『ジャンプ+』で連載中の『バンオウ-盤王-』の主人公・月山元。今回は、原作担当の綿引(わたひき)智也先生、作画担当の春夏冬画楽(あきない・がらく)先生との鼎談を行なった
『ジャンプ+』にて2022年に連載がスタートした異色の将棋漫画『バンオウ-盤王-』。現在大白熱の竜王戦最終局面に到達した本作について、原作担当の綿引(わたひき)智也先生、作画担当の春夏冬画楽(あきない・がらく)先生、そして
「超ホンマでっか!? TVマンガ大賞2023!」で
『バンオウ-盤王-』を激推ししてくれた麒麟・川島明さんをお招きしてお話しをうかがった。
*【前編】麒麟・川島が300年将棋に打ち込み努力してきた吸血鬼が主人公の漫画『バンオウ-盤王-』を推すワケ原作・綿引智也&作画・春夏冬画楽×麒麟・川島明鼎談(『週プレNEWS』ロング版)からの続きです
*本記事のダイジェスト版は『ジャンプ+』にて配信中
***
★連載の苦労と変化するキャラクター
月山と同じ吸血鬼で、相棒の鈴木。深刻な展開であっても、それを打破するキャラクターを持つ
川島
毎週って、でも大変でしょ。だって。
綿引
そうですね、毎週。今は結構厳しい感じはありますね。最近までは先行してたんですよ、ネームが。
川島
はいはいはい。なるほど。ちょっと余裕があったという。
綿引
最初は春夏冬さんに作画していただいている話の4話分ぐらいの余裕があったんです。だから精神的にも余裕があったんですけど、どんどんそのストックが無くなっていって...。
川島
無くなんねや。
綿引
今その、精神的にちょっと追い詰められてる感じなんですよね...。
川島
やばいタイミングで対談してますやん、今。結構ギリやったんですね。コメント欄とかは見るんですか?
精神的に追い込まれながらもお越しいただいたのが、写真手前の原作担当・綿引(わたひき)智也先生
綿引
見ます。めちゃくちゃ見ると思います私は。作家さんの中だと私くらいじゃないですか。ここまで見てるやつって。Xとかでも、めちゃくちゃエゴサーチして。
川島
バンオウサーチや。
――でも、『バンオウ-盤王-』のコメントはあったかいですよね。月山を心配する声が今すごい全国から届いていて。
川島
そうですよね、病弱なんで大丈夫?と思っちゃいますけど。そういった反応によって、ストーリーを変えるってことはあるんですか?
日中、気温が高い日に対局が白熱するとこうなる。吸血鬼は大変だ
綿引
うーん、ないと思いますね。大抵は思った通りの反応なんですけど。たまに「あ、ここでウケてくれるんだ?」みたいなことはありますね。
川島
「このキャラ意外にカッコいい」ってなるもん、鈴木とか。
綿引
鈴木や七島を出した時は、ちょっと不安だったんです。それまで「いい人しか出てこない漫画」みたいな反応が多かったので。そんな中で、鈴木や七島みたいなキャラには批判が来るかな...と思っていたんですが、意外とそんなことはなくてホッとしました。
この作品は、読んでいて悲しかったりネガティブな気分にさせたくないな...というコンセプトで始めたので、人間の善いところを前面に描いていたんですね。
でも、七島登場のあたりで、ちょっとそこから別方向。人間の美しくない部分とかも描くようになった。それも読者の方には受け入れていただけたので、すごく嬉しかったですね。
JC4巻から登場の七島。いかにも性格悪そう...
川島
鈴木のキャラは、当初の印象とは結構変わっていったなと思うんです。ちょっと妄想が暴走しているんやけど、別に誰に迷惑かけてるわけじゃない...なんやったら月山をバッチリ助けてくれますし。キャラデザインもいいし、僕は好きですねえこういうキャラクター。
杉田
鈴木はスタート時点ではそんなキャラじゃなかったですよね?
