中国で人気沸騰中の若手スター、ワン・イーボーが『無名』の撮影でみせた勤勉さ「撮影がない時も、現場に行ってレオンさんの演技を見た」

中国発スパイノワール映画『無名』より、初主演のワン・イーボーが撮影当時を振り返る/Copyright2023[c]Bona Film Group Company Limited All Rights Reserved

中国で人気沸騰中の若手スター、ワン・イーボーが『無名』の撮影でみせた勤勉さ「撮影がない時も、現場に行ってレオンさんの演技を見た」

4月19日(金) 20:00

スパイノワール映画『無名』(5月3日公開)で、名優トニー・レオンと共に映画W主演を果たしたワン・イーボー。中韓合同ボーイズグループ「UNIQ」のメンバーとしてデビューし、俳優としてもテレビドラマ「陳情令」でブレイクしたイーボーは、いま中国で熱い視線を浴びている若手人気スターだ。メガホンをとったチェン・アル監督からのラブコールを受け、スパイ映画に初挑戦したイーボーだが、本作が彼のフィルモグラフィにおいて特別な作品になったことは間違いない。
【写真を見る】クリーンな衣装に身を包んだ人気若手スター、ワン・イーボー!『無名』でトニー・レオン共演し感動

第二次世界大戦下の上海を舞台に、中国共産党、国民党、日本軍の間で繰り広げられる名もなきスパイたちによる一進一退の攻防戦を描く本作。汪兆銘政権の諜報員フー役をレオンが、その部下であるイエ役をイーボーが演じた。同じ組織の上司、部下として暗躍する2人は、どのような運命を辿るのか!?本作は中国映画界最高の賞とされる第36回中国映画金鶏賞にて作品賞、主演俳優賞をはじめ8部門にノミネートされた。イーボーは本作で助演男優賞にノミネートされ、レオンが主演俳優賞、アル監督が監督賞と編集賞の3冠に輝いた。

数か月の撮影期間中、現場に没頭したというイーボー。自分の出番がない時は、静かにモニターのそばに座り、ほかの俳優たちから台詞の表現方法や筋肉のコントロールの仕方などを学んだという。イーボーは上海語を話す役を演じたが、明け方に仕事を終えてホテルに帰ってからも、毎日方言の練習を続けた。また、演じたイエの孤独感を味わうため、携帯電話の使用を減らしあまり多くの人と接触しないようにして役を作り込んだとか。スタッフ陣からもイーボーはとても誠実で勤勉だし、演技力も高いと称えられた。

アル監督は、イーボーのメイクや衣装を見た時、原作や脚本のキャラクターが生きているように感じたと語っていたが、イーボー自身はどの時点でイエ役をつかめたのか?

「衣装合わせでああいうメイクやスタイリングに挑戦するのは初めてで、まるで別の時空に行くような感覚でした。まずは、スタイリングや衣装のおかげで一気にキャラクターに近づくことができたのではないかと。それから、ほかの共演者とのやりとりや監督とのコミュニケーションを通して、役を感じることができたのだと思います。監督の脚本は、ご存知のとおり、撮影の過程で少しずつ追加されていきますから、徐々にそのキャラクターをより深く知ることで没頭していき、演技に磨きをかけていきました」。

※以降、映画の核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

彼が演じたイエ役については「とても過酷で心が痛む役だと思います」と語り、続けて「『無名』は、私たちがいまよりいい生活を送れるようにと、国に多大な犠牲と貢献をした当時の名もなき、顔も知らない、多くの人々についての物語です」と役への想いを語った。

また、イエ役の心理状態を表現することについては「現場の環境によるところが大きかったです」とコメント。「現場では、囚人が尋問されている場所があったり、たくさんの犬が吠えたり、地面が血まみれだったりして、とても憂鬱な気分になりました。撮影期間中もリラックスできなかったし、常にストレスや憂鬱な気分を抱え、役柄について共感していたので、まったく安心できませんでした」と述懐。

