伝説のスター、松田優作!その功績を記念碑的作品『人間の証明』『探偵物語』と共に振り返る

伝説のスター、松田優作。その軌跡を改めて振り返る(『人間の証明』)/[c]KADOKAWA 1983

伝説のスター、松田優作!その功績を記念碑的作品『人間の証明』『探偵物語』と共に振り返る

3月22日(金) 20:30

1970~80年代を駆け抜けた伝説のスター、松田優作。亡くなって35年を迎えるいまも、その存在は多くのファンの胸に刻まれている。そんな彼が角川映画で出演した『人間の証明』(77)と『探偵物語』(83)の2作品が、4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-rayとして発売された。
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■「太陽にほえろ!」ジーパン刑事役でブレイク!

松田優作は、まさに突然現れたスターだった。1972年にスタートし、人気を集めた刑事ドラマ「太陽にほえろ!」で萩原健一演じるマカロニ刑事が殉職により卒業。代わって2代目の若手刑事として73年7月から登場したのが、彼が演じる“ジーパン刑事”だったのである。

このドラマでゴリさんを演じた共演者の竜雷太に、以前筆者が聞いたところによると「最初会った時、へそから足が生えていると思うくらい、足が長かった」とか。細身で長身、拳銃ではなく空手を得意とする松田のジーパン刑事は、瞬く間に人気を獲得する。彼のアクションは動きがシャープで、演技的にも野性味がありながらナイーブな一面を覗かせ、その存在には新人とは思えないスケール感があった。ただ、彼の魅力は一つの刑事役に収まりきるものではなく、翌年8月には自ら申しでて「太陽にほえろ!」を卒業。その殉職シーンで腹を拳銃で撃たれたジーパン刑事が「なんじゃ、こりゃあ」と自分の血を見て叫ぶ姿は、その後モノマネの定番にもなった初期の松田を象徴する名場面である。

■テレビドラマで活躍しながら様々なジャンルの映画にも出演

ここから松田は、山口百恵と共演した「赤い迷路」(74~75年放送)、中村雅俊と刑事コンビを組んだ「俺たちの勲章」(75年放送)、尊敬する石原裕次郎や渡哲也と共演した「大都会 PARTⅡ」(77~78年放送)、コメディ・アクションとして作品自体が伝説になっている「探偵物語」(79~80年放送)とテレビドラマで活躍したが、彼の俳優としての幅の広さは映画作品でこそよくわかる。

『狼の紋章』(73)で志垣太郎扮する主人公と敵対する不良番長役で出演し、映画デビューした松田が、幕末のテロリストに扮した『竜馬暗殺』(74)では、プライベートで盟友関係を結んだ原田芳雄と初共演。チンピラ4人組の青春を描いた『あばよダチ公』(74)、それまでの強いイメージとは打って変わった臆病な武士を演じた『ひとごろし』(76)など、様々な役に挑戦する。このあたりまでが若手俳優としての模索期で、77年に角川映画の第2弾である大作『人間の証明』の主要な役柄、棟居刑事役に抜擢されたことで、映画界でもトップスターの位置へと躍りでる。

■トップスターの位置へ躍りでるきっかけとなった『人間の証明』

『人間の証明』は森村誠一の原作を佐藤純彌監督が映画化したもので、東京のホテルで起こった黒人青年刺殺事件を発端に、親と子、そして日本とアメリカを結ぶ、人間のつながりが明かされていくミステリーだ。松田はこの作品でアクションを封印し、推理と実証で時間の核心に迫っていく刑事を好演。岡田茉莉子や鶴田浩二などを配した豪華キャスト、大々的なニューヨークでのロケ、大ヒットしたジョー山中の主題歌など、話題が満載のこの映画は大ヒットした。今回のBlu-rayでは新たに発掘された、公開当時に限定公開された4chステレオ・サウンド音声を初収録。音楽、セリフ、効果音が4Kデジタル修復映像と共に、46年ぶりに鮮やかに蘇っている。