綿引
違いましたね。最初の頃は、「主人公の味方なんだか敵なんだかわかんないけど、なんか味方っぽいぞ...でも信用できなさそう」みたいな感じで使う予定だったんですよ。でも途中から...途中からっていうか、次に登場した時からは完全に主人公の味方になっちゃいました(笑)。
川島
超ストーカーみたいな熱があるんだけど、めちゃめちゃ協力的。
アンナちゃんも最初はかなり危険な存在かと思いきや、今じゃすっかり将棋好きになってますからね。アンナちゃんといえば1巻を読み終わった時、「バトル漫画にもなるんや、これ」。と思ったんです。2巻でもしっかりバトルやってるんで。それがあったからこそ、その後普通に将棋教室に通ってることに笑ろてまうんす(笑)。アンナちゃんがいることで、なんかこう...作品の空気が浄化される感じ。
僕、アンナちゃんが初登場する6話の、影がめっちゃ伸びてるページが好きなんですけど、春夏冬先生、アンナちゃんや鈴木のデザイン的な面での難しさっていうのは、あったんじゃないですか?
川島さんが選ぶ、JC1巻ラストのアンナ登場シーン
春夏冬
ダントツで難しかったのは鈴木ですね。(担当の)杉田さんにも電話で「どういうキャラクターなんですか?」って相談した覚えがあるんです。
川島
まあ、掴めないのがあいつの良いところなんですけどね(笑)。
春夏冬
そうなんですよね...。
杉田
春夏冬先生はキャラクターをちゃんとつかんで描こうとしてくださるので、初期の頃はネームを読んだ後に自分の中で腑に落ちていないところがあると、相談されました。
確かに、特に鈴木に関しては、急にキャラクターが大きくビューンと動いたので、「ここはどういう感じで描けばいいですか?」「この後、どういう運用がされるキャラなんですか?」と戸惑っていましたけど、「こんなキャラですよ~」みたいな話をすると、「なるほど、分かりました」と腑に落ちたようで、読者の方が「急にキャラが変わった」という印象を抱かないないように、うまくバランスをとっていただいた感じですね。
川島
春夏冬先生はバランス感覚があるんですね。ところで、アンナちゃんが爆乳なんすけど...これは誰がアイデアを出したんですか?
春夏冬
これは完全に私のフェチですね。
和島将棋教室にアンナが通い始めてから、心なしかおじさんギャラリーが増えた
一同笑
川島
まぁでも、そのほうがいいやろなって思いますね。その、エロい意味じゃなくて。なんとなくこう、「アメコミから出てきたみたいなキャラなのかな?」っていう印象がアンナちゃんらしい。
春夏冬
そうですね。ちょっとここは綿引先生に怒られるかもしれないと思いながらデザインしました。すごくスタイルが良いというところに関しても、卑猥にならないように、あくまでも吸血鬼ハンターとして。アンナは筋肉の良さは自覚してると思うんですけど、女性としてのプロポーションの良さには無自覚なので、基本的に。
川島
ですよね。いつも薄着なので。
春夏冬
動きやすい服装ですね。
川島
あぁ、もう機能性重視なんですね。
春夏冬
機能性のみでアンナは考えてるんで。服装を選ぶ時にはスポーツブランドの選択が基本になります。
川島
性別とかをまったく武器にしてないですし、めっちゃ美人でスタイル良いのに、周りの誰もそういう目で見てない。将棋教室でも一生懸命将棋をやってる生徒として馴染んでるし。良い存在感ですよね。
春夏冬
ありがとうございます。
将棋を通じて月山やほかの人間と溶け込むが、吸血鬼ハンターという肩書を忘れてはならない
――作画をする上でのこだわりというのは、どんなところですか?
春夏冬
私の作画では、綿引先生がネームに記載されたメモを元に、物語の骨子の部分は揺るがないように描いたうえで、物語的なウソがないように、私にできる限り最良のやり方で、キャラクターの「穴埋め」や「深掘り」をしているつもりです。それは読者の方に気づかれないかもしれないし、それでも構わないと思いながら描いている部分で。
川島
ほうほう。どのあたりになりますか?
