ではなく汚職にまみれた札束でしょう」と返す明墨。

ただ、瀬古は「私には力が必要だった、誰にも有無を言わせないだけの圧倒的な力が」「男のあなたにはわからない、女というだけでどこまでいっても実力では見てもらえない悔しさも、自分よりも無能な男どもに下に見られる屈辱も」と声を荒げる。瀬古は止まらずに「議員や閣僚、裁判官の世界だってこの国では圧倒的に女性が少ない。私が上に立って成果を上げるしかない」「私には使命がある。この国を変えるためにも、私は必要なことをやったまで」とエキサイト。

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明墨は「確かにおっしゃるとおりかもしれません。今もこの国では多くの女性の誇りが踏みにじられ、屈辱を味わっています」と一定の理解を示すが、“男達”の要請を受けて瀬古が有罪に陥れようとした女性記者・沢原麻希(珠城りょう)の話題を持ち出し、「彼女は1人のジャーナリストとして正しいことをしようとした。だが、彼女のことを邪魔に思った男達によって、無実にもかかわらず犯罪者にされてしまった」「その気持ちを誰よりもわかってあげられるはずのあなたが助けるどころか、その男達と同じように彼女を陥れようとした」と続ける。そして、「あなたの誇りを踏みにじった男達と今のあなた、一体どっちがマシなんでしょうね」と問いかけた。

女性が法を学ぶことも、法曹界で働くこともいばらの道



瀬古の行いは到底許されるものではない。しかし、まさに法曹界で働き続けることの難しさを嫌というほど描いている『虎に翼』を見ていると、瀬古についつい同情してしまう自分もいた。『虎に翼』の第1週「女賢しくて牛売り損なう?」では、弁護士を志す寅子(伊藤沙莉)は大学進学を決意するが周囲の強い反対を受ける。第2週「女三人寄ればかしましい?」、第3週「女は三界に家なし?」では無事に大学進学を果たしたものの、男子学生から冷やかされ、勉強に集中することさえ難しい日々を過ごした。

第7週「女の心は猫の目?」では、弁護士として働き始めるものの依頼者からは女性ということを理由に断られ続け、依頼獲得のためには社会的信用が必要と考え、寅子はお見合いすることを決める。第8週「女冥利に尽きる?」では、書生の優三(仲野太賀)と結婚して子供を授かるが、妊娠中にハードワークをこなしていたために突然倒れてしまう。このことをキッカケに周囲に妊娠していることを知られ、弁護士の仕事を自重するように“優しく”説得を受け、寅子は弁護士として働くことを“降参”した。

奪われた「久保田先輩」の魅力



法曹界で生きる女性の苦悩が描かれているのは寅子だけではない。寅子の学友・よね(土居志央梨)は高等試験(今でいう司法試験)の口述試験で見た目や言動が“女らしくない”という理由で落とされている。また、寅子の大学の先輩・久保田(小林涼子)も弁護士として奮闘していたが、ある日寅子に鳥取県にある夫の実家で暮らすことを告げ、弁護士の仕事も「辞めると思う」と話す。

その際、「婦人弁護士なんて物珍しいだけで、誰も望んでなかったんだ」「結婚しなければ半人前、結婚すれば弁護士の仕事も家の事も満点を求められる。絶対満点なんてとれないのに」と口にしており、女性が法曹界で働き続けることのハードルの高さを感じた。

なにより、以前はハキハキした喋り方が特徴だったが、このシーンでは“女らしい”話し方に変わっていた久保田。弁護士になって周囲から矯正させられた様子だ。話し方はその人間のアイデンティティであり、性別による決めつけによってそれらが損なわれることには「はて」と思わずにはいられない。加えて、個人的にも久保田の喋り方は好きだったため、その魅力が奪われたことに切なさを覚えた。

『虎に翼』は約100年前の話ではあるが、こういった寅子たちの苦労は多少なりともマシになったとは思われる。しかし、ドラマの中とはいえ汚職に手を染めなければ男性と対等に渡り合うことさえむままならなかった瀬古の姿を見ていると、現実でも法曹界の男女平等は改善に向かっているとは言い難いのではないかと痛感させられた。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki

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