対照的なヤマダとケーズ。“斜陽産業”家電量販店で分かれた明暗――大反響・総合トップ10

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対照的なヤマダとケーズ。“斜陽産業”家電量販店で分かれた明暗――大反響・総合トップ10

5月11日(土) 15:45

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日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、惜しくもトップ10を逃した記事を順位不同で紹介!(集計期間は2023年1月~2024年3月。初公開2023年8月24日記事は取材時の状況、ご注意ください)
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中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

家電製品は、2009年から2011年にかけて実施された家電エコポイントで特需が発生。特に液晶テレビが飛ぶように売れました。このとき市場規模は7兆円に達したと言われていますが、それ以降は需要が急減して4兆円台まで縮小しました。 斜陽産業となりつつある家電量販店業界で、対照的な戦略をとっているのがヤマダホールディングスとケーズホールディングスです。

住宅や家具の販売に乗り出してコングロマリット化するヤマダ、家電販売に専門特化するケーズ。 2社の戦略の違いは業績にどのような違いを生んでいるのでしょうか?

現在の売上高は「全盛期の7割程度」

ヤマダホールディングスは家電特需が発生した2011年3月期に、売上高が2兆1532億円まで膨らみましたが、2023年3月期の売上高は1兆6005億円でした。2011年10月に住宅メーカーのエス・バイ・エル、2019年12月に大塚家具、2020年10月に建設会社のヒノキヤグループなどを買収してきましたが、 売上高は全盛期の7割程度まで縮小しています。

ヤマダ電機はもともと松下電器産業(現在のパナソニック)の販売店として1973年に創業。当時は訪問販売が主流でした。しかし、この方式だと仕事が属人的になってしまい、組織としての規模拡大が図れないことに危機感を覚えます。

そこで、訪問販売を止めて各拠点にあった在庫を本社に集約。他店よりも安く販売しました。これが消費者からの支持を得ます。 ヤマダは大量に商品を並べて安く販売する、家電量販店を一般に広めた会社の一つです。

価格競争から抜け出して一度失敗した過去も

郊外店を得意としていたヤマダ電機の脅威となったのがコジマ。 「安値日本一への挑戦」を掲げたコジマは、価格競争力を高めました。このとき、ヤマダ電機は価格競争への本格参入を回避しようとします。アフターサービスの向上で顧客満足度を高めようとしたのです。

しかしこれが失敗し、ヤマダは恒常的な営業赤字を出すようになりました。 ヤマダ電機は徹底したコスト管理で、再び価格競争力を高めます。自社の物流センターを業界でいち早く構え、配送コストや検品作業などの効率化を図ったことで知られています。こうした取り組みが奏功して、業界をリードする存在となりました。

家電需要が旺盛なうちは、価格競争を行っても利益を出すことができます。しかし、現在のように需要が一服すると、値引き合戦は組織の疲弊を招きます。 ヤマダが住宅や家具販売などコングロマリット化を推し進めた背景には、不毛な価格競争に対する危機感がありました。 販売する商品の幅を広げて提案力を高め、顧客からの支持を得ようとしているのです。

顧客満足度を高めるために「従業員にやさしく」

ケーズホールディングスも、ヤマダとほぼ同じタイミングで家電量販店を展開しました。 ヤマダ、ケーズ、コジマは“北関東YKK”という括りで呼ばれることがあります。 これは北関東に本社を置く3社が、苛烈な価格競争を繰り広げていたためです。

ケーズは「がんばらない経営」という方針を掲げているのが最大の特徴。これは無理をすれば必ずその反動があり、経営に何らかの歪みが生じるというものです。 顧客第一主義を貫くためには、社員、取引先、顧客の順番で考えるのが重要としているのもユニークな点です。

この視点は出店戦略にも生かされています。ケーズはコンスタントに毎期20店舗程度出店していますが、これは従業員が店長に昇進することをモチベーションにしてほしいとの想いが込められています。

新規出店を重ねることは、必ずしも増益が保証されるわけではありません。会社が出店リスクを背負ってでも、従業員に対して働きやすい環境を整えることが、結果として顧客満足度の向上に繋がると考えているのです。

“かつてのスタイル”で堅調に推移

ケーズの売上高は堅調に推移しています。2023年3月期は、家電特需が生じた2011年3月期と売上高はほぼ同じ水準でした。

家電専門店に特化した店舗展開を行っており、新規出店によるシェア拡大を狙っている会社です。現金値引きに固執するなど、 かつての家電量販店のスタイルを守っています。

家電部門の営業利益率が「最も低い」

2社の違いは営業利益率の違いによく表れています。ヤマダは2019年3月期から2023年3月期まで、 一度も営業利益率でケーズを上回ることができていません。

2023年3月期はケーズが1.3ポイント上回っています。ヤマダの事業別営業利益率を見てみましょう。家電部門の利益率は2.4%で、 他の部門の中で最も低くなっています。

利益率の低さは、決して他の部門が邪魔をしているわけではないのです。

総合店の新規出店や業態転換を行うも…

ヤマダは2023年3月期に家具や家電、生活雑貨などを販売する複合店「LIFE SELECT」を新規で4店舗出店し、8店舗の業態転換を行いました。それにもかかわらず、 この期の家電部門の売上高は前期比2.1%減の1兆3108億円となりました。まさかの減収に見舞われたのです。

ヤマダの家電部門の販管費率は26.6%。ケーズは24.1%でした。営業利益率に差が生じている主要因の一つが、ヤマダの家電部門の売上高が伸びきらないことによる販管費負担増。

ヤマダはもともと、会社全体の売上高を前期比1.7%増の1兆6470億円と予想していましていましたが、計画より2.8%下振れて着地しています。 「LIFE SELECT」の集客効果が、想定以上に出ていない様子が伝わってきます。

現段階だとケーズが有利か?

ケーズが郊外型を貫くのに対して、ヤマダは池袋駅の目の前に大型店を出店するなど、多様な出店形態を維持しています。ヤマダの地代家賃負担は高いようにも見えますが、両社ともに売上高に対する家賃比率は4%台で大きく変わりません。違いが出ているのが人件費。 ヤマダは11.1%、ケーズは9.0%でした。ヤマダは2.1ポイントも上回っています。

コングロマリット化を進めたヤマダは、 複合型の大型店を出店しています。各部門の専門人材が必要なため、配置する人員は増えるでしょう。 仮に集客に苦戦しているのであれば、人件費の負担が重くなって利益を圧迫します。

価格競争から脱するヤマダの戦略は、取りそろえる商品の幅を広げた上で顧客への提案力をつけ、付加価値の高いサービスを提供するものだったはず。それが上手く行っているようには見えません。

“がんばらない”ケーズは、淡々とヤマダの背中を追いかけています。現段階においては、専門特化したわかりやすい戦略をとるケーズに分があるように見えます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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