春夏冬
たとえば、竜王戦予選トーナメント初戦を描いた16話。追い込まれた町野四段の回想で、彼のお父さんが2コマだけ登場するんですが、その2コマの服装で「もしかしたら男手一つで町野を育ててくれたのかもしれない」っていう部分をちょっと垣間見せたり、町野とお父さんを同じ髪型にすることで、町野のお父さんに対する尊敬を表してみたり、全く説明はしていない部分なんですけど、ちょっとでも説得力を持たせられたらいいな...と。それから追いつめられた時に町野は左腕を触るクセがあるんですが、そこは回想シーンで彼の師匠が激励してくれた際に触れている場所であるとか。
川島
(ページを見て)ホンマや!触ってますね。
春夏冬
私のできることはちょっとしたことなんですけど、そういう試みです。それでももちろん、綿引先生の意図と異なる部分があればフィードバックをいただいて修正するんですけど。ホントにありがたいことに、私の作画に持たせてもらえる自由度が高いので、できる限り人物像を深掘りしようと思ってます。そういうところがこだわりかもしれません。
★ストーリーの閃(ひらめ)きと緩急
川島
ストーリーが降りてきたっていう先生もいれば、もう、缶詰状態で粘って粘って最後まで出ない...っていう先生もいらっしゃる。綿引先生はどっちですか?
綿引
まぁ...粘ったことはないので。
一同
おー。
綿引
スミマセン。粘ったことはないというか...なんかもう出ない時は諦めるんで(笑)。
川島
違うことをやるんですか?
綿引
何もやらない...みたいな。
川島
浮かんだらネーム切られるのって早いほうですか?
綿引
いやぁ~早いと思うんですけど、そんなに頑張ってはないんですよね...。
杉田
「描き始めたら早い」というイメージですね。綿引先生は「自分ひとりで悩む」っていうよりは、とりあえず納得できるところまでできたら一旦こちらに投げてくれて、そこでちょっとまた打ち合わせをして直す...みたいな感じでやってますね。でも早い、特にコメディ回とかは早いです。
綿引
コメディ回はそうですね。将棋やってる時が一番苦しいなっていう感じですね。
川島
まぁ、そりゃそうですよね。バトル中というか、本筋はね...。
綿引
将棋ばっかり描いてると、それも苦しくなってくるので、だから、たまにこうギャグに寄りたいな...みたいな。ギャグ漫画がたまにシリアスやるじゃないですか。その逆パターンみたいな感じですね。
川島
お酒飲んでる時のチェイサー的な。時々こう、鈴木とかが盛り上がったりするところは、そういうタイミングだったりとかするんですか?
綿引
んー...鈴木はなんていうんですかね...。やっぱシリアスとコメディの緩急みたいなのは大事だと思うので、鈴木はそういう役目を担っている重要な人物だと思います。
川島
そうかぁ。
杉田
将棋パートはすごくちゃんと打ち合わせするんですけど、ギャグパートは「ギャグ描きまーす」って言われて、「じゃあ、待ってまーす」みたいな。で、まぁ上がってきて、「面白いっすね」って(笑)。あまり直しもなくOKみたいなことが多い感じですね。
川島
そういうシリアスとコメディの緩急が、読みやすさにもつながってると。
綿引
そうかもしれないですね。
★『バンオウ-盤王-』キャラにモデルはいる?
川島
実在する棋士の方とかは、結構意識されてるんですかね?
