「ただ勉強ができるだけ」東大から大手企業に就職、MBAも取得した38歳が、自分を“弱者男性”だと思うワケ

卒業式では同級生がワイワイと集まって写真を撮るなか、会話に入っていけず、独りぼっちで記念撮影

「ただ勉強ができるだけ」東大から大手企業に就職、MBAも取得した38歳が、自分を“弱者男性”だと思うワケ

4月19日(金) 8:54

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貧困、障がい、宗教二世など、多様な困難を抱える男性をあらわした“弱者男性”という言葉。弱者男性当事者の声を集めた話題の新書『弱者男性1500万人時代』で、ライターのトイアンナが、過少評価されてきた弱者男性たちの実態を明らかにするため、これまで数量的に定義されていなかった「弱者男性の人口」の推計に踏み切った。

その結果、「最大で1500万人」、つまり男性の約24%、日本人の8人に1人は何らかの弱者性を抱えていることがわかった。そのなかには、一見“強者”と思われがちな高学歴男性もいる。共感が得られない、孤独な生きづらさの正体に迫った――。

東大卒でも弱者!? なぜエリートなのに社会的に弱いのか

東京大学卒の飯島亮さん(仮名・38歳)は、新卒で日本を代表する大手企業に就職。社費留学でアメリカに渡り、MBAを取得している。そんなエリートがなぜ“弱者男性”という言葉に共感するのか。

「学歴は確かにいいですが、ただ勉強ができるだけ。小学生のころから、言いたいことが我慢できず、授業中に先生が矛盾したことを話すと、つい指摘してしまう。集団行動が苦手でクラスで浮いていて、いじめられたことから、ひたすら勉強を頑張って東大に入りました」

飯島さんは、相手の表情や気持ちを読み取ってコミュニケーションをとることができない。診断は受けていないが、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向を自覚している。とはいえ、エリート街道を歩んでいるのだから、そのまま突き進めばいいかと思いきや……。

「会社の“360度評価”で、部下から『冷たい印象で、数字に細かい。二度と一緒に働きたくない』と書かれてしまったんです。人事評価のマイナス要因になりました」

このアンバランスさは、家庭でも深刻な問題に発展。

「妻は、男らしさや稼ぎを僕に求める一方で、男女平等を要求する“いいとこ取り”をしてくるんですね。そういった発言が理解しがたいので、妻の言葉は片耳にイヤホンをつけて、有意義な情報をインプットしながらでないと、聞く気が起きない。それで実家に帰る、離婚すると言われても、自分の行動を改められない。“合理的な意見以外は価値がない”と捉える、自分ルールを崩せないんです」

ぎょっとするような振る舞いも、性格の良しあしではなく、自分のルールと違う価値観の人間のことを理解しづらく、周りに合わせるのが苦手なASDの特性と重なる。

「これでも社会に適応しようと思って悩んでいます。でも、周りにいる人は、私と違って完全無欠のエリートばかり。育ちや性格がよくて、運動もできて、頭もいい。私のような“学歴だけのエリート”って、今どきあんまりいないんです。そんな人にこの話をしても、正論を言われてしまうだけだなと思って、諦めています」

弱者男性という概念は政治と教育の産物

そもそも、「弱者男性」とはどういう意味か。成蹊大学文学部教授で、弱者男性をめぐる言説に詳しい伊藤昌亮氏に聞いた。

「1992年、社会的弱者の交流の場を設けるべく結成された『だめ連』が掲げた『モテない・職がない・うだつが上がらない』という“だめ”の基準が、もっとも包括的に弱者男性を表していると思います。恋愛・経済・コミュニケーション弱者ということです。当時、この3つを有するオタクは弱者男性の象徴として扱われ、差別の対象となりました。’00年代になると、非正規雇用問題を端に経済弱者が注目されるように。’02年には、『生きる力』の養成を目的にゆとり教育が開始。しかし、『生きる力=コミュ力』と曲解され、コミュニケーション弱者がより浮き彫りになっていきました。弱者男性という概念は、政治と教育によってもたらされたのです」

弱者男性に明確な定義はないなかで、ライターのトイアンナ氏は弱者男性を自認する人々を取材して挙がってきた“弱者性”の要素を16のカテゴリーに分類した。このカテゴリーを複数持つ高学歴男性も少なからずいる。

弱者男性への調査で挙げられた「弱者性」のカテゴリー

a障がい者

b信者の家族

c引きこもり

d介護者

e虐待サバイバー

f犯罪被害サバイバー

g多重債務者の家族

h容姿にハンディのある人

i貧困

j性的マイノリティ

k境界知能

l非正規雇用・無職

mコミュニケーション弱者

n3K労働従事者

o在日外国人、民族的マイノリティ

pきょうだい児

「小樽商科大学の池田真介教授の協力で、このカテゴリーに一つ以上当てはまる男性の数を推計すると、最大で1500万人の弱者男性がいることが明らかになりました。学歴だけ見れば“強者”でも、家族の借金返済で貯金を使い果たしたり、介護に追われて疲弊するなど、さまざまな事情で弱者になってしまう。特に年収が低く、人間関係に恵まれていない人が弱者だと自認しやすい傾向にあります」

弱者の新たな概念が論じられ始めた

意外にも、高学歴だからこそ弱者性を感じやすい面もあるようだ。

「頑張って勉強していい大学に入ったという実績があるだけに、コミュ力の高い人ばかりが優遇され、就職や恋愛で評価されない状況がいっそう辛くなる。このように、他者と比較して望むような結果が得られず、憤りや不満を感じる状態を『相対的剥奪感』と言います」(伊藤氏)

近年、弱者の新たな概念が論じられ始めているという。

「福祉国家において、弱者は経済的弱者と人権的弱者を指します。しかし、1990年代から欧米で新たに『排除』という概念が生まれました。多種多様な弱者性が複合して社会から孤立・除外されてしまうこと。高学歴男性は社会の中心にいるからこそ、弱者性がより悪目立ちしてしまうわけです」(伊藤氏)

学歴だけが価値ではない。そんな論調が強まるほど、高学歴弱者は生きづらくなる。

弱者男性にまつわる社会の動き

1984年中曽根元首相が教育改革に着手する

1989年東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件により「コミュ力のない人=オタク」のステレオタイプが定着

1992年「だめ連」が「モテない、職がない、うだつが上がらない」だめな男の交流の場をつくる

1993年就職氷河期が到来

2002年ゆとり教育開始

2007年赤木智弘氏が非正規雇用における弱者男性の存在を論じる

2008年リーマンショックで派遣切りが問題化

2019年「有害な男らしさからの解放」が議論される

2023年弱者男性支援NPO「日本弱者男性センター」発足

【トイアンナ氏】
ライター・経営者。P&Gジャパン、LVMHグループでマーケティングを担当後、独立。弱者男性を生み続ける日本の現在を、初めてデータで分析した新書『弱者男性1500万人時代』。4月24日に扶桑社より発売

【伊藤昌亮氏】
成蹊大学文学部教授。メディア研究。『世界』に寄稿した「ひろゆき論」で弱者の階級闘争を論じる。著書に『ネット右派の歴史社会学』など

取材・文/週刊SPA!編集部イラスト/サレンダー橋本



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