「バラエティ番組はくだらない」は至極真っ当な主張。小泉今日子が“国民の相棒”であり続ける理由

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「バラエティ番組はくだらない」は至極真っ当な主張。小泉今日子が“国民の相棒”であり続ける理由

5月14日(火) 15:53

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ある種、特例的な反響だった阿部サダヲ主演ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)第8話に本人役でチョロっと顔を出す。みんなが口々にいう、うわぁ「キョンキョン!」だと。

チョロっとなのにガツンとくる。 そんなことができてしまうのは小泉今日子くらいしかいないよな。 ほんと。ドラマの外でも「くだらないから」という一撃で話題になってしまう。その存在自体が、今の時代を生きるための勇気の代名詞(アイドル)ではないのか。

イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、 “国民の相棒”小泉今日子を読み解く。

「背筋がはりつめるカッコよさ」が

この間、シドニー・ルメット監督がアガサ・クリスティの原作を映画化した 『オリエント急行殺人事件』 (1974年)をテレビで見ていたら、思わず、背筋がピンとなる瞬間があった。

殺人事件が起こった列車内、名探偵ポアロ(アルバート・フィニー)が乗客を事情聴取していると、相手のイタリア人がパッと横を向く。隣車両から殺気を帯びた眼差しの女性がガラス戸越しに見つめていたのだ。手にはナイフ。血がついている。ポアロたちがいる車両に入ってくる気配はない。ちょっと慌てたポアロの方から出ていく。同作中、唯一ポアロを出向かせたのが、この女性だ。演じているのは、ローレン・バコール。恐ろしいたたずまいだもの。ハリウッド映画の黄金期を代表するバコールを前にしたら役柄を超えて誰だってそうなるか。

ローレン・バコールの魅力とは単に、「ザ・ルック」と呼ばれた上目遣いの眼差しが象徴するクールビューティーなカッコよさだけにあるのではなく、あらゆる要素が発酵して醸すカッコよさだ。バコール以外にそんな存在はいないよなと高をくくりつつ、ちょっと乱暴かもしれないけど、現在の小泉今日子を重ねてみたくなる。 小泉の場合、バコールよりもっと踏み込んで背筋がはりつめる気がするのだ。

至極真っ当な「くだらない」発言

背筋がピンからの「敬礼!」、続いてだんだん背筋がザワァみたいな号令的存在感で、完全に白旗をあげたくなるカッコよさがある。そう強く感じる小泉の発言が話題を集めたのは今年初めのこと。

『文藝春秋』(2024年2月号)に掲載された有働由美子との対談である。 バラエティ番組に出演しない理由を聞かれた小泉が「くだらないから」とばっさり言い切ったのだ。 「ワーオ!」と発する有働の驚きが文字からでも伝わる。でもこの発言だけがひとり歩きするかたちになってしまった。ある著名な落語家にいたってはとんでもなくトンチンカンなポストをX上に投稿(嗚呼、ため息)。

小泉がバラエティ番組を「くだらない」と一刀両断するからにはちゃんと文脈がある。近田春夫とパーソナリティを務めるラジオ番組『TOKYO M.A.A.D SPIN』(J-WAVE、1月27日放送)で、同発言に言及。例えばクイズ番組などで優勝した芸能人が景品で高級な牛肉とかもらうけど、お金があるんだからいらんだろうと。 それを嬉々として放送するバラエティ番組が「くだらない」んだと。

そう、この発言自体、至極真っ当な指摘なのである。嬉々としてないで、むしろテレビ業界の現状況を危機としてくれよと普通に思ってしまう。すごく単純な道理だ。

「くだらない」発言を快く裏書きするパンチライン

アラサー世代のぼくも含め、5thシングル「まっ赤な女の子」で頭角を現し、1985年の「なんてったってアイドル」が大ヒットした当時をリアルタイムで知らない世代の目には、もしかするとアイドルのイメージより“政治的”発言を辞さない芸能人として映るかもしれない。

なんでだか芸能人がソーシャルでポリティカルな発言をするとすぐに後ろ指を差される。ぼくなんかはむしろ公人にどんどん政治的発言を求めたいけれど、いやはやどういう原理なんだろう。『TOKYO M.A.A.D SPIN』では続けて、音楽プロデューサー松尾潔の快著『おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来』が紹介されたが、その松尾さんの出版記念イベント(和田静香との鼎談形式、3月15日)に出演したときの発言もすこぶる気持ちよかった。ちょっと長いが、引用しておく。