劇中では、ダイナミックなアクションシーンにもトライしているが「格闘シーンは、私がこれまで出会ってきたものとはまったく異なり、スタイルも全然違いました。監督は、アクションシーンにリアリティを求めましたし、言葉を選ばずに言えば、それはヤクザのケンカのようなリアルさでした。雨のなかで日本兵と闘うシーンがありますが、あれは何日も何回もかけて撮影した一発勝負の格闘シーンでした」と撮影を振り返った。

アル監督の演出については「最初はなにもしないまま、俳優たちの好きなように演技をさせますが、監督は、私にとてもいい習慣を教えてくれました。それは毎回モニターでリプレイを確認することです。演技の後、リプレイを観て、どこがよくてどこがよくないかを教えてくれました。そうして無駄な動きをしなくなり、安定感のある芝居ができるようになっていきました」と感謝する。

「私たちはどんどん調整していき、自然に役と一体化していったのです。監督はとても優しく、俳優がすぐに理解できるような明確な指示を出してくれました。監督はほかの役者にも自由に演じられるような余地を与えていましたが、私の演技経験は、ほかの役者ほど多くないため、私には直々に指導してくれました」

■「トニー・レオンさんとの戦いのシーンは、近距離で演じられたので、本当に感動しました」

また、トニー・レオンとの格闘シーンの撮影エピソードについても語ってくれた。
「事前に同じようなシーンを準備し、実際の撮影に入る前に2、3日リハーサルをしました。あのシーンは9日間をかけて撮影したのですが、最初は力を入れるのが怖く、またレオンさんの相手役というプレッシャーもあって、本気を出して戦う勇気がなかったのですが、監督から『プレッシャーは捨てて、コントロールしないようにしたほうが、臨場感が出るよ』と言われまして。何度も何度も試しているうちに、だんだんスムーズになってきて、だんだん早くなっていきました。廊下から落ちるシーンは、スタントマンを使いたくなかったので、ワイヤーアクションで何度も撮影しました。レオンさんとの戦いのシーンでは、手を伸ばした瞬間に彼の顔に触れることができる近距離だったので、本当に感動しました」。

クランクインは、イーボーとワン役のエリック・ワンが海岸で遺体を運ぶシーンの撮影だった。「夜に行って夜明けまで待ちましたが、 あのシーンを撮った時はとても不安でした。脚本を受け取ったのが2021年の夏で、その2、3日後に撮影が始まりましたが、その時は監督がどんなふうに撮影をしていくのかがわからなかったです。脚本はとても単純明快でしたが、想像の余地もたくさんありそうな気がしましたし、撮影中も常に脚本をカットしたり修正したりしていたんです。それで監督から、撮影前の準備をどうすればいいかを教えてもらい、クエンティン・タランティーノ監督の作品や『ゴッドファーザー』などたくさんの映画のソフトを送ってもらい、映画の見方や学び方を教えていただきました」。

また、中国・河南省出身のイーボーだが、役柄上、上海語や日本語を話さなければいけなかったが「脚本を受け取ってから毎日、エリック・ワンさんが私の台詞を上海語で録音して送ってくれました。方言や日本語を覚えるのが早かったのは、それまで外国語の歌をたくさん習っていたので、その基礎があったからかもしれません。歌詞を暗記しているような感覚でした」と語る。

劇中では蒸したスペアリブや酔っ払い海老を食べたりする食事シーンがたくさん登場する。
「普通に食事をするシーンでは、あまり複雑に考えず、食事は食事、食事中のおしゃべりはおしゃべりだと分けていました。スペアリブを食べるシーンは、最初はあまり自然にできなくて、作り物のような食べ方をしていたのですが、その後、ホウ・シャオシェン監督の 『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の食事シーンを見せてもらい、日常的な感覚をつかむことができました。酔っ払い海老のシーンはとても印象的で、活きたエビがジャンプしてて、最初の一口を食べる勇気は本当にありませんでした」。