綿引
いや、むしろ意識してないほうが描きやすいです。モデルとかには基本的にはしてないですね。
川島
あ、そうですか。
綿引
伊津さんぐらいですかね。
川島
あー、なるほどね。
綿引
彼だけは加藤一二三(ひふみ)先生をモデルに描いてます。
川島さん、作者のおふたりも最推しの伊津
川島
ああ、加藤一二三先生。はいはいはい。僕、伊津さんがめちゃくちゃ好きで、ほんとに執念が一番すごい。25話で「そうまでして勝ちたいのか」っていう世間の批判に対して、元ちゃんが「そこまでして勝ちたいからこそ棋士なんだ」って反論する...あそこがめっちゃ好きで。
だから、伊津さんがバリバリの時も見てて「最推し」な元ちゃんが、現在の伊津さんと闘うっていう設定も、吸血鬼じゃないと、きっと無理な部分だったりするんですよね...。僕ら芸人にも、50年やってる師匠がたくさんおられて、劇場でお会いしますけど、マジのバリバリの時期というのは知らんから。テレビとかYouTubeでは見返せますけど、「それやっぱ体感、肌でしたかったなあ」というか、元ちゃんが羨ましいなあって思うんです。
なんかこの、若い時はボロクソ言われてたけど、キャリアを積んだら邪道も王道になってるんだっていうところがすごい好きなんですよね。
そういった意味では、結構4、5巻あたりには苦労人の棋士が出てきて。天才側の人々の人間ドラマみたいなのもちゃんと1戦1戦描きつつ、でも対戦相手によってはめっちゃメンタル弱いけど、どうしようみたいなとこやけど、打った人間が全員やっぱ将棋おもろいなって顔して終わってるので、そこはやっぱすごいですね、描写が。面白いなーと思うところは、そういうリアルさですね。
本物のひふみんの話とかも結構、すごいキャリアで年下の人にも全力でいくというか。ちょっと相手を陽動させるような作戦も使ってくるじゃないですか、後ろ立ったりとか(笑)。
一同笑
川島
みなさん笑ってますけど、でもほんまに「1戦1戦命かけてたらそうやるよな」って思いましたね。やっぱ勝ちたい欲というか、若いやつが出てきたら、ベテラン側でもそう思うもんなんだなという風に感じて。
僕らもこないだ、自分的にはすごい緊張してる『IPPONグランプリ』っていう仕事があって、まあ大喜利の、ほんまにガチなんで読み合いというものあるんですけど、まあ10回20回ぐらい出てるんであれなんですけど、僕のブロックが僕とアンガールズ田中君が同世代ぐらいで、あとはヒコロヒーとサルゴリラの赤羽君、ロングコートダディの堂前。キャリアで言ったら10個下がたまたま一緒になるブロックになっちゃったんです。
その時にちょっと感じたのは、「すごい次世代になったんやな、もう」っていう。「もうここでボタンめっちゃ連打して大喜利やんのも、あと何年なんやろ...」みたいなことを感じて感傷的になってたんですけど、ふたを開けたら僕と田中ばっか連打してる(笑)。
一同笑
川島
ゴリッゴリ必死やって(笑)。最後サドンデスやるっていう...全然負ける気なかったです。嬉しかったですね、自分で。「僕、まだこんな必死なんやな」って。さっきまで若手にボタンの押し方とか教えてたのにもう、画面を見んとめっちゃ連打して。ブロック勝ち上がったんですけど。
――深層心理ではやっぱり、そうなっちゃうというか。
川島
絶対にあったっすね。これももう「キャリアで」とか「次の世代なんで」とか、口だけやなと思いました。めちゃくちゃ僕と田中が燃えてんの見て、めっちゃ引いてましたから若手3人(笑)。「そんな押すんすか...」、みたいな。
――新世代の台頭には祝福しつつも、やっぱりライバルとして見ちゃうもんなんですか?
