“斜陽産業”の製紙業界でも明暗が。「業界2位」は巨大工場建設が裏目に

日本製紙 有明倉庫(J_News_photo - stock.adobe.com)

“斜陽産業”の製紙業界でも明暗が。「業界2位」は巨大工場建設が裏目に

3月7日(木) 8:53

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中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

花粉症シーズンが到来し、多くの人がティッシュの欠かせない時期になりました。斜陽産業とも言われる製紙業界ですが、 「ネピア」や「鼻セレブ」で知られる業界トップ・王子ホールディングスの業績は好調です。

エネルギー価格高騰の逆風が吹くも黒字を堅持

王子ホールディングスの2023年4-12月の売上高は前年同期間比0.3%減の1兆2923億円、営業利益は同5.3%減563億円でした。 わずかな減収、営業増益ですが、本業で稼ぐ力を表す営業利益率は4.4%。日本製紙の1.1%、大王製紙の2.2%と比較をすると高水準にあります。

紙の原料となるパルプの製造は、木材チップや古紙から繊維を取り出す工程があります。高温、高圧で煮るため、大量の燃料と電気を欠かすことができません。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰した2022年は、多くの製紙会社が赤字に転落しました。 日本製紙は2023年3月期に269億円、大王製紙は214億円の営業損失をそれぞれ計上しています。

しかし、 王子ホールディングスは3割の営業減益に留めました。 1兆7000億円の売上高のうち、生活産業資材が半分ほどを占めています。このカテゴリの中に、身近なティッシュやオムツなどが含まれていますが、 主力となっているのが段ボールと板紙です。 板紙とは、箱などに使われる厚手の紙、ボール紙です。

「個人向け段ボールの需要が伸びる」予想が的中

王子ホールディングスの2023年3月期における、板紙の販売金額は2351億円。前期比309億円のプラスでした。段ボールは2141億円で、167億円増加しています。

板紙は販売数量がわずかに減少しましたが、単価が15.2%も上がったことにより、大幅な増収となりました。段ボールの販売数量は2.0%、販売単価は6.4%と、それぞれ増加しています。

段ボールはコロナ禍で需要が増加しました。しかし、その反動で2023年は低迷し始めますが、製造原価が上がるタイミングで価格転嫁を進めることができました。 強気の値上げができるのは、高シェアを獲得している企業の特徴です。

段ボールの業界トップといえばレンゴー。この領域に王子ホールディングスは勝負を仕掛けました。

2018年9月に段ボール工場の建設を決定。120億円を投じて、年間1億2000万平方メートルを生産するという、国内最大級の製造拠点でした。インターネット通販で、個人向けの需要が膨らむと読んだのです。 この工場は2020年に稼働を開始しますが、コロナ禍による需要増というまさかの追い風を受けることになりました。

「業界2位の日本製紙」は巨大工場建設が裏目に

苦戦しているのが、業界2位の日本製紙。 2023年4-12月の売上高は前年同期間比3.0%増の8745億円、93億円の営業利益(前年同期間は227億円の営業損失)でした。

同社は、第3四半期の決算と同時に通期業績の下方修正を発表しています。2024年3月期の売上高を1兆2300万円と予想していましたが、600万円マイナスの1兆1700万円に改めました。同時に営業利益を240億円から190億円へと引き下げています。

日本製紙は2021年に釧路工場の製紙事業から撤退しました。秋田工場の一部閉鎖も検討しています。 王子ホールディングスとは反対に、エネルギー価格高騰の影響を跳ね返すことができず、採算が悪化しているのです。

2007年に630億円を投じて、洋紙を生産する工場を建設しました。デジタル化が浸透しきっていなかった当時、オフィスなどで使用される印刷用紙、チラシ、カタログ、書籍などの紙需要が旺盛でした。グループ最大となる巨大な生産拠点を構え、シェアの獲得に動きます。一時は好業績をたたき出すものの、リーマンショックによる景気の冷え込み、東日本大震災での工場の被災など、逆風が吹き荒れました。それに加え、 デジタル化によって印刷用紙の需要が減退します。

2022年に石巻工場にある最大の生産設備を停止。トイレットペーパーやティッシュなどの家庭紙の製造への転換を進めました。なお、 日本製紙の2023年3月期の印刷用紙の生産数量は、前期と比較して1割も減少しています。

段ボールの需要は早くも減退気味だが…

生産拠点には巨額の設備投資費が必要。工場の規模も大きく、数百人の従業員が働いています。製紙会社は、消費者や企業、時代の目まぐるしい変化を簡単に受け止められるわけではありません。 生産拠点拡大の決断が当時は正しいものだったとしても、二十年ほどすると需要が大きく変化していることもあります。

印刷用紙はコロナ禍を境に、急速に出荷高が減少へと転じました。

ただし、段ボールの需要は決して急増しているわけではなく、ほぼ横ばいが続いています。足元では、 段ボールの原紙の在庫量が過去最高水準を記録。 過剰生産気味になっているため、原紙メーカーは生産調整を行っているといいます。

王子ホールディングスの段ボール生産強化が、中期的にプラスへと働くのか。 需要が一巡したこれからの真価が問われます。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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