観客に手拍子を求めるのは最低!?TAJIRIが語る"プロレス界の真実"

『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと (徳間文庫)』TAJIRI徳間書店

観客に手拍子を求めるのは最低!?TAJIRIが語る"プロレス界の真実"

5月21日(火) 18:00

今回ご紹介するのは、プロレスラーとして30年以上のキャリアをもつTAJIRI氏の著作『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと』(徳間文庫)。同じ仕事を30年続けるのは並大抵のことではない。それも肉体的にハードなプロレス業界......さぞかし苦労が多かったのではないだろうか。

同書では、TAJIRI氏のプロレス人生におけるさまざまなエピソードが紹介されている。新日本プロレスでの体験はかなり厳しいもので、読みながら状況を想像すると背筋が寒くなった。また、試合を観戦しているだけではわからない選手同士の関係性は興味深い。

「ライガーさんは怒り心頭でコーナーへ戻ると、ダメージを負ったオレを捕獲したサムライ選手にタッチを求めた。そして、二人がタッチする瞬間、オレははっきりと聞いた。
「こいつ潰すぞ!」
「え、本当にやるの!?」
二人の声を耳にして、とんでもないことになってしまったと思った。殺るとか殺られないとか、そんなことはどうでもよかった。そうではなく、新日本というメジャー団体からこんな弱小インディーにやってきた超大物がお怒りになられてしまったのである......オレのせいで!」(同書より)

これは、TAJIRI氏とライガー氏が初対戦した際のエピソードである。この試合は、ライガー氏がTAJIRI氏の顔面をボールのように蹴飛ばしたり、親指を眼窩に突っ込んできたりと衝撃的なシーンも多く、当時の『週刊プロレス』に記述されるほどだったという。

しかし、ライガー氏は怒っていたわけではなかった。TAJIRI氏に対して「もっとガンガン来れるようにならないと!」と感じていたからこその試合展開だったのだ。先輩からの指導と捉えればいいのか。プロレスラーらしい指導なのかもしれないが、あまりの激しさに読んでいて全身に力が入ってしまった。

またTAJIRI氏は海外での活動経験も多く、WWE(かつてのWWF)に所属していた経験もある。日本とは違う海外の事情は実に興味深い。例えば、WWEの収入形態についてだ。まず契約形態は選手ごとに異なり、全選手共通の基本ギャラというものが存在しないという。

TAJIRI氏はこうしたWWEの形態について、次のように述べている。

「日本の企業だったら、『あいつの副業だけ認められてるのはおかしい!』『キャリアは同じなのに、なんであいつのほうが俺よりもらってるんスか!?』など、誰かが必ず言い出すものだが、WWEにまで到達できる選手はマインドが完全にプロなので、そういうことを言う者は一人もいない」(同書より)

"プロである"ということに対して、TAJIRI氏は非常にこだわっているように感じる。同書では、TAJIRI氏が考える"プロ意識"について語られることが多いのだ。プロレスラーとしての"プロ意識"のほか、職業に関わらず参考になる考え方も多い。

「技に限らず、プロレスはとにかく、『美しく』あらねばならない」(同書より)

TAJIRI氏の信念でもある考え方であり、それが練習やキャラ作り、後輩への指導にも反映されている。この"美しさ"は画一的なものではなく、選手のタイプによって変わってくる。プロレスラーはそれぞれキャラ作りをしているため、それぞれの選手に合った"美しさ"を追求すべきだ、という考えだ。

プロレス観戦に来るお客さんが見たいのは、日常生活からかけ離れた存在。だからこそ、ただ技が巧いだけではなく、お客さんが「お金を払ってでも見たい」と感じるだけの魅力をもつ必要があるのだ。

また、TAJIRI氏は「技の前に観客に手拍子を求めるのは最低だ」と述べている。これは小さな会場でしか通用しないプロレスであり、お金を稼げないプロレスだとも。

プロレスに限った話ではないだろう。規模が小さければ得られる利益も少ない。大きな利益を得たければ、広い会場や大規模な市場で勝負する必要がある。そのために必要なのは、お客さんに「お金を払う価値がある」と感じてもらえるだけのパフォーマンス(商品)だ。

同時に、プロレスは常にケガと隣り合わせ。どれだけ体を鍛え経験を重ねても、大きなケガが原因で体に麻痺が残ってしまう選手もいる。TAJIRI氏は今後のプロレス業界が取り組むべきこととして、「怪我をしないプロレス」「危険なことをしないプロレス」を挙げている。

本来のプロレスでは、危険な技を毎試合使用する選手はいなかった。そんなことをしなくても「理にかなっている試合を構築すれば、危険なことをする必要がない」のだという。TAJIRI氏が恐れているのは、危険な技が日常化することで、見ているファンが危険なものだと感じなくなることだ。これもまた、プロレス業界だけの話ではない。

「プロレス自体が世界と連動しているジャンル」と表現しているが、全くもってその通りだと思う。プロレスはただの娯楽ではなく、社会や文化の一端を担うものだ。プロレスを通して見る世界は、新たな視点や新鮮な気づきを与えてくれるだろう。



『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと (徳間文庫)』
著者:TAJIRI
出版社:徳間書店
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