「ほんまに赤字経営ですわ」笑い飯・哲夫がそれでも格安塾を続ける理由。“子育て中のイライラ”対処法も伝授

漫才師・塾経営者笑い飯・ 哲夫

「ほんまに赤字経営ですわ」笑い飯・哲夫がそれでも格安塾を続ける理由。“子育て中のイライラ”対処法も伝授

3月8日(金) 8:52

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日本一の漫才師は、教育にも力を注いでいる――。笑い飯・哲夫といえば、’02年から9年連続でM-1グランプリ決勝に進出し、’10年には優勝の栄冠を手にした「笑い」のプロフェッショナル。実は約10年前から、大阪市淀川区で地域の子どものために寺子屋(格安の補習塾)を経営していることはあまり知られていない。「塾はほんまに赤字経営ですわ」と笑い飛ばす男が、ボケではなく、子どもたちの教育についてホンネで語ってくれた。

子どもは「がんばらない教育」で強く育つ

――週刊SPA!の連載「笑い飯・哲夫の寺子屋子どもを幸せにするシン・教育論」をまとめた単行本『がんばらない教育』(扶桑社刊)が発売されました。連載中に寄せられた相談・回答で印象に残ったものは?

哲夫:「何でも『論破』しようとする息子の言葉遣いが心配」というお父さんからの相談への回答は、自分でも好きですね。冒頭で「ヤンキーにしばいてもらうのが一番いい処方になるのでしょうが、暴力はよろしくないので、ほかの処方を考えたいと思います」って書き始めたんですが、……こだわりはアタマの入り。芸人の性か、どうしても笑かしたくなるんです。

文字のお笑いって、喋りのそれとはちょっと違うし、相談者への回答は毎回、ネタを一本作る感覚でした。もちろん、お子さんを心配する親御さんからの相談ですから真剣に回答してますし、「教育」という大枠から出ないようにしていました。

言葉狩りが本質を見失わせる


――一冊にまとめる作業のなかで、日本の教育で気になった点はありましたか?

哲夫:個人的には、現代の“言葉狩り”がひどいと感じます。だから、あえて今回の単行本でも“直接的な言葉”を結構書きましたが、担当編集にちょっと直されてたみたいですね(苦笑)。当たり前に差別のない世界のためには、言葉の配慮は必要。ただ、“世間に気を使いすぎた言葉”を、子どもに伝えるのはいかがなものか。

例えば、子どもの自殺が社会問題化する一方で、「自殺」という言葉を使うのが憚られ、「自死」と言い換えられる……。「自殺」という言葉には、やってはいけないという戒めの意味がある。もちろん、自らを殺す「自殺」という言葉が偏見や差別を生みかねず、ほとんどが追い込まれた末の死だから「自死」とするべきという意見はわかりますよ。

でも、自殺すれば自分の人生が終わってしまうだけでなく、みんなが悲しむし、人にも迷惑がかかる。どんな言葉を用いるかよりも、こうした肝心なことすら子どもたちに教えてはいけないような風潮には大きな違和感を覚えます。

――現在、「自死」という表現がもっぱら使用されるのは、’00年にWHO(世界保健機関)が自殺防止を目的に発表した「自殺報道ガイドライン」の影響が大きいとみられます。

哲夫:言葉狩りの横行は、メディアの責任も大きい。だから、僕は自分自身が発信する“メディア”となってできることをやっていきたい。

そんな意味もあって始めたのが地域教育です。学校の先生も、親御さんも忙しい。おじいちゃん、おばあちゃんに子どもの面倒を見てもらおうと思っても、高齢化や核家族化で叶わず、おのずと子どもは内向きになり、家に閉じこもることになりがち……。地域が子どもを見守り、育ててあげることが大事です。

ウチの地元には、いまだに戦前の「隣組」が残っていて、近所のおっちゃん、おばちゃんが忙しい親の代わりに地域で子どもの教育を担ってます。

――まさに著書のタイトル『がんばらない教育』と重なります。著書でも「がんばらない」=「ムリしない・期待しすぎない・心配しない」の3つの柱に沿って、繰り返し説いていました。

哲夫:子育てをしている親は、誰しもイライラするもの。それは、親が「自分だけががんばっている」と思い込んでいるから。では、このイライラをどう解決するか。がんばっていると思わないようにすればいいんです。子どもはいい意味でほっといて、ある程度は自由にやらしてあげる。

ところが、親は子どもにいろいろやってあげたがる。ウチの妻もそうで「まだまだ、やってあげんと」と世話を焼きたがりますが、僕が「子どもにやらせたらいいがな!」と早いうちからほったらかしてます(笑)。