川島
もちろんですね、やっぱ面白い子ばっかり増えてるし、それこそ研究の時間が違うと思うんですよね。僕らは、ビデオはあったけど劇場に行かないとダメで。でも昔の映像も全部YouTubeで今は観られるし、誰がどんな話したとかも全部研究できるんで、多分知識とかは今の世代のほうがすごく高いし技術も上がってると思うんですけど、こと闘いになると必死やなっていう。「自分ってこんな必死やったんや...」と思いましたもんね、テレビ見てて。
だから、加藤一二三先生の行動もすごい分かるし、伊津さんがめっちゃ魅力的に思える。「このキャリアで若手に負けたない」って。「もうあと勝手にやってください」って言うのはめっちゃ楽やと思うんすよね、恥ずかしいから負けんの。そういった意味では『バンオウ-盤王-』も、ベテラン勢が活躍してる4~5巻の展開が好きですね。
杉田
綿引さんも一番好きですもんね、伊津戦。
綿引
そうですね。伊津戦が一番自分的には思い入れのある対局とドラマなので、そこを面白いって言っていただけて嬉しいですね。伊津という人物は、自分が思い描く「最高にカッコいい年の取り方をした人物」という感じなので。ああいう風な人になれたらなみたいな、そんな願望とか込めて彼を描いてますね。
川島
カッコいいですよね。
杉田
20話くらいから、春夏冬さんの絵もかなり覚醒してますよね。
川島
27話のここがいいですね。「この最高の対局をふたりでつくっているんだ」。だから将棋って、僕も全然分かんないにしても確かに、「対局を作らないといけないんだな」って感じられたというかね。
一方的にリードしたり、実力差があってしまったら、美しい局面にならないんだっていうところ。「闘ってるんじゃなくて作ってる」っていうところがすごい、いい絵だし、いい表現だなと。
皆さん納得の伊津が輝いているコマはJC4巻
春夏冬
ありがとうございます。私も原作ネームを読んだとき、感動しました。綿引先生は本当にスゴいです。
綿引
将棋なので、どうしてもネームの絵面はかなり地味になりがちなんですけど、それでも、春夏冬さんが飽きないような派手な演出で表現してくれていて、ホントに助かってます。
杉田
綿引先生は伊津戦描き終わって、ちょっと燃え尽きかけてたんですよ。「連載、もうよくないすか?」みたいな(笑)。だから編集としては「まだまだだよ!」っていう話をして。
綿引
伊津戦からはすべてが最後の闘いのつもりで描いてるので。
川島
へー!でもその反動のように突然野球始めて(笑)。
一同笑
★名作漫画は突如野球を始める
――これはあるあるなんですかね?漫画家さん急に野球描きがちな。
杉田
僕もジャンプで、急に野球を始める漫画にたくさん出会ってきました。
川島
『DRAGON BALL』も『呪術廻戦』も...急に野球やる漫画に名作の予感。
杉田
綿引さんとの打ち合わせで、「伊津戦も終わったし、アンナの件も終わったけど、来週どうしましょうか?」みたいな話をしたら、「来週はちょっと...野球やろうと思ってます」「野球!?」って(笑)。
川島
みんなやっぱやるんや。名作には野球入ってるんですよ。
七島が現れ、風雲急を告げる!と思いきや次ページがこれ!(JC4巻)
杉田
...で、「野球、やったことあるんですか?」って聞いたら「別にないです。ちょっとやろうかなと思って。」みたいな。「どういうこと!?」みたいな(笑)。
川島
でもここが一番、元ちゃんの吸血鬼的な能力が発揮されたところですよね。
杉田
そうですね、野球でチートしちゃうっていう。
川島
アンナちゃんもいいとこいっぱい出てましたし。先生方も、描いてて気持ちいいんですか?野球って。
春夏冬
いやあの、現場は大混乱になりました。「野球...野球!?」って (笑)。
杉田
そりゃそうだと思ったんですよ。野球なんか描いたことないのに、急に描けみたいなこと言って「いやーちょっと、やっちゃったなー。」みたいな。
春夏冬
29話のネームを読ませていただいて...その終盤で「竜王戦 決勝トーナメントが...ついに始まる」って、いきなり野球場に飛ぶじゃないですか。
川島
めちゃめちゃ飛びます。はい。
春夏冬
飛んだ時に、私もなんかその...読んでるんだけど読めてないんですよ。日本語はわかってるはずなのに。
川島
咀嚼(そしゃく)できないぞっていうね。
春夏冬
でも、杉田さんから「野球」っていうところを言われて。で、「リネーム」という、もう1回自分でネームを切る作業があるんですけど、それ切っていろいろご指摘いただきながら一応完成して、それを現場のスタッフさんに渡して、一通りの流れを現場で読んでいる最中に、全員が全員、同じところで「野球...野球!?」って。
一同笑
杉田
野球をやるって決まった時に、多分ちょっと早めに春夏冬さんに「すいません、来週野球来るかもしれないです」みたいなお話をしたんです。そしたらやっぱ一言目に「え、野球?何言ってんすか!?」みたいな反応があって。で、ホントにネームを送ったら「マジ結構ガッツリ野球やるんすね!」みたいな。
川島
29話のお尻から30話の終盤まで、ほぼ野球ですからねこれ、しっかり。
杉田
ホントは、スポーツって専門的な動きもあるから、急に言われて描けるものではないですから...。
川島
そうですよ、フォームとか。
杉田
そうフォームとかめっちゃ難しいんですよ。だからホントに、描けない人は多分「急に言われても絶対描けません」って断る人がいてもおかしくなかったんですけど。春夏冬さんがアクション上手なのはわかっていたんで、「まあいけるかな...」とは思っていたんですけど、バッチリ描いていただいて。
川島
いやこれだから、これは意識されたんですか?アンナがけっこうバットの根元で打ってホームランなので。普通はつまってボテボテになるのに、力だけでここまでボールを飛ばすっていう...。あっ、先ほどおっしゃられてた「穴埋め」「深掘り」もちゃんと意識されて...。
春夏冬
私にできる可能な範囲で。
川島
すげー!