「怒りとか怒ることとか、思ってることを言うとか、声をあげるっていうことに対して、すごく否定的に捉えられちゃうことが多くて、でも、こんなおかしな世の中になってて、怒らない方がおかしいと私は普通に思うんだけど、怒ってると、なんか、あぁ売れなくなったから左に寄りやがったみたいなこと書かれたりして、まっすぐ立ってますけどみたいな」

もうほんとに最高。さわやかで風通しがよく、それでいて強烈で痛快なチャーミング。「くだらない」発言を快く裏書きするパンチラインだ。

『最後から二番目の恋』での愛すべき相棒関係

再び、ローレン・バコールに話を戻すと、フランスの映画監督フランソワ・トリュフォーはバコールをこう評している。曰く、「ローレン・バコールは、ボガートの情婦でもなければ、妻でもなく、ガール・フレンドでもない。彼女は彼の相棒なのだ」(「ハンフリー・ボガートの肖像」)と。

バコールは19歳で出演したデビュー作 『脱出』 (1944年)で初共演した名優ハンフリー・ボガートと1945年に結婚した。ハリウッドきってのおしどり夫婦として未だに語り草のふたりを「相棒」と言い切るトリュフォーの着眼には恐れ入る。そしてこれまた小泉今日子にも適用されるのだ。

小泉の相手とは、中井貴一である。 2012年に放送された 『最後から二番目の恋』 (フジテレビ系)での愛すべき相棒関係は、テレビドラマ史に深く記憶されているベストオブベストコンビ。すでに放送終了から10年以上経っているのに、年々物語世界の鮮やかな深みを増している気がする。

印象深い「小競り合い」シーン

小泉が演じるのは、テレビドラマのプロデューサー吉野千明。オフィス内の喫煙所にこもって何本も煙草を吹かして脚本の初稿を読むのが基本スタイル。実際、小泉にとっての煙草とは一種、図像学的なアトリビュート(持ち物)なのだが、 この千明に「カッコいいです!」なんて素直にいったものなら、灰皿がとんできそうな勢いだ。 部下たちも気を遣うのなんの。

『脱出』のバコールもまた煙草を持った痛烈な人。初登場場面からすごい。無愛想に部屋に入ってくるなり、ボガートにマッチを要求する。ボガートがヒョイと投げたマッチ箱をキャッチする一瞬のやり取りだけでふたりの深い関係が描かれる。ハワード・ホークス監督の慧眼的演出だ。

『最後から二番目の恋』の小泉の場合は、独り身の45歳プロデューサーが、そろそろ孤独が身にしみて鎌倉の古民家に引っ越すのが発端。お隣さんが、姉弟と娘と賑やかに暮らす長倉家の長男で、市役所職員の長倉和平(中井貴一)、50歳。5歳差のふたりが顔を合わせばすぐさま小競り合い。帰宅時間がだいたい一緒で、和平が改札でもたつく千明をヒョイと先に追い越すのが通例。負けじと追いついた千明が和平を追い抜く。

並んでるんだか、並んでないんだか、でも遠目には仲良しな背中のふたりがまた帰路で小競り合いを演じる。 小泉の「ヘヘッ」と中井の「ヘッ」という笑い声が呼応するのも見事な相棒関係の通奏低音。

“国民の相棒”の平衡感覚を頼りに

第5話、長倉家の朝の食卓で千明が言う。「お兄さんの言ってることってすっごく真っ当だし、必要な言葉だと私は思いますけどね」。現実の小泉の発言がこうして過去の作品で演じたキャラクターの台詞によって裏書きされる。名言めかすことなく、自然に真っ当に。

さりげない日常が積まれる長倉家の食卓は、明日を生きるための金言に満ちている。 今、このドラマを見返すと、「くだらない」発言が持つ言葉の響きにだけ敏感になることなく、その響きが射抜く意味そのものに傾聴することが必要だとわかる。 右か左かの安直な判断はやめて、かつて生身のアイドル像「キョンキョン」を体現した現在の小泉今日子に理想的な平衡感覚を見出すことはできるはず。

右だとか左だとかどっちかわからなくなってにっちもさっちもいかなくなり、いやでも実はどちらでもよかったりするんだけどなとモヤモヤしたときは、迷わずに「くだらない」と吐き捨てる。そんな単純な勇気とそれからちょっと緩いくらいの怒りボタン。 小泉今日子的平衡感覚を頼りに、今日も生きていくのが「真っ当」な生き方なのだと、我らが“国民の相棒”がいつでも教えてくれる。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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