トニー・レオン主演『無名』の舞台にも…スパイ合戦が繰り広げられた“魔都”上海

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トニー・レオン主演『無名』の舞台にも…スパイ合戦が繰り広げられた“魔都”上海

5月4日(土) 20:30

1940年代、第2次世界大戦下の激動の時代を舞台にしたスパイの暗躍を、トニー・レオン、ワン・イーボーという中華圏の新旧スターの共演で描く『無名』(公開中)。物語が繰り広げられる上海といえば、歴史的背景から多様な文化が入り乱れる“魔都”と呼ばれる都市。当時の上海でも様々な勢力がしのぎを削っており、背景を知らないと飲み込みづらい部分も多いので、ここで簡単に説明していきたい。
【写真を見る】数々のスパイ映画の舞台となった魅惑の“魔都”上海(『無名』)

■裏切り者は誰…?陰謀が絡み合うスパイ合戦を描く『無名』

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上海を舞台に約8年間にわたるスパイたちの活動が、過去と現在を行き来するトリッキーな時系列で描かれる本作。中華民国・汪兆銘政権の政治保衛部に勤めるフー(トニー・レオン)は、汪兆銘に感銘を受け、中国共産党の秘密工作員から中国国民党に転向したいという男ジャン(ホアン・レイ)の身辺調査を行い、引き換えに共産党幹部の情報を聞きだすことに成功する。

日本、中国共産党、中国国民党の複雑な関係が描かれる『無名』

そんなフーは上海に駐在する日本軍スパイのトップ、渡部(森博之)や上司のタン(ダー・ポン)と日本料理店で戦局について話したりと、部下のイエ(ワン・イーボー)やワン(エリック・ワン)と共に日中戦争の最中、諜報活動に従事していた。しかし、一向に状況はよくならず、1945年5月には陸軍に従事していた貴族院の大山公爵の死など戦況は激しさを増すばかり。そしてフーたち政治保衛部のなかに共産党のスパイがいることが判明し…。

■関係をややこしくする中国国民党の2大派閥

中国国民党、共産党、日本軍の思惑が絡み合う本作だが、複雑な物語を理解するために知っておきたいのがその関係性だ。もともと辛亥革命によって中華民国臨時政府を興すと、清の滅亡と引き換えにトップの座を清の実力者、袁世凱に譲った孫文だが、独裁化していく袁世凱に痺れを切らし、1919年に中国国民党を設立。袁世凱の北京政府をはじめとする軍閥割拠の中国の統一を目指していく。

それから遅れること2年、1921年に中国共産党が樹立すると北京政府や軍閥に対抗するため一時は共産党と協力関係をとる国民党だったが、共産党に対するスタンスは1925年の孫文の死以降分かれ、蒋介石を中心とする反共派と汪兆銘中心の容共派へと分裂。1927年に蒋介石ら右派が起こした上海クーデターを発端に国共内戦へと突入してしまう。

日本軍との蜜月の関係も描かれる(『無名』)

その後も戦いの激化によって汪兆銘が反共へ転じたかと思えば、日中戦争が始まり、日本に対する方針を巡って対立したりと、つかず離れずを繰り返してきた両派。汪兆銘は1940年に、日本支配下の南京に日本の傀儡政権、中華民国国民政府を樹立するなど、国民党内に2つの政府が勃興し、それに伴う対外関係が中国の状況をより複雑にしていた。

■スパイが暗躍した戦時下の血塗られた上海

美女スパイなど、各勢力が入り乱れてのスパイ合戦が繰り広げられる(『無名』)

背後にいる欧米諸国など、様々な立場の組織が入り組んでいた1930〜40年代の中国。その縮図といえるのが上海だ。清朝時代に結ばれた不平等条約により、治外法権が認められた租借地“租界”が設けられており、当時20か国以上が治外法権を持つ共同租界とフランス租界が存在。アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本など各国が1つの都市にひしめき合っていた。

クーデターや上海事変などなにかと衝突も絶えない上海。日本軍による占領以降も各国のスパイ機関をはじめ、抗日を掲げる蒋介石お抱えのCC団と藍衣社、それらに対抗するため日本軍によって設立された汪兆銘政権の政府機関ジェスフィールド76号など、各組織が姿を潜めながら活動を行う場所だった。

スパイ同士の殺し合いも珍しくなく、二重スパイや美女スパイの暗躍、勝ち馬に乗るための裏切りなど『無名』さながらの出来事が繰り広げられる、華やかな表の顔の裏では陰謀がうごめくまさに魔都だった。

■まだまだある!上海を舞台にした作品たち

『無名』のチェン・アル監督による『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』も上海が舞台の1作

ある種、魅惑的ともいえる側面を持つ上海は、幾度となく映画の題材として取り上げられてきた。『無名』のチェン・アル監督が手掛けた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(16)もまた、1930年代の上海で激動の時代に翻弄された人々の姿を描いた1作。裏社会を舞台に、マフィアやスパイ、軍人らの思惑のぶつかり合いが描かれていく。

浅野忠信も上海社会に溶け込む日本人役で出演した(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』)

また、トニー・レオンが主演を務めたアン・リー監督作『ラスト、コーション』(07)も同時代の上海が舞台。汪兆銘政権下で抗日組織を弾圧する特務機関の男性と彼を暗殺するために近づいた女性工作員、立場の異なる2人の間に芽生える愛の行方が描かれる。女性スパイは実在した鄭蘋茹(テン・ピンルー)をモデルにするなど、当時の雰囲気を感じ取れる1作だ。

太平洋戦争直前の上海を舞台に、日本軍の情報をねらうスパイの活躍を描く(『サタデー・フィクション』)

名匠ロウ・イエがメガホンをとった『サタデー・フィクション』(19)もまた、太平洋戦争勃発直前の上海租界を舞台にした1作。コン・リー、オダギリジョー、パスカル・グレゴリー、トム・ブラシアといった各国のキャストで、日本軍から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためフランス諜報員が仕掛けた策略が繰り広げられていく。

1941年の上海を舞台にした、その名もズバリ『シャンハイ』

このほか、渡辺謙、菊地凛子が出演した『シャンハイ』(10)など、この頃の上海をモチーフとした作品は多数あるので、『無名』への理解を深めるという意味でもあわせてチェックしてみてはいかがだろうか?

文/サンクレイオ翼


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