春夏冬
「月山とアンナはやばいだろう」っていう意識で、思いっきり描きました。
川島
こういうスポーツ要素、5巻だとマラソンが入ってきたりとか。
綿引
それは実際にマラソンをやっている棋士の方がいるので、じゃあマラソン回入れようかなって。野球は聞いたことなかったんですけど。
川島
野球は、まぁやってみようと。
――棋士の方には、登山が趣味だとかそういう方もいらっしゃいますよね。
綿引
あー、そうですね。
川島
孤独な戦いが好きなんでしょうね。ひとりの時間というか。そういった意味で、リアルなんですね。マラソンはね。
★もしも自分が吸血鬼だったら?
――ご自身が月山のような長い命の吸血鬼だったら、どんな人生になると思いますか?
川島
まぁ芸人は、なんかキャリア積めば積むほどいいのかどうかもわからないですね...。たとえば大喜利とかの時間もそうですね。「このお題で1ヵ月後にお答えください」って言われたら、多分全員スベると思うんです。何週も回って、やっぱ「10秒で答えてください」とか「1分でお答えください」ぐらいのほうがいいですよ。1ヵ月後とか1年後に答え合わせしたら絶対無茶苦茶なことになるので、賞味期限が。
――期待値も上がっちゃいますしね。
川島
ですね。300年芸人でいられるもんなんかな...と思いますね。そういった意味では。あと、テレビに出続けたりしたら、まぁバレますからね吸血鬼だって。「老けてないな、あいつ」みたいな。
杉田
でも、300年と聞いても迷いなく「芸人」をやりたいと思われるんですね。
川島
いやでも、職業で考えたらそうですけど。何百年も生きてたら、何が楽しいですかね? 元ちゃんも200年ぐらいは何もしてなくて、死にたくなったら将棋に救われたワケですからね。
――先生方はやっぱ漫画をこう...300年?
綿引
いや、漫画を300年は絶対嫌ですね。
川島
嫌でしょうね。そりゃあ。
綿引
冷静に。別の人生とかを楽しむっていうのもあるじゃないですか。
川島
漫画家の経験もありつつっていうね。
綿引
はい、とりあえず別の職業になったりとか。じゃないですかね。
春夏冬
私も川島さんがさっきおっしゃっていた賞味期限が大事なのかなと思いますね。漫画家をやっていると仮定したときに、時間はたっぷりあるんだから、いつかは最高に楽しいものが描けるだろうってな...って、いつまでも自分で勝手に推敲を重ねてしまう気がするんです。
その結果、作品は完成しない。...で、ってことは評価も受けられないから、自分の力量もわからない。でも、自分への期待値ばかりはなんかあるっていう、一番気持ち悪い状態で何百年もだらだらと過ごして...そのうち、アンナに見つかって殺されるような気がしますね (笑)。
川島
結局そうですよね、バレて。
春夏冬
ある日突然。はい。
――そこはアンナ、カッチリ仕事するんですね(笑)。
川島
いやまぁハンターなんでね(笑)。寿命があるほうが、締め切りがあるほうが幸せなんでしょうね。
春夏冬
私個人としては幸せです。
川島
だから、外に出なあかんし、原稿描かんといかんし、フリップも出さんと。
春夏冬
瞬発力ですね。
川島
ですね。我々そこは。
――お話が変わりまして、みなさんの推しキャラと好きな対局を教えてください。
春夏冬
えっと、七島ですね。七島の異常なまでのストイックさ。何かひとつの物事、七島にとっては将棋ですが、それに執着している人は、負けないための努力もものすごくするし、負けてしまった時には努力の反動が精神的に来るものじゃないですか。