イエと、チャン・ジンイー演じるファンとの間には、感情的な境界線があるが「そこはアル監督から、登場人物の背景をいろいろお聞きました」と語る。

「私が演じたイエとチャンさんが演じたファンは、昔、同じような人生を歩んだのですが、いろいろなことがあって、別々の道に進みました。イエがファンに会うため、お手洗いに行くシーンで、彼女から『あなたは死ぬのよ』と言われます。イエはあの時、自分が好きな人に酷いことを言われたので、本当に心が苦しかったはずです。だから、その時のイエの感情をどのようにして出せるかと考えました。それで僕自身は、現場に行ってその場で見たこと、そして聞いたことをしっかり受け取ることが一番重要だと思ったのです。現場では監督からも、イエとファンの関係性や、その時の2人の精神状態を丁寧に説明していただいたので、その場でイエとファンの間でなにが起こったかをより理解することができました。また、監督から私たちに『日常生活のなかに似たような感情を探してみて』というアドバイスもいただきました」。

続いて、撮影で一番印象に残ったシーンや、最もNGが多かったシーンについても聞いた。
「実は僕、チェン・アル監督にキャスティングされる少し前に映画俳優デビューをしたばかりでした。でも今回はとても大きな役だったので、いまでも撮影現場のことをよく覚えています。その理由の一つは、監督が夜の撮影に慣れている、あるいは夜の撮影のほうが調子がいいのではないかと思ったこと。ほとんどの撮影は午後6時に始まり、翌朝6時に終了します。このように集中力が高くてかなりハードな仕事のやり方を経験するのは本当に稀なことかと。そして、実際に何度もNGを出しましたが……監督はとても真面目で几帳面な方なので、おそらく私が出演したシーンはかなりの回数を重ねて撮影したのだと思います」。

そういった経験を経たイーボーは「勉強になることが多かったです」と言葉をかみしめる。

「撮影現場はとてもいい雰囲気で、カメラマンと録音技師しかおらず、ほかのスタッフは全員現場の外にいて、俳優の演技を邪魔しないように小さな声で話しながら懸命に働いていました。また、撮影がない時も僕は現場に行ってレオンさんの演技を見ましたが、レオンさんは顔や体の筋肉のコントロールがすばらしく、とても安定していて正確でした」と、名優トニー・レオンから多くのことを学んだ様子。

さらに「撮影後にリプレイを観ることで、自分のいいところとよくないところを知ることができました。自分の顔の特徴や動きを理解し、動かしていいところといけないところ、安定すべきところを知るという良い習慣を身に着けることができたと思います。そして映画を観ることで、どの部分の演技に注目すべきか、どのシーンを覚えておくかなど、俳優の演技を見る目も養われました」といいこと尽くしだったよう。

この現場を経て、俳優としてワンステージ、上に上がれたに違いないイーボー。今後もレオンのように、世界を股にかけるスターへと駆け上がっていってほしい。

文/山崎伸子


【関連記事】
中国発アクション大作『ボーン・トゥ・フライ』日本公開!日本版WEB特別ビジュアルも
「インファナル・アフェア」で改めて考える!トニー・レオンが歩んだ軌跡とファンを惹きつける魅力
「007」への未練タラタラ…!?『ARGYLLE/アーガイル』にも込められたマシュー・ヴォーンのスパイ映画への愛と憎しみ
トニー・レオンが東京国際映画祭に登場!ウォン・カーウァイ、ホウ・シャオシェンとの秘話を語る
トニー・レオンや韓国の恋愛番組が参考に!?『パスト ライブス/再会』感情の機微をとらえた本編特別映像
MOVIE WALKER PRESS

エンタメ 新着ニュース

合わせて読みたい記事

編集部のおすすめ記事

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