2021年のドラフト会議を終えた段階で、筆者は西武の指名について「ドラフト1位クラスの逸材を4人指名できた」と評した。1位は4球団が重複指名した隅田知一郎(西日本工業大)の当たりくじをゲット。2位は佐藤隼輔(筑波大)、3位は古賀悠斗(中央大)といずれも大学生の実力者を指名した。
2年あまりが経ったいま、彼らはいずれもチームの中心選手として活躍。若手中心に選出された侍ジャパンの代表ユニホームにも袖を通している。
だが、最大の大物は同年のドラフト4位で指名されたこの男かもしれない。羽田慎之介(八王子)。身長191センチの大型左腕である。
「和製ランディ・ジョンソン」の異名をとる西武・羽田慎之介©埼玉西武ライオンズ
【チームメイトも認めるポテンシャル】今春のキャンプ中、隅田と佐藤に4歳年下の羽田について聞いてみたことがある。彼らはそれぞれこんな感想を漏らした。
「簡単にひと言で言えば『18歳の外国人助っ人』みたいな感じです。実際には成人しましたけど、アメリカのトップ級の選手が若い段階で日本に来ているみたいな。体の大きさ、足の長さが違うし、数字じゃ測れないボールを投げます。あと、何を考えているのかわからないところも、外国人選手っぽいです」(隅田)
「すごいポテンシャルだと思います。いや、すごいというか恐ろしいですね。一緒にキャッチボールをしていても、それは感じます。まだ粗さはありますけど、それをまとめられれば。手足が長い選手はコントロールするのが難しいとは思うんですけど、そこを操れれば恐ろしいですね」(佐藤)
チーム内では平良海馬、今井達也、源田壮亮といった主力選手が、「ネクスト・ブレイク」候補としてこぞって羽田の名前を挙げている。
羽田慎之介とは、いったいどんな投手なのか。
筆者は羽田の高校時代の投球を3回見に行ったが、実際に登板を見られたのは1回だけ。それも1イニング、わずか15球だった。だが、その15球を思い出しただけで、今でも武者震いが起きる。
長身ながらランディ・ジョンソン(元マリナーズほか)のように横角度から左腕が出てくるスリークォーター。しなやかな腕の振りから放たれたボールは、ミサイルのようにきりもみ状で捕手のミットに突き刺さる。衝撃的なボールだった。
何度も見に行っても空振りに終わった理由、そしてこれほどの大器がドラフト4位まで残っていた理由は、高校時代に故障が多かったからだ。
プロ3年目を迎えた羽田はいま、ファームでじっくりと育成されている。大器は何を考え、何に取り組んでいるのか。羽田のつかみどころのないキャラクター性も手伝い、インタビューは予想外の展開を見せた。
【伸びしろはまだまだある】
──羽田投手には高校時代に何度かお話を聞いたことがあるのですが、プロ入り後の奇想天外な言動に驚きました。「キャラ変」したわけではないですよね?
羽田
流れに身を任せている感じなので......。けっこうマインドは変わるタイプなので、そのへんはわりとあるんじゃないでしょうか。
──高校時代は真面目に技術論を語ってくれて、クレバーな印象が強かったです。
羽田
そうでした?たぶん今もそうですけど、若い時ってそういうところがあるじゃないですか。いろんな思想とか哲学とか取り込んで、わかってもないのに好き勝手に振り回すようなところが。
──羽田投手は自分自身の可能性について、どう自己評価しているのですか?
羽田
自分のなかでも、伸びしろはまだまだあると思っています。
──ここまでは順調ですか?
羽田
前進したり、下がったり......という感じで。順調ではないです。
──今、テーマとして取り組んでいることは?
羽田
変化球の球質と精度を上げることと、真っすぐのコントロールですね。
──変化球はスライダーとフォーク?
羽田
そうです。
──ストレートは157キロが最速ですか?
羽田
いやぁ、そんな出ないです(笑)。
──出ないですか(笑)。
羽田
この前(3月10日)、巨人戦で156キロが出て、MAXを更新したので。
──あまり変わらない気もしますが(笑)。高校時代から体も変わっていくなかで、感覚的な変化はありますか?
羽田
かなり安定感は出てきていますし、土台はつくれている感じはあります。しっかりと使える筋肉が増えたという感じです。
──前までは小手先だった?
羽田
そうですね。今は「この筋肉を使う」というより、「使える状態にする」というイメージですね。意識して筋肉を使うのではなく、無意識でも働いている状態にするというか。
──高校時代はヒジをしなやかに使っているイメージでしたが、今は少し違いますよね?
羽田
そうですね。腕を固めるというか。僕の場合は柔らかすぎてもダメで。固いところがないと、柔らかく使えないので。
──柔らかすぎると、ふにゃふにゃで制御できない感じでしょうか?
羽田
あ、そんな感じです。
──昨季に左肩痛を発症したと聞きましたが、どんな症状だったのでしょうか。
羽田
ただ痛くて......。
──医師からの診断は?
羽田
ないです。ただ痛くて。
──痛みがとれたから、秋にまた投げ始めたということですか?
羽田
そうです。
──高校時代からケガとの戦いでしたが、自分の体との付き合い方は変わってきましたか?