綿引先生は彼のことを「人間の美しくない部分もあるキャラ」とはおっしゃってるんですけど、私は自分に甘えがある人間なので、七島のように強烈に苛立ちや怒りを表せる、それだけストイックになれる人間に憧れがあります。
新堂に王位を取られた屈辱が今の彼のストイックさをつくる
川島
なるほど、打ち込めるという。
春夏冬
はい。それだけ将棋一点に集中している人間ってことなので。
川島
うんうん。周り見えなくなるほど集中してるという。
春夏冬
はい。そのエネルギーがプラスだろうとマイナスだろうと。それもひとつの「天才」なのではないかっていうところで、七島が好きです。好きな対局はもちろん伊津戦もそうなんですけど、七島推しでもあるので、月島対七島の対局が一番好きです。
綿引
対局は伊津戦ですけど、実は推しは七島なんです。さっきも言いましたけど、『バンオウ-盤王-』は人間の善い面をフォーカスして描いていたんですけど、七島に関しては善い面じゃないところも描いていて、それが逆に「本物の人間臭さ」が描けたかなと思っているので。だからドラマ的には伊津さんですけど、人間的な部分では七島が一番、自分の中では思い入れのあるキャラクターですね。
川島
春夏冬先生と一緒だったんですね。推しキャラ。
綿引
そうですね。
――では
最後に、
まず川島さんから、読者にひと言推しコメントをお願いします。
川島
他の吸血鬼モノの作品とはちょっと違って、「吸血鬼が一番人間らしい漫画」だなというのが、僕の中の『バンオウー盤王-』の印象ですよね。あとやっぱりこう、「努力で天才に挑む」という意味では「これぞ王道」という感じがするんですけど、先生方のテーマになってる「嫌な人が出てこない」というところも守っておられて、しかもこれだけの力作なのに、ハマったら1日で読み切れそうな疾走感もある。『バンオウ-盤王-』は、将棋を知らん人にこそ読んでほしい漫画ですね。
――春夏冬先生、お願いします。
春夏冬
そうですね、実はまだ、私自身も結末を知らないので...。もう何が来ても一生懸命描けるように、ホントに最後の最後まで。ラスト1ページ、ラスト一筆まで神経注いで、頑張らせていただきたいと思います!
川島
素晴らしい。急に最後野球かもしれないですしね。
一同笑
川島
分かんないですよね。格闘漫画、カーリングとか始まってもおかしくない。
春夏冬
次はバットの柄の部分でホームラン打つくらいのことがあっても、一生懸命描きます(笑)。
――綿引先生、最後にお願い致します。
綿引
物語も佳境に入っていますので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。読者の皆さんが満足できるような終わり方にしたいと思いますので、見届けていただけたら嬉しいです。
――ありがとうございました!
川島明(AKIRAKAWASHIMA)
1979年生まれ、京都府出身。98年に田村裕とお笑いコンビ麒麟を結成。『IPPONグランプリ』や『フットンダ』など、大喜利番組で頭角を現し、現在では『ラヴィット!』のMCを中心に、テレビで見ない日はない人物となった
綿引智也(WATAHIIKITOMOYA)
『バンオウ-盤王-』の原作担当。『ジャンプ+』にて読切作品『SWORD IN THE CITY』、『その惑星で、彼は生きる。』を経て『バンオウ-盤王-』を連載中
春夏冬画楽(AKINAIGARAKU)
『バンオウ-盤王-』の作画担当。綿引氏と共に『バンオウ-盤王-』を連載中
取材・文/渡辺マホト撮影/榊 智朗
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