――とはいえ、子どもに任せても失敗するからやってあげたい、という親は多い……。

哲夫:人さまに迷惑をかけない限り、失敗は成功の手前の段階と受け止めましょう。もちろん、子どもは三度、四度と失敗を重ねますよ。でも、教育で大事なのは反復。繰り返し教えてあげることです。
自転車の乗り方も、子どもが何度も危ない思いをしながらも、「そのやり方は危ない」「それは違う」と繰り返し教えて、ようやく乗れるようになる。成功も失敗もして、子どもは大人になっていく。外の世界に飛び出さないで、自分の枠のなかで成功だけを重ねてもね……。他人の痛みがわからない、傲慢な大人になりかけない。もっと大きな枠があることを教えてあげたい。

今の大人は子どもから「危険」を奪いすぎる

――今の日本の教育は、大人が子どもから「危険」を奪いすぎている感さえあります。だから、「論破しようとする息子が心配」という親の相談に、「ヤンキーにしばいてもらう」という哲夫さんならではの教育論が多くの人の心に刺さるのでしょう。

哲夫:危険を奪うと、子どもの冒険心は育ちません。僕はそうした危険や冒険心を堪能できるユル~い時代に、子ども時代を過ごした(笑)。例えば、今、未成年がタバコを買おうとしても年齢確認を求められるし、かなり難しい。でも、昔は中学生が「親に頼まれた」と言えば簡単に手に入れられた。

でも、体がニコチンを欲してタバコを吸いたい中学生なんていませんよ。単に大人ぶったり、背伸びしたいだけ。昔は、中学生くらいから火遊びができたように、背伸びをしてもいいモラトリアム期間を社会が許していたので、子どもは危険な思いをする一方で、冒険心を発揮できました。

――中学生の哲夫少年は、どんな危険な目に遭ったのですか?

哲夫:僕の祖父は二人称に基本「ワレ」を使う人で、僕に対しても「ワレ、まだ寝とんのか」とか普通に話していたんです。そんな影響もあったのでしょう。中学生のときに地元のヤンキーに普通に「ワレ」と言って、「誰に向かって口利いとんのや!」と凄まれたり(苦笑)。

社会の仕組みを、子どもは言葉を通して覚えていくもの。まぁ、僕らの時代はそもそもヤンキーが多すぎたというのもありますが(笑)。今の子どもは電車に乗っていても、当時のヤンキーとは雲泥の差で真面目。もうちょっと暴れん坊でもいいかな、とは思います。たまに、そういう力があり余っている子を見ると、微笑ましくなっちゃいますね(笑)。

――近年、不登校が増加していますが、学校に行きたくないなら、無理して行かなくていいという考え方が主流です。

哲夫:授業とは子どもにとって忍耐の場で、苦行でしかない。でも、それを経験したから忍耐強くなれる。ところが、今の学校はまるで“おもてなし教育”。僕が小中学生の頃、授業は屁との闘いでした(苦笑)。屁をこきたいならご自由に、では修行になりません。みんな我慢してんねん、僕だけラクしたらあかん、って耐えてました。一人だけラクさせたらあかんということ。

それでも、どうしても学校に行きたくない子は行かなくてもいいけど、何もしなくていいのとは違います。学校に行けば授業という名の修行が待っている。行かないなら家で何の修行をするんだ?ということです。

寺子屋は‟僕の教育の原風景”

――子どもの教育への思いの源泉は何なのでしょう?

哲夫:大学生の頃は教師を目指したこともあり、今は学校の先生を前に講演会で喋ったり、夢が叶ってそれが仕事にもなってます。地域教育にも力を入れたくて始めたのが寺子屋です。

僕は子どものときに、地域のおばあちゃんがやっている月謝3000円の塾に通っていた。今、経営している寺子屋は、僕の教育の原風景。こうした地域教育が全国に広がればいいな、という姑息な目論見があって表に出したんですが、僕の考えに賛同してフランチャイズで寺子屋をやりたいという申し出もありました。ほかの看板でも名前でも構わないから、なんぼでもやってくれと伝えてます。

――芸人、塾経営、農家、仏教マニア、花火の解説やプロデュース、そしてわらじ作り教室と、実に6足のわらじを履く多才ぶりですが、大河ドラマデビューで俳優の顔が加わり、7足のわらじになりました。

哲夫:確かに大河もお褒めいただきましたが……いやいや、演技指導がよかっただけです!大人になっても挑戦し、成功・失敗で新たな自分を知ることができますからね。足は2本だから、7足じゃなく切りよく8足のわらじにしたいですね(笑)。

<取材・文/齊藤武宏撮影/うちだ とよひこ>

【笑い飯・哲夫】
’74年、奈良県生まれ。県下随一の進学校・県立奈良高校から関西学院大学文学部哲学科に進学。卒業後の’00年に西田幸治と笑い飯を結成し、’10年、M-1グランプリ優勝を果たす。『がんばらない教育』『えてこでも分かる笑い飯・哲夫訳 般若心経』ほか著書多数

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