羽田
(ケガをしたのは)ただの自分のケア不足なんで。忍耐力がないですし、同じ方向を向くのが難しいタイプで。いろんなところに注意が向いちゃうので、そういうところがケガに表れたのかなという気がします。
──その時、その時にマイブームがあるというか?
羽田
そういうことになってしまっています。
──なってしまっている(笑)。
羽田
向く方向がずっと同じ人もいれば、いろんな方向を向いてしまう人もいて。自分は向いてしまう。ん〜、野球に向いてないのかもしれないですけど(笑)、そこは気をつけています。
──高校時代には「実家通いだと甘さが見えたために寮に入った」という経緯がありました。基本的にはマイペースな性格なんでしょうか?
羽田
うーん、どうなんでしょう。そこは菊地さん(筆者)が決めていただければ(笑)。
──今は体重が97キロまで増えたそうですが、肩・ヒジを含めてスピードに耐えられる体はできつつありますか?
羽田
まだできていないところもありますけど、だんだんとできてきました。
【髙橋光成や平良海馬から学んだこと】
──ところで、西武にはハイレベルな先輩投手がいますし、出会いにも恵まれていると想像します。
羽田
みんないい人ですし、やさしくしてもらえて、いつもありがたいです。
──髙橋光成投手や平良海馬投手と自主トレを一緒にするなかで、学んだことはありますか?
羽田
髙橋さんも平良さんも真面目だし、純粋。真っすぐという感じがしました。
──肉体的な面で学んだところは?
羽田
強いです。強いし、速い。平良さんなんか速いですね。
──速いというのは、足の速さですか?
羽田
足というか、筋ですね。筋の速さという要素も大事かなと。
──一流選手は芯があるというか、考え方にも自分の核がありますよね。
羽田
あぁ〜、自分はそんな持ってないです(笑)。
──ふらふらしちゃうところがある?
羽田
はい(笑)。
──ポジティブにとらえれば、好奇心が旺盛とも言えますよね?
羽田
そうですね!
──今後、自分の核を見つけられそうですか?
羽田
核というか、いかに真面目にやるか、みたいなところだと思うんですよ。
──人に対して真面目というより、自分自身に対して真面目にやっていくというイメージでしょうか。
羽田
そうですね。でも、人に対しても真面目にやっていきたいです。結局、自分を通しての人なので。人のなかにも自分に対する評価があると思うので。そういうところも真面目に、というか......。
──なんだか、思考がグルグル回っている感じがしますね......。
羽田
そうなんですかねぇ。
──人からの評価は気にしますか?
羽田
うーん、気にしますね。「嫌い」とか言われたら傷つきますし。
──それはそうですね(笑)。多くの人が「ネクスト・ブレイク」として羽田投手の名前を挙げていますが、どう受け止めていますか?
羽田
うれしいです。自分も頑張らないといけないなと。
──どうしてもファンやメディアは結果を求めて焦らせてしまう部分もあると思うのですが、本人の心境はどうですか?
羽田
早く一軍に行きたいです。まず一軍で投げたいですね。
──ファームでも一軍クラスの打者と対戦することもありますが、何か感じたことはありますか?
羽田
自分がやりたいことをしっかりとやれば、抑えられるなと感じました。
【いつも自分に満足していたい】
──自分の完成形が100だとしたら、今はどれくらいまで来ていると思いますか?
羽田
どうですかねぇ。完成形もどんどん伸びていくので。まあ、まだまだかなと。
──半分もいってない?
羽田
そうですね。なんならゼロとか。
──おぉ〜!
羽田
ゼロでもあり、100でもある。
──混乱しました(笑)。まぁ、自分の理想と思っているものも日々、更新されているわけですものね。
羽田
そうです。
──今後、「こんな人間になっていきたい」という思いはありますか?
羽田
いつも自分に満足していたいなぁと思います。
──自分のことを好きでいたいということですか?
羽田
そうですね。
──今はそんなでもない?
羽田
まだまだかなと。満足はしていないです。
──何が足りないですか?
羽田
もっと人に感謝したりとか、いろんな人を愛したりだとか、じゃないですか。
──自分のことだけでなく、周りとの関係性のなかで自分を磨いていくというか。
羽田
そうですね。
──最後に、高校時代の羽田投手は「和製ランディ・ジョンソン」と評されることに、「誰かの『2世』と言われること自体に抵抗がある」と言っていました。今はどうですか?
羽田
いや、全然呼んでもらって大丈夫です。でも、正直言って似てないと思うんですよ。身長も10センチ以上違うし。170センチ台の人と僕が「似てる」と言われるのと同じで。
──ランディ・ジョンソンがMLBに初めて定着したのは26歳のシーズン(1989年に7勝9敗をマーク)でした。焦らずにやってください。
羽田
えっ、そうなんですか?わかりました。ありがとうございます。
羽田慎之介(はだ・しんのすけ)
/2003年12月25日、埼玉県生まれ。八王子高から2021年ドラフト4位で西武に入団。1年目は二軍で5試合、23年も左肩痛の影響で8試合だけの登板に終わったが、10月のフェニックスリーグで復調をアピール。最速156キロのストレートが魅力の身長191センチの大型左腕で、「和製ランディ・ジョンソン」の異名を持つ。
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