■村川透監督との「遊戯」シリーズなどハードボイルド・アクションで躍進

『人間の証明』を経て松田は、アクションスターとして新たな道を切り拓く。それが『最も危険な遊戯』(78)に始まる、ハードボイルド・アクション「遊戯」シリーズ3部作である。ここで彼は殺し屋、鳴海昌平に扮し、ディテールが細やかでありながらエネルギッシュなアクションを披露し、一躍時代のヒーローになった。この3部作で組んだ村川透監督とは、その後も角川映画のピカレスク・アクション『蘇える金狼』(79)でもコンビを組んでいる。

だが松田は一つのイメージに捉われること避け、村川監督との2本目の角川映画『野獣死すべし』(80)で、別のアプローチを見せる。ここで彼は犯罪に挑む元戦場カメラマンを演じたが、重点は主人公のアクションよりも、戦場で人間の死に直面してきた内面のトラウマに置かれていて、その狂気を孕んだ演技が印象的。ここから彼は肉体で魅せるのではなく、演技の成熟を目指す俳優へと変貌していくのである。

■不器用だけど優しく、ユーモラスな探偵役が新鮮だった『探偵物語』

現実から夢の世界へと入り込んでいく大正期の劇作家を演じた、鈴木清順監督の『陽炎座』(81)をプロローグとして、83年には森田芳光監督と組んだ『家族ゲーム』に主演。普通のサラリーマン家庭に不穏な空気を持ち込む風変わりな家庭教師を、ユーモアを交えて演じ、松田はこの年の映画賞で主演賞を総なめにした。これによってアクション俳優のイメージから完全に脱し、演技派として誰もが認める存在になった。

この時期に松田が出演したのが、赤川次郎原作、根岸吉太郎監督による角川映画『探偵物語』である。アメリカに旅立つ、薬師丸ひろ子扮する女子大生のボディガードを依頼された松田演じる探偵が、殺人事件に巻き込まれ、事件の究明に乗りだすミステリーである。松田はこれまでの肉体派の探偵役とは違い、どこか不器用でユーモラスな男を演じている。年下の女性の気持ちに寄り添っていく人間的な柔らかさが、ここでの彼の魅力だ。今回のBlu-rayでは、作品本来の色彩設計の復元を目指したニューマスターを作成。印象的な主演2人のキスシーンも含め、公開当時の色彩が味わえるソフトになっている。

■演技の深さ、肉体表現のすべてをぶつけた気迫に圧倒される『ブラック・レイン』

『時をかける少女』(83)と2本立てで大ヒットした『探偵物語』のあと、松田は再び森田監督と組んだ『それから』(85)、吉田喜重監督の『嵐が丘』(88)、深作欣二監督作で吉永小百合と共演した『華の乱』(88)と文芸大作に主演する傍ら、『ア・ホーマンス』(86)では初の映画監督にも挑戦。表現者としての幅を広げ、演技者としても深度を増した彼が次に向かったのはハリウッドだった。

リドリー・スコット監督、マイケル・ダグラス主演で高倉健と共演した『ブラック・レイン』(89)で、松田はマイケルと高倉の刑事コンビが追う凶悪犯の佐藤を演じた。刑事たちを嘲笑うかのような不敵な存在感と、非情さに徹した鋭いアクション。これまで培ってきた演技の深さと肉体の表現をすべてぶつけたような気迫が、佐藤役の彼にはある。だがこの時の松田は、すでに病に侵されていた。『ブラック・レイン』は日本で1989年10月7日に公開されたが、松田は公開中の11月6日に亡くなった。

稀有なアクション俳優から演技派俳優へ。そして世界から称賛を浴びる直前で、突然松田優作は姿を消した。彼が伝説的なのは、着実に高みを目指して自分のエネルギーを燃やし続えたその俳優人生の歩みもそうだが、人生の幕引きが衝撃だったことも大きい。そんな彼の代表作『人間の証明』と『探偵物語』の2本によって、松田の魅力を再認識してもらえるとうれしい。

文/金澤誠


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